『怪獣8号』主題歌で描かれる不条理な世界と希望 YUNGBLUD&OneRepublicが寄せる原作へのリスペクト
怪獣大国・日本。ゴジラが最も象徴的なように、この国では、映画、ドラマ、アニメ、マンガをはじめとした様々なエンターテインメント作品の中で数え切れないほど多くの怪獣が生まれている。そして、それらの多くは海外でも広く愛されていて、今や怪獣(KAIJU)という言葉は、そのまま海を越えて通用する日本語の一つになっている。最近のトピックスを挙げると、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が日本映画として初めてアカデミー賞・視覚効果賞を受賞。また直近では、4月26日の日本公開を控えている「モンスター・ヴァース」シリーズ最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』が、2週連続で全世界興収1位を記録する大ヒット作となっている。
そして、こうした流れの中で日本国内外から大きな注目と支持を集めているのが、4月13日から放送が始まったアニメ『怪獣8号』だ。原作は、2020年より「少年ジャンプ+」で連載中の松本直也による同名マンガ。ずっとアニメ化を期待されていた人気作で、アニメ化決定の報せが出た時は大きな話題となった。何よりも驚くべきは、その座組みである。アニメーション制作は『攻殻機動隊 』シリーズや『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズをはじめとした数々のSF作品の名作を世に送り出し続けているProduction I.Gが担当。怪獣デザイン&ワークスは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの制作や『シン・ゴジラ』のプリヴィズ制作などを手掛けてきたスタジオカラーが務める。この座組みを見て、今作に対する期待値が一気に高まったという人は多かったはず。そして、ついに迎えた1話の放送時には、史上初の試みとして、X(Twitter)で全世界リアルタイム配信が行われた。その野心的な企画からは、今作を日本だけでなく世界へ広く届けたいという製作陣の深い想いが伝わってきたし、実際にリアルタイム配信を通して、海を越えた大きなムーブメントが巻き起こった。
日本から世界へ、という観点で特筆すべき点は、海外のアーティスト2組がオープニングテーマとエンディングテーマをこの作品のために書き下ろしていることだ。オープニングテーマは、YUNGBLUDの「Abyss(怪獣8号OPテーマ)」。エンディングテーマは、OneRepublicの「Nobody(怪獣8号EDテーマ)」。日本のアニメや映画のテーマ曲として、海外アーティストの既発曲が起用されるケースは過去にもあるが、今回のように書き下ろしというケースは非常に珍しい。2曲とも、歌詞は全て英語であるが、その内容を紐解いていくと、原作マンガへの深い理解とリスペクトに基づいて歌詞が綴られていることがよく分かる。
まず、YUNGBLUDが書き下ろしたオープニングテーマ「Abyss」について。YUNGBLUDは、1997年生まれのソロアーティストで、近年、全世界的に加速し始めているロック復権のムーブメントを力強く牽引する新世代アーティストの一人である。2022年8月には『SUMMER SONIC 2022』で初来日を果たし、2023年11月には幕張メッセで開催されたBring Me the Horizon主催フェス『NEX_FEST』に出演、続けて豊洲PITで単独公演を行ったため、すでに彼のライブを体験したことがある人も多いはず。
今回、YUNGBLUDがオープニングテーマとして書き下ろした「Abyss」は、彼にとって親交の深いImagine Dragonsのダン・レイノルズとの共作曲で、アニメ公式サイトのインタビュー映像では、昨年の来日時に東京で予約したスタジオで『怪獣8号』のストーリーを読みながら楽曲を作ったエピソードが語られている。また、そのインタビュー映像の中で彼は、「主人公(日比野カフカ)が経験する戦いや葛藤にすごく共感したんだ」と語った上で、「この曲を『Abyss』と名付けたのは、文字通り日比野カフカが経験することを表しているんだ」「底知れない深淵に落ちて、自分が何者か、これからどうなるのか、なんのために生きているのかというのを人生の中で探し出していくんだ」「世界は残酷で必ずしも自分たちのために作られたわけではないと感じる時があると思う。それは物語の中でとても美しく表現されているし、僕自身が目指すものと本当に一致していると思う」と語っている。
これらの発言から、極めてシリアスで不穏なフィーリングに満ちた「Abyss」の曲調は、カフカが直面する世界の残酷さを表していることが分かる。『怪獣8号』は、随所にギャグが散りばめられたコミカルな部分も魅力の作品だが、そうしたストーリー全体に通底する絶望感から目を逸らさずにまっすぐに見据える観点は、ロック表現を通して現実と真摯に向き合い続ける彼らしいポイントと言える。一つひとつの歌詞を見ていくと、〈君の瞳に蘇る いつかの地獄〉というはじまりの一節は、小学生時代のカフカと亜白ミナの悲痛な原体験を想起させるもので、〈孤立無援を覚悟して 破滅の予感に襲われて それでも頭を切り替えて挑め〉という歌詞からは、怪獣と化してしまったカフカの孤独や葛藤、それらを乗り越えて戦いに身を投じていく決死の覚悟を読み取ることができる。
また、〈もしもの時は、君が解き放ってくれるかい? Oh 制御不能なこの怪獣ごと! Oh oh!〉という歌詞は今後の展開を予感させ、その後に幾度となく繰り返される〈救ってくれないか 誰か...〉は、カフカの心の叫びを代弁しているかのような切実な響きを放っている。このように、歌詞とストーリー、およびサウンドのテイストとオープニング映像の世界観(怪獣の得体の知れなさ、異形さを全面に押し出したハードなテイスト)が見事に合致しているのは、やはりこの曲が完全書き下ろしだからこそだろう。
今回のアニメをきっかけとして初めて彼の音楽に出会った人は、ぜひ、2022年のアルバム『YUNGBLUD』や、『NEX_FEST』のステージで披露された「Happier (feat. Oli Sykes of Bring Me The Horizon)」なども合わせてチェックしてみてほしい。