雨宮天、昭和歌謡曲カバーから歌唱表現の奥深さを分析 布施明、荒井由美、欧陽菲菲らの名曲を巧みに歌いこなすボーカル力

 対して、1984年に加藤登紀子が発表し、1987年に中森明菜がカバーした「難破船」は、歌い出しの低音から雨宮らしい透明感ある声質で聴かせる。のカバー「難破船」は、歌い出しの低音から雨宮らしい透明感ある声質で聴かせる。恋愛の情念が籠ったワンフレーズ〈あなたを海に沈めたい〉の“〜めたい”で、低音でビブラートをきかせた原曲の歌唱法とは違うアプローチを見せているのが新鮮だ。原曲が、もうほぼ沈んでしまった“難破船”を想像させる感情表現とするならば、雨宮のアプローチは、今まさに沈み始めた“難破船”を想像させる。

 松田聖子のカバー「あなたに逢いたくて ~Missing You~」は、松田聖子ならではのしゃくりのキュートさも丁寧に再現しているほか、本人の声質やキーに合った楽曲セレクトで、雨宮の声質のよさ、そして感情表現に長けていることがとても良くわかる。

 さらに雨宮天のレンジの広さを痛感するのが、欧陽菲菲のカバー「ラヴ・イズ・オーヴァー」である。原曲は、男女の別れを少しはすっぱな口調を用いた歌詞の効果もあり、昭和歌謡・演歌の中間のような壮大なバラード。ハスキーで演歌というよりソウルを感じる欧陽菲菲の歌声も印象的な、昭和を代表するヒット曲のひとつだ。この曲を雨宮天は原曲とキーを変えずに歌っている。おそらく本人の普段のキーよりも下だと思うが、ゆえに、随所で雨宮の低音の魅力が生きている。しかし驚くのは、サビである。雨宮は喉を開いた低音のまま、迫力あるロングトーンを響かせ、デクレッシェンドなどのニュアンスもしっかり独自の解釈で聴かせている。

 ひとくくりに“昭和の歌謡曲”といっても、ポップス、ニューミュージック、演歌までいろいろな曲調があるが、どの曲もしっかりと自分のものにしている雨宮天。別人かと思う程に声を使い分けるスキル、歌詞やメロディに対する解釈、安定感ある歌声。どれも『COVERSⅡ-Sora Amamiya favorite songs-』の魅力であるが、この魅力は雨宮天がどの曲も相当聴き込んでいるゆえに辿り着いた、表現者としてのひとつの境地ともいえよう。同作は、それほどクオリティが高く、上質なポップスアルバムとしても聴き応えのある作品に仕上がっている。

■リリース情報
雨宮天『COVERSⅡ-Sora Amamiya favorite songs-』
2023年6月21日発売
SMCL 822/3,300円(税込)/CD only
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