THIS IS JAPAN、10年ぶりアルバムで見えてきたらしさ “目の前の人に向けてやる”スタンスへ

 2020年のメジャーデビュー以降、いや、その数年前からずっと、THIS IS JAPANの杉森ジャック(Vo/Gt)は悩んでいた。バンドはどこに向かうべきか、フロントマンは何を伝えるべきか。答えも出ないまま憂鬱なコロナ禍に突入したのが4年前のことだ。そこから生まれた5曲のシングルに新曲7曲を加えたニューアルバムのタイトルが『NEW JAPAN』だと聞いて、何かが変わったと感じた。ほとんどがシンプルなロックンロール、歌詞のテーマも似たものが多いが、「こうあるべき」の固さはない。「結局これがやりたい」という素直さが勝っているからか、風通しは驚くほどいい。ようやく完成した10年ぶりのフルアルバム、ようやく見えてきた自分たちらしさについて、4人に話を聞いた。(石井恵梨子)

“切なさ”に対しての解像度がちょっと上がった

一一この4年間、シングルごとに取材は続けていましたけど、改めて振り返ってみたいと思います。デビューシングルに「Not Youth But You」を選んだのはなぜだったんです?

THIS IS JAPAN 『Not Youth But You』【MV】

杉森ジャック(以下、杉森):これ、選んだっていうよりは、作った、だよね? 最初のデモを俺が作って、それをkoyabinが編曲して。

かわむら(Dr):うん。最初に聴いた瞬間「これでしょ。これが今一番いいでしょ」ってなったのは覚えてる。いっぱいある中からチョイスとか、そんな発想にもならなかった曲ですね。

一一その後に出る他のシングルに比べても、かなりポップな曲ですよね。

かわむら:でも「ポップなものをやろう」とかも考えてなかった気がする。毎回その時の一番いいやつを出していく感じで。結果、シングルにもいろいろ変遷はあるんですけど。

杉森:そうですね。メッセージって言うと大袈裟だけど、なんか言いたいこと、要はその時の自分の感情にフォーカスしてるもの。それか、衝動というか、「うおー、よっしゃあ!」みたいな気持ちにフォーカスしたもの。毎回その二つが俺の中にあるんですけど。でもメジャーデビュー曲ならずっと歌うだろうなと思ってたし。歌詞はかわむらくんですけど、いくつになっても歌える曲がいいなっていうのはありましたね。

一一今回のフルアルバムがこの曲で終わるのがすごく美しくて。4年前のリリース当時とは響き方が違うんですよね。

杉森:それは嬉しいですね。アルバムの最終トラックを「Not Youth But You」にしたいっていうのは、全曲が揃う前から話していたことで。ライブでも最後にやると締まる曲。「一応こういうことを考えてはいるんだ」っていうのを、自分たちらしい形で表せた曲だと思っていて。それはアルバムで聴くと余計思いましたね。作った当時はそこまで客観視できてなかったけど。

かわむら:我々けっこう飽き性だから、よく「古い曲はやらなくていいか」って思う時もありますけど。この曲はなんやかんや、最後にやるといい曲なんだよなって今も思う。付かず離れず、共にやってきた友達みたいな。

一一この曲が出てすぐ、コロナ禍が本格化していきましたよね。これから楽しみにしていたこと、実は期待していたであろうことが、その後どんどんガチャガチャになっていったと思うんです。

杉森:あぁ……。そうやって「ガチャガチャ」って言葉で表現されると、そう言えばその通りだったなと思う。想像とは違うことが起きた、みたいなことがいっぱいあったなぁって今思い出しましたけど。でも当時のことって、どんどん忘れていっちゃった(笑)。

かわむら:今「コロナの時期まじキツかったよね」みたいな話をすること、まずないですからね。当時フラストレーションが溜まる感じは間違いなくあったと思うんですけど、でも現状、ほんと思い出せない。

一一アルバムに、この4年が反映されているのかと思ったんですが。

杉森:当時のフラストレーションとかですか? いや、もうだって……4年前なら反映させた曲も作れたかもしれないけど。もう今さらね、その時の気持ちを思い出して作ろうとしても嘘臭くなりそうだし。それよりは最近思ってることをアルバムの主軸にした感じですね。

杉森ジャック

一一今回の新曲たちに通底しているのは、何かを一度諦めた感覚、だと思ったんです。

杉森:え、そんなふうに聴こえてたんだ。

一一あれ? 全然違いました?

杉森:あー……確かにアレか。最初の「LOVELY DESTRUCTION」とか。

THIS IS JAPAN『LOVELY DESTRUCTION』【MV】

一一そう。いきなり〈青い春 もう終わったよ〉宣言が出てくる。

杉森:諦念って言うんですか? もともとあった感覚だとは思うんです。あったけど、より、もっとどうでもよくなったというか(笑)。確かに〈青い春 もう終わったよ〉とか言ってますけど、これ言わないと、ただ〈イェーッ!〉って言ってる奴になるから。そういう人間ではないんですね、俺たち。ただ、一番言いたいのは「こういうことがありました……が、やっちゃいましょう!」っていうところだと思っていて。

一一それはわかります。アルバムも大半がそういう曲。

杉森:だから、そのイズムはもともとずっとあったもので。「カンタンなビートにしなきゃ踊れないのか」っていう曲も「いや、踊れないわけはないでしょう?」って言いたかったわけだから。まず諦念があって、その諦念に反発する時に生まれるエネルギーみたいなもの。そっちを歌いたい。諦念とか挫折が主題ではなくて。それがより伝わってたら嬉しいですね。

かわむら:挫折って一回成功した人がすることで、我々、一回も売れてないですからね(一同:笑)。もちろん思い描いたものに届かないとか、そういうのは常日頃からありますけど、今回大きな挫折があったわけではなくて。たぶんバンドを始めた頃から、何かが足りない、思い通りにならない、気に入らない世の中ってものはあって、それに対してバンドをやる。そういうスタンスはずっと変わらない気がしますね。

杉森:確かにそう。コロナをテーマにしたかったわけでもなくて。でも、挫折も何もないのって絶対嘘ですよね。生きていれば絶対、うまくいかないことは大なり小なりあって。「そういうのはありますけど、気にしないでいいんじゃない?」っていうのが自分の中にある楽観主義、実存主義の正体。「もう、そういうのはどうでもいいんですよ!」っていうのが一曲目から炸裂してるんだと思います。

一一「No Music」や「TENDER」も同じようなテーマの歌ですけど、こちらはエモ成分というか、切なさが大きく出ているような。

杉森:うーん。切なさ? ……どう?

水元太郎(Ba/以下、水元):いや、感じてもらうぶんにはいいと思いますけど。

一一自分たちから出したかったものではないと。

杉森:出そうと思って出す切なさって、嫌じゃないですか。

かわむら:強いて言えば、いつの間にか切ない年齢になってきた……。

杉森:老いか(笑)。

かわむら:でもまぁ、切なさに対しての解像度がちょっと上がったのは、自分たちでも感じます。それこそコロナ禍の前は、もっとフワッとした何かに対抗してたと思う。でもコロナ禍を経て、バンドを続けていく中で、ちゃんと見えてきたものが歌詞に出やすくなってきた。

杉森:確かにね。自分の頭にあること、ちゃんと本当に思ってることなのかどうかって、問いかけたいじゃないですか。俺はコミュニケーション取る時、器用にごまかしちゃう癖があるんで。でも音楽を作る時ぐらいはちゃんと思ったことを言わなきゃダメだと思うし。意外と切ない人間でした、っていうのはあるのかもしれない。聴いた人がそう感じるなら。

かわむら:あとは、強がりが減ったと思いますよ。

一一あぁ。その言い方が一番正しいのかもしれない。

かわむら:杉森がより素直に書いてるから、強がってる部分がなくなって。それはちょっと切なそうにも見えるんだけど、もともとそういう人間だってこと、俺たちはちゃんと認識してるから。

かわむら

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