「オトナブルー」楽曲提供で脚光 yonkey率いるKlang Ruler、昭和歌謡好きが沼るポップソングの魅力
2023年の音楽シーンを席巻した一曲がある。それは、新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」だ。同曲はTikTokで「首振りダンス」と呼ばれる振り付けが流行し、日本のお茶の間だけでなく、グローバルにまで認知を広げた。そんな圧倒的な快進撃を経て、今年の『輝く!日本レコード大賞』(TBS系)で最優秀作品賞に選ばれるという快挙を成し遂げるまでに至った。
この楽曲の作曲を手掛けたのは、26歳の新鋭プロデューサー/トラックメイカー yonkey。これまで、新しい学校のリーダーズのほかにも、入野自由やRin音、空音、クボタカイ、FANTASTICS from EXILE TRIBE、山本彩への楽曲提供のほか、Chilli Beans.「アンドロン」のRemixや、人気YouTuber・平成フラミンゴが出演するZOZOTOWNのWeb CMの楽曲制作など、幅広く活躍を見せている。
そして驚くことに彼は、バンド Klang Rulerのフロントマンとしての顔もあわせ持つマルチアーティストである。Klang Rulerは、2014年に結成された5人組のバンドで、2021年にデジタルシングル「ビビデバビビ」でユニバーサルシグマからメジャーデビューした若手アーティスト。今年の『第74回NHK紅白歌合戦』に出場するブラックビスケッツ「タイミング ~Timing~」を2021年にカバーし、同年の上半期Billboard JAPAN“TikTok Chart”で1位に輝いたことも記憶に新しい。なかでもyonkeyは、ボーカルとキーボードを担当するとともに、バンドの楽曲制作をほぼ手掛ける重要人物だ。
yonkeyの作る音楽は、最先端のエレクトロニックサウンドとHIPHOP、そして歌謡曲の要素を組み合わせた独自のスタイルが特徴。彼の音楽には、ポップでキャッチーなメロディと、ダークでミステリアスな雰囲気が共存し、その絶妙なギャップが聴く者の心を惹きつけている。例えば「オトナブルー」の明るく軽快なサウンドと、新しい学校のリーダー達による切実な歌詞のアンビバレントさがこの好例だ。
さらに「オトナブルー」を分析するとyonkeyの魅力がより透けて見えてくる。「オトナブルー」は和田アキ子のヒットソング「古い日記」をオマージュしており、その歌謡曲的なアプローチと、世界の音楽トレンドを取り入れたトラックメイクの相乗効果を見て取ることができる。
yonkeyは過去のインタビューにて「コードワークやメロディには歌謡曲からのインスピレーションがめちゃくちゃ大きいです。最近はループミュージックが全盛だけど、歌謡曲ならではのしっかりとした構成やホーンセクションなどをうまく取り入れたら、他にはない音楽をもう一度作れるんじゃないかと思っています」と語る(※1)。
海外で鳴っている最先端のHIPHOPやR&Bのサウンドが、日本人に染み付いている歌謡曲のフィルターを経由することで、yonkeyにしかできないオリジナルなアウトプットにつながっていることがわかる。また、気になった楽曲のトラックは、研究のために自身でコピーし再構築しているという真面目で勉強家なyonkeyだが、計算し尽くしたトラックメイクのなかでも遊び心を忘れない。
「オトナブルー」ひとつをとってもシンプルな音色の楽器隊以外に、不思議な効果音が随所で鳴っていることがわかる。この傾向は、Klang Rulerの楽曲でも顕著で、その効果音がフックとなり耳に残る独特な印象をあたえる。この遊び心あふれるカラフルな効果音もyonkeyの作品に共通する彼のシグネチャーのひとつと言えそうだ。
そしてなによりyonkeyの才能は「オトナブルー」だけにとどまらないことを忘れてはいけない。彼が率いるKlang Rulerの楽曲にも、yonkeyの個性が際立つ楽曲が数多く存在する。男女混合のバンドということもあり、yonkeyと、もう一人のボーカルであるやすだちひろの掛け合いが印象的なKlang Ruler。やすだちひろの甘く透明感のある声とyonkeyのハスキーで力強い声による絶妙なハーモニー、そして浮遊感のあるドリーミーなバンドのサウンドがKlang Ruler特有の世界観を生み出す。