ロンドンでミュージシャンが密接に繋がる理由 サンファ『LAHAI』は豊かなコミュニティへの入り口に
無論、ロンドンの音楽教育にまつわる場はこれらだけではないが、その一部を見ても充実した環境を形成していると言えるのではないだろうか。このような場所で音楽の探求を志したミュージシャンたちが出会い、コミュニティが育まれ、それぞれのルーツが重なり合うことで様々なインスピレーションやクリエイティビティを生んでいるであろうことは想像に難くなく、その一端が『LAHAI』に垣間見えているとも言えるはずだ。
『LAHAI』にサンファ自身の忍耐強い音楽的挑戦があることは間違いないが、イギリスの音楽史、音楽教育、それらが絡み合った成果の一つとして、あるいはその深く入り組んだシーン/コミュニティの入り口として、堪能してみてはいかがだろうか。
だが、もし『LAHAI』で飽き足らないようであれば、その先の一歩目として『LAHAI』に参加しているアーティストの中でもサンファがロンドンのシーンについて「僕は個人的に、素晴らしいドラマーが沢山いると感じている」と語っているように(※4)、ドラマーの作品から聴いてみるのも良いかもしれない。近作であれば、クウェイク・ベースの場合、彼の参加しているSpeakers Corner Quartetの1stアルバム『Further Out Than The Edge』。こちらにはサンファをはじめロンドンの重要ミュージシャンたちが集結している。ユセフ・デイズならば、Sons Of Kemetを率いるサックス奏者のシャバカ・ハッチングスやTomorrow’s Warriors出身のピアニスト チャーリー・ステイシーなども参加したソロ作『Black Classical Music』や、シカゴのラッパー/詩人 ノーネームの最新作『Sundial』収録の1曲「potentially the interlude」など。モーガン・シンプソンであれば、black midiの諸作品はもちろんなのだが、ノースロンドン出身のエレクトロニックミュージックプロデューサー ロレイン・ジェイムスの最新作『Gentle Confrontation』に収録された1曲「I DM U」などをおすすめしよう。これらの作品も当然、前述したロンドンの環境下で生まれた作品の一部である。
最後に、アルファ・ミストという自己流かつ独学で音楽を学び、ジャズとヒップホップをクロスオーバーさせるアーティストもロンドンには存在する。ロンドンの音楽教育の場は豊かかもしれないが、エリート主義と断言するのも難しいということを念のため補足しておこう。どんな場所でも情熱が重要であることには変わりはないのだと思う。
※1:https://www.ele-king.net/interviews/005545/
※2、4:https://turntokyo.com/features/sampha-lahai-interview/
※3:https://turntokyo.com/features/nubya-garcia-lean-in-interview/
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