堀江晶太・白神真志朗ら結成のPHYZ × 夢限大みゅーたいぷ座談会 音楽作家が抱く問題意識とVTuberの特異性

バーチャルの世界には生きづらさみたいなものがない(千石)

千石ユノ

ーーPHYZメンバーのこれまでの活動を見ていると、甲斐田晴さんや白玖ウタノさん、おめがシスターズ、越前クロニクルへの楽曲提供、VΔLZのライブサポートなど、VTuber周辺の仕事が多いですよね。それを踏まえて、ここにいる皆さんにVTuberシーンの魅力を聞いてみたいです。

堀江:僕はインターネット上がりの人間なので、ニコニコ動画やボカロのように特有のカオス感もありながら文化になっていくのを見届けるのが好きで、VTuberの文化にも親近感を持っていましたし、ずっと関心がありました。個人的にボカロシーンは一番かっこいい音楽をやっている場所だと思うんですけど、同じことをVTuberやライバーにも感じるし、キャラクター性を持ちつつ感情や意志もあるちぐはぐさ、魂もあるし世界観もあることの葛藤に魅力を感じていて、実際VTuberやライバーの方々に対して楽曲を書くときにしか入らない曲作りのスイッチがある気がしています。その葛藤が絶望的にむくわれない瞬間もあるし、華やかさと残酷さというか、VTuberシーンにしかない独自の匂いが、僕は好きでもあるし嫌いでもあるんですね。その辺りは自分のモノづくりの原点に近い気がして、言語化が難しいですけど、自分にとってはツボを押す何かがあるシーンですね。

仲町あられ(以下、仲町):ぼくは前からVTuberの文化自体が好きで、その「好き」の気持ちの根源はよくわからないんですけど、深く考えたときに、ビジュアル的な意味でも「好きな自分」になれることが一番の魅力なんじゃないかと思って。自分に自信がある人というのは、それだけでも魅力的だと思うので。で、実際に自分でやってみておもしろいなと感じたのは、新しい自分を知れるところ。ぼくたちは「夢(バーチャル)と現実(リアル)を飛び越えるバンド」というコンセプトを掲げてバンドををやらせていただいていて、バーチャルの姿はリアルとは少し違った、自分自身も知らない自分を映し出してくれる気がします。

千石ユノ(以下、千石):あたしは好きな時間に配信できるのがいいなと思っています。基本的に固定概念みたいなものがぶち壊れた世界なので、自分も活動を始めてみて、これまで当たり前と思っていたことを気にしなくていいというか、バーチャルの世界には一種の生きづらさみたいなものがなくて、ちょっとだけ生きやすくなった気がします。

白神:今の話は、VTuberやインターネット文化が持っている原罪だと思っていて。先ほどあられさんが「好きな自分になれる」と言ったけど、それは「自分自身を好きになる方法」ではなくて、「自分自身を好きなものに交換する方法」なんですよね。

堀江:今ここでそういう話する(笑)? まあ、おもしろそうなので聞いてみたいけど。

白神:VTuberは、誰でもなろうと思えば「好きな自分」の姿になれる。そうなると、バーチャルの世界から一歩飛び出したときに、自己肯定感は結局下がると思うんですよ。化粧が上手くなった結果、すっぴんの自分が許せなくなる現象のさらに極端な例というか。そう考えると、この文化自体がこの先どこに帰結するのか、興味深い反面、ちょっと怖いところもあって。ゆくゆくはAIや人工音声が進化して中の人も必要なくなるかもしれないとも思うし、そうなったときに、自分自身を覆っていたガワをはく奪された、ただ自己肯定感の低い人類だけが残されて、果たしてそれは幸せなのか? っていう。そう考えたときに、自分ないしPHYZが持つ役割は何なのか? ということをずっと考えています。

堀江:(夢限大みゅーたいぷのメンバーに向けて)これからこういう思想と戦っていくんだよ。

白神:別に俺は敵じゃないから(笑)! でも、僕にとっては「VTuberだから~」というのは特になくて、今回も実際にメンバーとやり取りしたうえで音楽を作っているわけだし、結局は「人間とのコミュニケーションをいかに大事にしていくか?」ということに特別性が見出されていく時代になっていくと思うんですね。それは作家業においてもそうで、最終的には人との結びつきみたいなプラットフォームが大切になっていくと思うので、その意味でも今自分がやっていること、PHYZがこれからやっていくことに価値が生まれるといいなと思っています。

左から峰月律、千石ユノ、仲町あられ、藤都子、宮永ののか

ーーでも、今お話しいただいた内容は、今回の「ビッグマウス」の内容にも繋がるところがありますよね。特にサビの〈フィクションじゃ救われないリアリティ〉というフレーズとか。

堀江:まさにそういう二律背反性がある曲だと思いますね。同じ方向を向いているけど、まったく反対の思想を持っている人たちが一緒に作っているので(笑)。「いけいけ!」っていう気持ちと、「これでいいのか……?」という気持ちと。

白神:今回はユノさんをフィーチャーした曲なので、楽曲を制作する前にミーティングの時間を設けてもらって、生い立ちからこの先のことに至るまで、根掘り葉掘りいろんなことを聞いたんですよ、夜中に3~4時間くらいかけて(笑)。で、あらかじめ「不満とか自分が嫌われるリスクがあるかもしれない話を持ってきて」と伝えておいたら、すごく考えてきてくれて。

千石:仮にネット上にそれが公表されてしまったら世界中に嫌われてしまうくらいの話を、3時間かけて吐き出させていただきました(苦笑)。でも、その話は「あたしはこうはなりたくない」「じゃあどうありたいか?」みたいなところに繋がってくるもので、自分のパワーに変換するための不満だと思うんです。それって普通に生きていたら、一生自分の中で消化するだけだったと思うんですけど、楽曲になったことによって、もしかしたら誰かが共感してくれるかもしれないし、自分1人のループで終わらなかったことにすごく感動して。今このときの「千石ユノ」として思っていることがギュッと詰まった結晶みたいなものができたことで、改めて活動を頑張っていきたいと思ったし、「もっとこうなっていきたいな」って考えるきっかけにもなりました。

堀江:それは良かった。

千石:でも、最初はすごく後悔したんですよ。あたしの不満や闇の部分をすごい勢いでぶちまけてしまったので、ミーティングが終わった後に「あんなものを押し付けてしまって、あたし、どうしよう……」って(苦笑)。でも、出来上がった楽曲が本当に素敵だったのでホッとしました。あたしが3時間かけてどんなことを話したのかは、この楽曲を聴いていただければわかると思います(笑)。

ーーPHYZは今回の「ビッグマウス」以降も、夢限大みゅーたいぷのサウンドプロデュースを手がけていくとのことですが、現状、どんな構想を思い描いていますか?

堀江:メンバーの配信を観ていて感じるのは、みんな等しく、ちょっとずつ様子がおかしい人たちだと思うんですね(笑)。それぞれの方向に様子がおかしいメンバーが集まっているバンドなので、それにふさわしい「様子のおかしい音楽」をやっていきたいと考えています。そもそもドラムとベースがいないメンバー編成で、ライブではユノさんがDJやマニピュレーターとしてリズムパートを回すことになるので、楽曲を作る際にもそれありきでアレンジメントを考えることができるんですね。そこは音楽面で非常に武器になると思っていて。ただ、本人たちも「様子のおかしさ」を売りにしているわけではないので、ちゃんと人懐こいメロディやキャッチーなフレーズもあってほしいし、でも歪なところもあって、カオスだけどハッピーに向かっていく。色んな音楽性やメンバーの人間性を反映しながら、メンバーとクリエイターが各々語り合いながら作っていくことを、サウンドプロデュースの軸にしていきたいです。

白神:1つ補足すると、彼女たちはVTuberや『バンドリ!』のコンテンツといった側面もあるけど、これから本物のミュージシャンになっていくことを目指していて、僕らはそのお手伝いをしている、というのが根源にあると思っています。今回の楽曲のテーマの1つに「偽物は嫌だ!」というのがあるのですが、彼女たちが現状においてプロのミュージシャンではないことは自明なわけで、「偽物になりたくない」と歌っている人たちが、本人たちは偽物であることを隠しているのはいいの? というようなことを、プロデューサーと2時間くらい話し合いました。でも「確かに今はしょうがない部分があるけど、何年かけてでも本物にするから付き合ってほしい!」と言われたので、僕も「じゃあ任せてください!」と返事をした経緯があって。今もメンバー各々が自分のパートの練習をしているし、ユノさんはDTMの勉強もしていて、きっとこれから自分たちでやる領域がどんどん増えていく。ある意味、PHYZが必要なくなるところを目指しているのが、僕らが考える夢限大みゅーたいぷのサウンドプロデュースかもしれません。

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