One Directionの後継者不在のUK音楽シーン No Guidnceは男性ボーカルグループの未来を担いうる存在となるか

One Directionの後継者となるべきグループが現れない

 One Directionが2016年3月からすくなくとも1年間は活動を一時休止すると発表したときの衝撃は今でも忘れられない。休止前の2015年にリリースされた5thアルバム『Made In The A.M.』は、ゼイン・マリク脱退後の4人体制でありながら彼らの大団円を飾るに相応しい名盤である。結局同作以降のリリースはない。「嘘つきのバカ……」とつい声を震わせながら不甲斐なく悪態をつきたくもなる。

 先行シングルとして全英1位、全米3位のリード曲「Drag Me Down」でハリー・スタイルズが歌い出すあの滑り出しは何度聴いても痛快だし、何よりも「History」の歌詞と2拍目と4拍目の裏拍で刻まれるクラップ、そして大合唱にはどれほど泣かされたか。コーラスで、〈You and me got a whole lot of history〉と過去を振り返りながら、続いて〈we can make some more, we can live forever〉と前を向く。それなのに、である。今更何を言ってもあとの祭りだが、彼らの活動休止がこうして長く尾を引くのは、One Direction以降、UK音楽シーンを賑わせる後継者となるべきめぼしい男性ボーカルグループが現れていないからだ。

One Direction - Drag Me Down (Official Video)
One Direction - History (Official Video)

 活動休止などまだ知る由もない2014年にはイギリスの国民的グループ・BLUEが約10年ぶりの新作『Roulette』をリリースし大きな話題になった。ではOne Direction以降、再び古株の大御所グループにUKの未来を背負わせるというのか。うーむ。例えば「BLUEが、エルトン・ジョンの「Sorry Seeems To Be The Hardest Word(悲しみのバラード)」で本家を囲みR&Bカバーとして歌い込んだ完成度は金メダル物の全英No.1ヒットだった。エルトンの話題をあえて出しておきながら、One Directionの記憶をやはり手繰り寄せてしまうのは宿命か。2010年の『The X Factor』で5人がエルトンの「Something About the Way You Look Tonight」を熱唱した姿は、BLUEのようないかにもX-ratedなカバーには似ても似つかない。あの初々しくて嬉々とした元気なオーラがたまらなく愛おしかった。ああいう活気がまた見たい……。

One Direction sing The Way You Look Tonight - The X Factor Live show 6 - itv.com/xfactor

メロ夜“神回”で発見した逸材・No Guidnce

 ふとしたタイミングで新たな逸材を発見した。そのタイミングとは、ぼくが毎週欠かさず愛聴している『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM)でのことだった。2010年、松尾さんがデビュー曲のプロデュースを手掛けた日本屈指のダンス&ボーカルグループ・三代目 J SOUL BROTHERSデビューの年に放送が開始されたこのラジオ番組にはいくつもの“神回”がある。ソウルサーチャーこと、音楽ジャーナリスト吉岡正晴さんがシャーマン・オークスにあったバリー・ホワイトの自宅を訪れた際のエピソードを披露した2015年7月6日放送や、夏の夜をあてどもなく疾走するように、スヌープ・ドッグがオクトーバー・ロンドンをフィーチャーした「Mulholland Drive」からブレイズの「I wonder」へマーヴィン・ゲイリレーでつながる2022年7月25日放送など、数え上げたらきりがない。

 今のところ個人的に最新神回となるのがちょうど1年後の今年7月24日放送。この日を決定づけたアーティストとは、UK発の4人組男性ボーカルグループ・No Guidnceである。残念ながら日本ではまだあまり認知されておらず、国内ではおそらく『メロ夜』でしか紹介されていないのではないか。No Guidnceに先立って番組内で紹介された女性トリオ・FLOなら広く知られているが、今UK音楽シーンを語る上でFLOに比肩すべき重要なグループであることは確かだ。

 同放送ではFLOの「Change」に続く流れでNo Guidnce「Lie To Me」が連なった。曲同士が有機的に呼応し合うプレイリスト順に抜き差しならない連辞の力を感じる。ラジオによる錬金術はマジカルな一瞬のうちに執り行われてしまうのだ。何とも懐かしく、うっとりするほどメロウなサウンドは、アンビエントが流行する現行R&Bへのレトロな野心に聴こえる。同曲がSpandau Balletの名曲「True」をサンプリングしていることは元より、P.M. DAWN「Set Adrift on Memory Bliss」、ゴードン・チェンバース「Slippin’Away」を経由しながらNo Guidnceが90’sそのものを復活させるような気配を漂わせている。

No Guidnce - Lie To Me [Lyric Video]

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