大江千里、試行錯誤を経て完成させた自己流のJ-POP×ジャズスタイル 坂本龍一との親交、ブルックリンでの発見の日々を語る

坂本龍一は「僕の言葉で言い尽くせないほどの魅力を持った人」

——別の話題ではあるのですが、大江さんは坂本龍一さんを偲んでエッセイを書かれてましたよね(※1)。

大江:実は、坂本さんの前では僕はずっと緊張しっぱなしで、感謝も充分に伝えられないままだったんですね。だから自分がきちんと書き記しておこうと思って。でも書いているうちにあのエッセイはひとつの心の区切りみたいな感じになってしまいました。少ない思い出ですが、僕が知っている坂本さんのことを一個一個思い出しながら書かせていただきました。

——坂本さんから、どんな影響を受けたのでしょうか。

大江:生き様です。全部挑戦されたじゃないですか、坂本さんは。ポップミュージックからテクノもやって、映画音楽も作って、役者もされて、本当にいろんなタイプのことをされて、自分のクリエーションのレーダーが指すところへ素直に忠実にいつも向かっていかれて。その一環としてニューヨークへも移住をされて、そういう意味ではなかなかいない、生き様と音楽が重なる印象のある人でした。実際にお会いすると、“かわいい”と言うと失礼かもしれないですけど、自分ではLINEのQRコードが出せないとか、僕が書店で「坂本さんが雑誌に載ってますよ」と教えて差し上げると「買っちゃお~」ってお買いになったりとか(笑)。“世界のサカモト”でありつつ、生き様が発光して、普段着で、嘘がない、そんな僕の言葉で言い尽くせないほどの魅力を持った人でした。

——今年40周年ということで、『Class of '88』も完成しましたが、この先の大江千里はどこへ向かうのでしょうか?

大江:最初引っ越した時はブルックリンをこんなに好きになるとは思ってなかった。都落ちしたなってイーストリバーを渡る時思ったんですから(笑)。それが今毎日の営みの中で生まれてくる音楽が日々あって、その一期一会をオーガニックに切り取って作った、そんな日常の延長にあるアルバムです。あと、ジャズの一瞬に命を懸ける感じっていうのかな、このフレーズが最初で最後ってピアノを弾きながら、ずっとそう思ってました。最後だって思いながらもトリオの7曲をやり終えたあたりで、もうすでに「あー、これは次回のアルバムの方向性が見えたな」とか、欲深い自分もむくむくと起き上がってきた(笑)。ただ、このアルバムがジャズを10年ちょっとアメリカでやってきた僕のひとつのケジメではあると思います。

——ここで得た結論をどう活かしつつ、さらに先へと進むのでしょうか。

大江:ニューヨークは、誰かの二番煎じじゃ誰も振り向いてくれない場所です。もし、僕が教会音楽を真似て“ハレルヤ~”とやっても、それは僕の本当の音楽ではないわけです。じゃあニューヨークに住んで僕にしかできないことは何かと言えば、やはり日本のポップの第一線を駆けてきて完成させた歌詞のある曲という最高のモチーフがあります。それを、現在の自分のジャズというフィルターで再び発信できること、そしてそれがいつの日か誰かに認められてスタンダードと呼べるような音楽になっていくことです。その着地が例えば僕の大好きなバート・バカラックのような世界なのか、ミシェル・ルグランみたいな音楽なのかは今はまだ全くわからないんですけど、そうした先達のアイデアにいっぱいインスパイアされながら、パンデミックをこうして生き抜いて再び、ミュージシャンたちと再会して直にこうやって、音楽を作れる喜び、いい感じの緊張感、そして常にこれが最初で最後という「覚悟」を持って音楽がやれる。その感じを突き詰めて楽しくやっていきたいです。

※1:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/04/19521172023328-19834ymo-kylyn-nhk509waku-waku-885.php

■リリース情報
『Class of '88』
発売中
¥3,300(税込)
詳細:https://www.110107.com/s/oto/discography/MHCL-3035?ima=0000&oto=ROBO004

■関連リンク
公式サイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/SenriOe/
Twitter:https://twitter.com/1000hometown

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