Mrs. GREEN APPLE、スピッツ、井上陽水……Kitriが語る、ピアノ連弾で再構築した時を超える名曲の魅力
(スピッツは)「大好きが故に怖くてカバーできずにいたバンド」
ーー「あじさい通り」は、スピッツが1995年にリリースした『ハチミツ』収録曲です。
Mona:スピッツは私が大ファンなのですが(笑)、名曲があまりにも多すぎるし、大好きが故に怖くてなかなかカバーできずにいたバンドでした。実は一度チャンスをいただいて歌ったことがあったんですけど、「ちょっとこれは無理」と思いつつ、あれから数年経ってこうやってカバーアルバムを作るとなった時に、「やっぱりスピッツを外すわけにはいかない」と勇気を出してチャレンジしました。「あじさい通り」にしたのは、Kitriカラーを出すならやっぱりこの曲かなと。ちょっと懐かしいメロディラインに惹かれますね。
ーーMonaさんは、どんなきっかけでスピッツを好きになったのですか?
Mona:高校生時代の友人がスピッツのCDを貸してくれたんです。「この曲は、ここの部分がかっこいい」みたいな解説がびっしり書かれたメモ付きで。その熱量にやられ、その友人とライブに行くようになりました。時にはHinaを誘ったこともあります。
Hina:私もスピッツはすごく好きです。最初は草野マサムネさんの唯一無二の歌声に魅力を感じて、メロディも、暗い中に希望が見えるようで。歌詞もすごく独特の世界観で、それが音に乗るとちゃんと伝わってくるところも不思議だなと。スピッツにしかできない音楽が、確立されているんだなと聴くたびに思っています。
Mona:ずっとあの4人で活動されているところが魅力だし、爽やかなようで毒もちゃんとあるところも好きですね(笑)。
ーーUAの「水色」を取り上げたのは?
Mona:去年の12月にワンマンライブがあって、その時に何かカバーしたいと思って教えていただいた曲です。自然との調和とか、寂しさの中にも暖かみを感じるような歌詞が大好きになりました。ちょっと民謡のような懐かしいメロディが琴線に触れるなと思いつつ、それとは違う方法で演奏してみたいなと。原曲よりもキーをかなり上げて、全く違うスタイルの楽曲になったかなと思います。
ーー民謡っぽい節回しも極力抑えめにしていますよね。
Mona:唯一無二の存在であるUAさんの真似はできないからこそ、違うアプローチにしてみました。ちなみにワンマンの時はチェロ奏者の方にも入っていただいたのですが、今回は代わりにシンセの音などを微かに入れています。
ーー今年リリースされた「オトナブルー」 新しい学校のリーダーズにも挑戦しています。
Mona:初めてこの曲をテレビで聴いた時は、「これって令和のメロディ?」と思いました。昭和っぽいというか、不思議な気持ちになったのですが、こういう懐かしいメロディをKitriがカバーしたら面白いんじゃないかと思ってチャレンジしました。最初はテンポを少し落としてメロウな仕上がりを目指したのですが、それよりもピアノ連弾の良さをもっと出したほうがいいのではと。それで1番のテンポを上げてみました。
ーー2番のピアノのアプローチがトリッキーで惹きつけられますね。
Mona:ありがとうございます(笑)。ちょっとテンポを揺らしてみるのも面白いかなと思って、1番よりもゆっくりのテンポにするなど山場をいろいろと作ってみました。
ーー工藤静香さんが1989年にリリースした「嵐の素顔」は、振り付けも「込み」で有名な彼女の代表曲ですよね。
Mona:はい。私たちももちろんサビをよく知っていたのですが、「そして僕は途方に暮れる」と同じくフル尺で聴くのは初めてでした。なんというか、まず〈嵐を起こすの〉という歌詞が衝撃的ですよね(笑)。この曲は、ちょっと異国情緒を混ぜると面白いんじゃないかと思って、ピアノでアラビックスケールとかスパニッシュスケールとか、いろんなエキゾティックな要素を入れて「遊び心」たっぷりにカバーできました。
ーーキャンディーズ「アン・ドゥ・トロワ」のカバーも、4拍子を3拍子にするなど「遊び心」を感じるアレンジです。
Mona:キャンディーズさんは、YouTube動画などで観ていました。この曲はロマンティックで、ワルツ調のリズムがKitriに合うんじゃないかと。作曲が吉田拓郎さんだということにも驚かされました。しかも吉田さんご本人に聴いていただき、ラジオで紹介までしていただけるとは思わなくて。「なんて潤いのある曲だろう」「まるでプレゼントをもらったような気持ちで涙が出た」とおっしゃってくださり、本当にありがたいなと思いました。ちなみに、ライブでは、この曲でHinaはコンサーティーナという蛇腹楽器を演奏しています。
ーー井上陽水さんの「Make-up Shadow」は?
Mona:これは『Re:cover』の1作目にも収録していたカバーですが、ライブの定番と言ってもいいくらい頻繁に演奏しています。歌詞については噛んでも噛んでも味が出るような内容で(笑)。
Hina:何回歌っても「こんな世界観、自分にはとても思いつかないな」と思いつつ、Kitri色にアレンジして歌えるのは幸せなことだなと、いつも歌いながら噛み締めています。
Mona:井上陽水さんは、教科書に「少年時代」が掲載されていたので知りました。それで興味を持って掘っていくと、「え、こんな曲もあるんだ」「これはアイドルの曲で聴いたことがある」みたいな驚きが何度もありました。
ーー久保田早紀さんが1979年にリリースした「異邦人」も、昭和歌謡を象徴する名曲です。
Mona:この曲は、すでにカバーされている方がたくさんいらっしゃるし、Kitriとしてこの名曲をどんなふうに料理できるか不安な気持ちもあったのですが、なんとかKitriカラーが出せたかなと。もともとメロディが私の好きな異国情緒に溢れていて。とても楽しみながらカバーしています。
ーー昭和の名曲は、平成、令和と違うなと思うところを歌っていて感じましたか?
Mona:感じます。コード感もやっぱり独特というか切ない響きが多い気がします。言葉の乗せ方にも特徴がありますよね。アーティストさんによっても違いますが、最近の楽曲は言葉の数が絶対的に増えたのかなとも思います。