Dios、停滞した社会に投げかける“健全なアンチテーゼ” 新たな鎖をまとうことで自由になった2ndアルバムを語る
アレンジャーがいる“縛り”によって「確実に曲もよくなった」(ササノ)
――逆に言うと『CASTLE』は、そういう世界を作る側面、つまり「逃げる」とか「逃避」みたいなテーマがあったような気がするんです。今回はそれすらないっていう。
たなか:全然逃げてないですね。
――逃げてないし、どこかわからないから、とりあえず走るんだっていうバーッと燃えてる感じがすごく面白いなと思います。
たなか:ありがとうございます。それは僕の中でIchika Nitoという人間がある種のロールモデルとして存在しているからで。あまりいないんですよね。ここまで世界を肯定的に、自分が獲得可能なものだって信じて、それに対して毎日ちゃんと努力を積み上げていける人って。その思想のことを僕は「ギャル」って呼んでるんですけど(笑)、そういう人を増やしたり、そうなりたい人の後押しをしたりっていうのが今Diosとしてやるべきスタンスだなというふうに思ってます。
――「自由」っていう曲はまさにその肯定性の歌だと思うんですよね。自由と束縛は対立ですらないんだっていうことを歌っているじゃないですか。むしろ鎖に絡まっているからこそ、変われるんだっていう。
Ichika:この時代における「自由」という言葉の再定義が必要なのかもしれないなって。「みんな、自由になってどないするん?」みたいな。日本だけの視点でいうと、こうやってインターネットも普及してある程度自由になった状態で。さらにそこから「何もない自由」を目指したとして、本当にそれは人を救うのだろうか、人類を前進させる概念なんだろうか、みたいな。
――さっきの話にあった「何もしなくても生きてるだけでいいんだよ」っていう状態は、果たして自由なのかっていうことですよね。この曲だけじゃなくて、アルバム全体がそうで。一般的に「こうだよね」って思われている概念や、なんとなく納得しちゃっているものに対して「いやいや、違わない?」って言い続けて、しかもそれを肯定していくっていう。
たなか:そうなんですよ。
Ichika:それってめちゃくちゃバイタリティありますよね。普通だったらどこかで体力が尽きて疑問を投げかけたくなると思うんですけど、そこでさらに肯定していくっていうパワーがある。
たなか:僕の中での音楽の定義がそういうものになっちゃってるんですよ。これはこれで一般的な尺度ではないですけど、音楽は自分の思想をどう落とし込んでそれをどう伝えるかというもので。さらにDiosは今、ポップスの世界で、より多くの人、自分たちに興味がない人にガンガン届けていきたいっていうフェーズなので、そういう思想をどうやったらわかりやすく、何なら思想だということすら認識させずに頭の中にじわじわ浸透させていくにはどうすればいいんだろうって、最近はずっと考えてます。
ササノ:僕はこの3人の中でいちばん思想がない人間で、かつ学もないので……。
――そんなことないと思いますけど(笑)。
ササノ:いや、実際そうなんですけど、僕はどっちかっていうとサウンド面の担当で。そもそも音楽活動を始めるきっかけも、伝えたいことがあったからっていうよりも、音の構成とか響きにすごい衝撃を受けたからなので、2人が持っているものをどう乗っけるかだったり、どう音で表現していくかっていうことをやっていこうと思っていました。自分が好きな曲調、やりたい曲調って結構バラバラなんですけど、そういうものを縛りなく出して、「好きだけど技量不足でできなかったものを可能な限り高いクオリティで実現しよう」と頑張ったかなと思います。そうすることでポップスとしての純度をより高めたいっていう。
Ichika:それって制作順番に出ていて。「&疾走」や「Struggle」は最後の方にできた曲なんですけど、ササマリの好きなEDMの要素が「&疾走」のドロップに出てるし、「Struggle」はドラムがバカスカ鳴っていて……何トラックくらい使ってたっけ?
ササノ:ドラムだけで50くらい。
Ichika:みたいな、ササマリがやりたいこと、気にせず遊ぼうぜみたいなマインドはアルバムの制作後半の曲に出てるかなって思いますね。
――すごく面白いですね。今回関わる人が増えているじゃないですか。しかも、そこには今までDiosに関わってこなかった人もいるわけで。生のリズム隊でライブをやることとも繋がってくると思うんですけど、たなかさんの歌詞の言葉を借りるなら〈新たな鎖で縛っていく〉ようなものでもあると思うんです。
たなか:そうですね。
――でも、だからこそより自由になれるっていう反転が起きているのがめちゃくちゃ面白いなって。
ササノ:本当にそれでした。実は僕はもともとアレンジャーに頼むのは嫌だったんですよ。だって、自分がアレンジャーみたいな立ち位置でいるのに、外部のもっとすごい人に頼んだら僕はいらないじゃん……って気持ちだったんです。でもそんなことはなかった。
Ichika:むしろアレンジャーがいるっていう縛りがあった方が、自由に作れた?
ササノ:そうだし、確実に曲もよくなったと思う。TAKU INOUEさんも川口さんも僕自身が本当に好きな人だったので、「じゃあ大丈夫だ」って思えたのもあります。
――それってすごく重要な話で。Diosってバンドじゃないですか。そのバンドっていう形態自体もある種の「鎖」だと思うんですよね。でも、だからこそここまで変われるんだっていう、まさに「自由」で歌っているようなことを体現していると思います。
Ichika:『CASTLE』の頃に比べて、ライブシステムや音源の制作環境においても縛りがすごく増えてるんです。でも、その方がやりやすくなったし、創造性が増したような気がします。