秋山黄色、“自分との対バン”で示した歌う意義 観客一人ひとりと心重ねた『BUG SESSION』

 そして特に興味深かったのが、後半のソロ編成だ。転換を終え、ステージを隠していたカーテンが開くと、そこにはすでにスタンバイしている秋山の姿が。ステージ上に組まれた四角形の台の上にはギターやキーボード、いろいろな機材が配置されていて、宅録部屋を思わせるセッティングだ。秋山はギターで弾いたフレーズやボディを叩いて鳴らしたリズムをその場でサンプリング&ループさせたのち、それらの音を全てストップさせてから、力強いバッキングとともに歌い始めた。1曲目はバンド編成と同じく「やさぐれカイドー」だ。

 最初の3曲はギター弾き語りだったが、4曲目以降はその場でサンプリングした音をループさせたり、サンプリングパッドを叩いたり、バンドサウンドを同期で流して歌やギターを重ねたり、伴奏を完全に同期に任せてノリながらハンドマイクで歌ったりと、様々なアプローチを見せた。「ただの弾き語りじゃつまらない」と言わんばかりの展開が痛快だ。同時に、制作部屋を覗き見させてもらっているようでもあり、ライブ中には、ヒトリエやKEYTALKの曲の一節をふと口ずさむ場面も。また、手元や足元での操作が多いことから、「あー、二度とやりたくねえ!」「この動き、音楽じゃなさすぎる。スポーツだよね」と笑っていた。

 このソロ編成は秋山にとって“元来のスタイル”だという。「俺はもともと友達とバンドをやりたかったけど、それができなかったから一人でやってて。バンドメンバーが揃うのって奇跡ですよ。ワンルームでこういうことを永久にやってるヤツはいっぱいいる。僕もその中の一人でした。これより狭い部屋で……六畳間でずっとジャカジャカやってましたから。そういうヤツがセッションできるのは恵まれてる。みなさんのおかげです」と語りつつ、「一人だと“愛してる”とか歌わなくていいから、人と喋るよりも本音が出たりする」という極めて個人的な形態で、目の前の観客と向き合った。過去のインタビューなどでもたびたび語られているように、「音楽は本来エゴイスティックなものであり、自分はそんなに大した人間じゃない」「そんな自分でも音楽が持つ“人を救う力”を信じたり使ったりしなきゃいけない時代だ」と葛藤しながら表現の在り方を探ってきた秋山にとっては、“大勢のリスナーの前で極めて個人的なことを行う”ということが重要だったのではないだろうか。「一人になっちゃったけど、本当はここに友達がいたわけです」と話したあと、不在を見つめながら歌い始めた「Caffeine」には割り切れない心が投影されていて、生身の歌を受け取った観客はこの日一番長い拍手をステージに届けた。そしてその拍手を受けて、秋山がまた新たに語り始める。本当はツーマンをやるなら呼びたい人と思っていた人がいたが、コロナ禍で亡くなってしまったのだそう。

「やさしさを返してあげたいですが、もういませんから、貰うしかないわけです。すごくありきたりなところに着地しますけど、歌うしかないわけです。それをみんなが聴いて、明日頑張る。助けられるようなら(誰かを)助けてください。助けられない時は寝てていいよ。みんなが思ってるより、あなたが助かれば喜ぶ人が周りにいる。(中略)ライブに来れば、みんなばっちり生きてますよ。いつだってセッションしに来てください。俺はデカい音出しに来てるんじゃなくて、デカい声聴きに来てるんだからね。お前らの声聴きたくてやってるんだから」

 そんなMCのあと、キーボード弾き語りで披露した「PAINKILLER」では、一つひとつの言葉を届けるように歌唱。〈居てくれ〉というメッセージは一人ひとりの心に確かに光を灯したはずだ。2曲披露したアンコールのうち「猿上がりシティーポップ」では、「バンドセットの時より客がデカい声出してたって、ライブレポートに書かせようぜ!」とステージ前方に出ていき、マイクを通さず、観客と一緒に声を重ねる。その大合唱には観客が秋山にもらったもの、秋山が観客にもらったものがぎゅうぎゅうに詰まっていた。

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