SHE'S、初のビルボードライブで見せたバンドの深化　新曲も飛び出した特別な一夜をレポート

　SHE'Sが初のビルボードライブ公演を東京、大阪で開催。本稿では、3月30日に行われたBillboard Live TOKYO公演 第2部の模様をレポートする。『SHE "Zoo" SAFARI in Billboard Live』と題された本公演は、オフィシャルファンクラブ「SHE"Zoo"」とBillboad Liveの共同企画。普段とは違うシチュエーションは彼らにとって憧れであり、またライブアレンジや選曲に新たなテーマが生まれるいい機会だ。

　ニューシングル「Memories」がこれまで以上にコーラスの存在感が強い曲だったことから、ライブでもコーラス隊が導入されるのでは？　とヤマを張っていたところ、ステージに2台の譜面台を発見。ライブが始まる前から予感的中になおさら期待が高まった。

　結果的にトータル13曲のうち「Tonight」以外の12曲でコーラスが参加。音源では井上竜馬（Vo/Key）のボーカルを重ねたり、コーラス隊が参加している楽曲をいかにライブアレンジするのかがひとつのポイントであり、コーラスを生で導入する意図をライブを通して知ることにもなったのだ。しかも「Memories」は、ビルボードライブを見越して作曲したということを終演後、井上から聞いた。この会場で披露するためのライブアレンジを作っただけでなく、新曲まで作ったわけで、この事実には少なからず驚かされた。もちろん、その想いの具現化は成功していたと言える。

　Billboard Live TOKYO名物、背後のカーテンを1曲目からオープンする演出で意表を突いたが、「Crescent Moon」のアトモスフェリックで少し酩酊気味の世界観がしっくりハマる（ただ、日没よりも開演が少し早かったこともあって月は拝めなかったのだが）。AOR寄りのこの曲でさっそく佐々木詩織と土屋飛鳥のコーラスが威力を発揮。服部栞汰（Gt）のクリーントーンのオブリガードも粋だ。続く「No Gravity」では最近レギュラーでサポートしている永田コーセー（Sax）のサックスも映える。さらにゴスペルクワイア風のコーラスが曲のフックになっている「Imperfect」はストレートに今回のライブアレンジが嬉しい仕上がりに。しかもレストランバーというシチュエーションが、洋画で観た景色に自分がいるような体験を生み出して、オーディエンスから新しい表情が溢れるのも、ステージにいい影響を与えているように思えた。

　コーラスの威力はR&Bテイストの曲だけでなく、フォーキーな「パレードが終わる頃」やオーセンティックな「In the Middle」でも。また、大きなライブハウスやホール公演でも基本的には曲に対して献身的なプレイがデフォルトのSHE'Sのプレイが、ジャズクラブ的なこの会場ではより鮮明に音で理解できる。広瀬臣吾（Ba）の端正なプレイあってこその、2020年代以降、ホーンとコーラスで醸し出す現行ポップチューンのモダンな音像が「So Bad」でリアルに届いたのだ。しかも焦がれる想いがセンシュアルなムードを纏うこの曲と、すっかり夜の帳が下りた街を背景にしたシチュエーションにハマる。パーソナルな近さを感じる曲との相性のよさはこの場所で実証された感もあった。

　13年を数えるバンドのキャリアの途上で新しい環境でのライブが実現した喜びとともに、バンドという旅の途上を表現する「ミッドナイトワゴン」を選曲したのも非常にいい流れ。服部のアコギ、抑えた木村雅人（Dr）のミニマムなビート、続いていく道を感じさせる広瀬のベースが淡々と積み上げられていく先に、転調後のコーラスのロングトーンが夜明けの光のように感じられ、時間経過をシンプルで豊かなアンサンブルで披露してくれた。音源よりラウンジーな印象もあった「月は美しく」や、心が揺さぶられる内容を比較的クールな音像で届けた「Tonight」も、今回のライブアレンジならではの印象を残す。