YOASOBI、Adoらアジア圏での公演が続々 コロナ禍を経たJ-POPアーティストへの飢餓感の高まり
私は日本のアーティストの海外、特にアジア公演におけるブッキングエージェントとして長く仕事をしてきたが、アジア市場における受容はコロナの前と後で様相が一変した。端的にいえば受容度はかつてないほどの高まりをみせ、業界全体で海外進出の機運が高揚している。理由として大きく二つが考えられる。一つはDTM・DSP(デジタル音楽配信)・SNSの普及による楽曲流通の本格的な世界市場化と楽曲再生数・DL数のデータ化、もう一つは、アジア市場におけるJ-POPアーティストへの飢餓感の高まりである。
2020年初頭からコロナ禍で「3密」を避けることが実質ルール化され、世界の交通網が閉ざされた。音楽業界においてその意味することは日本での興行が中止となるだけでなく、海外公演を仕掛けていた日本のアーティストが渡航機会を失ったということだ。
そしてそれは3年以上の長期となった。
多くの人々は巣ごもり生活の中、PCやスマホでリモートワークを行い、音楽や動画に接した。そして世界中で人々の往来は遮断されたものの、DSPや動画配信プラットフォームを通じて音楽リスナーがJ-POPを含む海外アーティストの楽曲に触れる機会が一層増えた。2019年から2022年の4年間で音楽ストリーミング配信は世界で60%の伸びを示し、特にこれまでマイナーな市場と思われていたアジア、中東、アフリカ、南米地域での配信売上が急成長を遂げた(※1)。南アフリカ出身のタイラ、コロンビア出身でシンガー兼ラッパーのカロルGなど、こうした国や地域から世界に向け新たなヒットアーティストが生まれているのがその確たる証拠だろう。そして日本からは非接触型のデジタルマーケティングで特大ヒットを生んだコロナ禍の寵児・YOASOBIの「アイドル」が「YEAR-END CHARTS Billboard Global 200」チャートにて42位を獲得し、J-POPアーティストとして初のTOP50入りの最高位を記録した。
皮肉なことに、無観客ライブ配信という新たなサービスの登場やSpotifyなど音楽配信プラットフォームでの新たな楽曲・アーティストとの出会い、そして一般ユーザーが主体だったTikTokなど動画配信プラットフォームへのアーティスト参入を、結果的にコロナ禍が後押しすることになったといえよう。
このようにYouTube等で楽曲に触れる機会があったものの、アジア圏のJ-POPファンにとっては、これまでのようにコンサートを観る機会が皆無となった。特に中国では“ゼロコロナ”という政策のもと、人々が鬱屈した暮らしを強いられることになった。それまでコンサートやイベントに対面参加していたファンたちは、住居から一歩も出られない中、コンサートへの欲求をじわじわと高めていった。そして、ファンによる飢餓感の高まりを現地のコンサートプロモーターは肌で感じ取っていたという。