BREIMENは踊らせるだけのバンドではない 強靭なグルーヴの奥にある“現実と向き合う眼差し”

 ライブの興奮を閉じ込めたような凄まじいホーンセッションが鳴り響く中で、うねりを上げるグルーヴの猛獣をリズム隊が的確に手懐けながら空間に熱狂をもたらしていく。ギターやキーボードも負けじと縦横無尽にフリーキーな音色を掻き鳴らし、アバンギャルドという他ない凄まじい状況が徐々にピークへと向かっていく。そうして訪れた「ここだ!」というタイミングで、見事なしゃがれ声のロックボーカルで演奏を牽引してきた男がキメの一言を放つーー。

〈「オレは死んでもタバコをやめないゾ」〉

 「何だって?」と思わず「LUCKY STRIKE」の歌詞カードを取ると、実はこの曲がタバコ(あるいはそれを吸う自分自身)への愛情を表現するためのものだったことに気づかされる。非喫煙者としては思わず肩透かしを喰らったような気分になるが、じゃあこれがクールではないかというと全くそんなことはなく、〈必と要の押し売りにnope〉といった言葉の数々は、まさに今、最もいろいろなところで隅に追いやられているタバコという存在を想像することによって、より鋭利なものとなって聴こえてくる。煙に撒かれたようで、実はさっきよりも惹きつけられている。BREIMENの最新作『AVEANTIN』にはそんな一筋縄ではいかない瞬間がギッシリと詰まっている。

メジャーでも相変わらずシーンを挑発的に掻き乱すBREIMENの姿

 4月3日にリリースされた『AVEANTIN』は、BREIMENにとって通算4枚目のアルバムであり、満を持してのメジャーデビューアルバムとなる作品だ。これまで、その確かな演奏技術と、ファンクを基軸としつつも、ロックやヒップホップ、ダンスミュージックなどジャンルの垣根を自由に超えたサウンドセンス、挑発的でありながらも遊び心に満ちたユニークでクールな存在感で音楽シーンの注目を集めてきた彼らが、いよいよ本格的に表舞台へと躍り出る。本作は、まさにその幕開けを告げるアルバムなのである。

BREIMEN MAJOR 1st ALBUM『AVEANTIN』TEASER MOVIE

 「メジャーデビューアルバム」と聞くと、より万人に向けた音に仕上がっていたり、聴きやすいものになっていることを想像するが、アルバムの1曲目を飾る「a veantin」を再生した段階でそれが杞憂だったことを痛感させられる。色々な角度から聴こえてくるアルバムタイトルを告げるたくさんの声に囲まれる中で感じるのは「困惑」の一言だ(というかなぜ、この曲では一つの単語ではなく「a veantin」と表記されているのだろう? そもそも『AVEANTIN』って一体何なのだろうか?)。しばらくすると期待していたファンクサウンドを楽しむことができるのだが、聴いているとどうにも掛け声の様子がおかしい。そんな調子で翻弄されるままに先行シングルとしてすでに配信されている「ブレイクスルー」へと突入する構成の時点で、BREIMENの挑発的なユーモアにすっかり惹きつけられてしまっている。

BREIMEN「ブレイクスルー」Official Music Video

 一見するとライブでの盛り上がりが目に浮かぶようなストレートなキラーチューンとなっている「ブレイクスルー」だが、よく聴いてみると随所に捻りの効いた仕掛けが施されており、聴くたびに新たな発見があることに驚かされる(これをバンドでコピーしようと思ったら、きっと相当苦労するのではないだろうか)。だが、それが楽曲の小難しさではなく、無我夢中なドライブ感をさらに強める方向に機能しているのが、このバンドの異様なプレイヤースキルの高さを物語っている。さらに言えば、そうした仕掛けやスキルの数々が〈革命って訳じゃない/解放したいだけ〉、〈移ろう時代を今 生きて生きて〉というメッセージを伝えるという一点に結実しているというのが何よりも凄まじい。聴いていると確かに翻弄されるのだが、重要な言葉やタイトルを体現したような楽曲の力は確かに身体へと入ってくる。さらにそこから、持ち前の言葉遊びの妙がぎっしりと詰め込まれた80'sディスコファンクな先行曲「乱痴気」を聴く頃には、もうあとは何が来てもいい、とりあえず踊ろうという感覚に陥ってしまうのである。

BREIMEN「乱痴気」Official Music Video

 4曲目を飾る「ラブコメディ」は本作の中でも随一のスウィートなラブソングだが、楽曲に合わせてそれぞれの楽器がより優しい手触りの、アナログ感のある音で録音されているのが興味深い。さらに続く「眼差し」もウォームな楽曲ではあるのだが、そこで歌われているのは成長した今の自分から見た母の姿であり、どこか過ぎ去っていく人生に対する哀愁のようなものを感じさせる。人を食ったような自由なファンクで満ちている一方で、本作にはどこか、生命という儚い存在に対するやるせない想いも描かれているのが印象的だ。そう考えると、この流れを経てたどり着く「LUCKY STRIKE」の意味がまた違って聴こえてくるのは筆者だけだろうか。

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