The Acesは自分らしくいられるコミュニティ クイアとしての誇りをバンドで発信する意義

 多様性の大切さが取り沙汰されるなか、メンバーがクイアであることをオープンにして活動してきたアメリカのロックバンド、The Aces。ユタ州の宗教色が強く保守的な街に生まれ、社会にも学校にも属せずに疎外感を感じていた4人はバンドを結成して、自分たちが周りと違うことの苦悩やプライドを曲に託して歌ってきた。そんな彼女たちが初来日。ライブの熱気が冷めやらないなかで、メンバーの3人、クリスタル・ラミレス(Vo/Gt)、ケイティ・ヘンダーソン(Gt)、マッケンナ・ペティー(Ba)に話を聞いた。(村尾泰郎)

保守的な街の中で高まった自己表現への欲求

ーー初来日ですが、日本の印象はいかがですか?

マッケンナ・ペティー(以下、ケナ):最高です! 人も食べ物も素敵。あと、すごくピースフルで大都会なのに安心感がある。 公園は静かで鳥の声も聞こえてくるし。昨日、会ったファンの皆さんもスウィートな人たちばかりでした。

クリスタル・ラミレス(以下、クリスタル):渋谷の交差点とか、信号が変わるまで絶対誰も歩き始めないのはすごい。みんなルールをちゃんと守っているんですね。

ケナ:あと、観客はすごく静かだと聞いてたんですけど、昨日のライブではみんな大騒ぎして私たちの演奏を楽しんでくれていたのがすごく嬉しかったです。

ーーあなたたちの音楽が観客を刺激したんだと思います。

全員:アリガトー!

ーー皆さんは子どもの頃からの付き合いだとか。音楽を通じて知り合ったんでしょうか。

クリスタル:みんな同じ学校に通っていたというのが、最初のきっかけです。

ケイティ・ヘンダーソン(以下、ケイティ):私が遊んでいた男の子たちが、みんなケナの女友達のことを好きだったり。ケナがクリスタルとすごく仲良かったりして、バンドをやる前から繋がりがあったんです。でも、私がクリスタルと知り合ってからしばらくは、みんながバンドをやってることを知らなくて。最初は普通に友達だったけど、一緒にバンドをやるようになってから、どんどん友情が深まっていきました。

ーー4人でバンドを始めた頃は、どんな音楽をやっていたんですか?

ケナ:ガレージロックっぽい音楽でした。地下室で練習して、超バンド! って感じ(笑)。

クリスタル:私はポップなメロディを作りたかったので、インディポップみたいなところもありましたね。

ーー当時から、LGBTQとしてメッセージを発することを意識していたのでしょうか。

クリスタル:全然考えていませんでした。私たちは若くてアイデンティティを探っている時期だったし、カミングアウトもしていなかった。そういうメッセージを発信する自信なんてなかったんです。

ーーライオット・ガール(90年代初頭にインディーシーンで始まったフェミニズムを意識したムーブメント)に対する興味はありました?

クリスタル:ライオット・ガールが盛り上がった頃、私たちはまだ子どもで興味を持つには若すぎました。自分たちがバンドを始めた2010年代はクイアをオープンにしているアーティストは多くなかったし、自分たちもそこまでLGBTQのことを意識していたわけではなかったんです。

ケナ:「LGBTQを意識して全員女の子のバンドにしたの?」と聞かれることがよくありますが、そんなことはなくて。ただ、本当に集まりたい友達とバンドを結成しただけなんです。

ーー新作『I’ve Loved You For So Long』に収録されている「Suburban Blues」を聞くと、保守的な街で息苦しい思いをしている若者の姿が描かれています。そこには4人が体験したことが反映されているのでしょうか。

クリスタル:ティーンの時の自分たちの経験だったり、感情を歌詞に書いています。当時、周りの人たちがみんな何かのふりをして生きているような気がして。それで何でハッピーでいられるんだろう? って、ずっと思っていたんです。自分は自分自身でありたかったし、もっと自分を表現したかった。その時の気持ちが、あの曲に反映されているんです。

The Aces - Suburban Blues (Official Lyric Video)

ケナ:バンドを始めた当時は、こういう曲は書けませんでした。あの頃に、この曲を書けていたらどんなに良かっただろう、と思うくらい保守的な街に住んでいたんです。

ーーそういう土地で、女性4人でバンドやるのは相当目立つことだったんじゃないですか。

ケナ:そうですね。時間が経つにつれて他の人との違いを感じるし、自分たちが浮いてるのを感じるようになりました。自分たちの周りには、同じようなことをしてる人は一人もいなかったんです。

クリスタル:クイアというだけで、その人が発しているエナジーは違うんです。クリスチャンが多い保守的な街では、みんな同じものを着たり、同じような話し方をする。私たちは意識しなくても、自然に他の人とは違ってくるんです。 それに私は半分ラティーナなので、すごく目立っていて、 この街には属していないと常に感じていました。

ケナ:ユタは白人のストレートな人ばかりで、自己表現みたいなものが全然認められていない。みんなと同じじゃないとダメなんです。だからタトゥーも、髪を染めるのもダメ。目立ったり、個性を出すことがよく思われていないんです。

ーー日本でもそういうところが一部あるように思います。

クリスタル:実はちょっと、それを感じていました。日本の人たちって、みんな自分を抑えている感じがするなって。

ーーだから、自分たちが他と違うことを主張しているあなたたちの音楽に耳を傾けたくなるのかもしれません。

クリスタル:だったら嬉しいですね!

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