「もうBiSHの衣装も作れる気がしない」 デザイナー 外林健太が振り返る、人生を削って縫い続けた彼女たちとの8年間

「My landscape」以上のものは作れない

ーーお題がどんどん出てくるなかで、外林さん的に忘れられないものってありますか?

外林:早稲田はちょっと意味がわからなかったです(笑)。

ーー(笑)。

外林 :渡辺さんも、意味があって言ってるのか、意味がないのか、こっちが理解できないバランスで言ってくるんですよ。めちゃくちゃ考えて答えがわかるときもあれば、まったくわからず作るときもあって。「Life is beautiful」は「ナウシカ」(『風の谷のナウシカ』)と言われたんですけど、最後までわからなかったです(笑)。お花畑で撮るという話が決まっていたからかなと思ったんですけど、裏テーマがある気もするし、でも、わざわざ聞きはしないので。最初に「どういう衣装にしますか?」と言ったときに、パッてその場で言ってくるんで、それ以上は深く掘り下げないんですよ。

ーー外林さん的に、会心の出来の衣装を特に挙げるとしたらなんでしょうか?

外林:やっぱり「My landscape」ですよね。たぶんこれ以上のものは作れないなと思ってます。

ーーそれはどこがポイントなんでしょうか?

外林:すべてタイミングだと思っていて。「ここでめちゃくちゃいい曲で売り出さないと」というタイミングで、エイベックスさんが松隈さんの作った曲を聴いて、「お金も使いましょう」みたいなノリでアメリカまで行って撮影することになって。めちゃくちゃいい曲ができて、渡辺さんもすごい乗りに乗っていて、BiSHもけっこう世間に認知されてきたかもしれないという状況の中、みんなでアメリカへ行くというプレッシャーがありました。それまで真っ赤な衣装も作っていなければ、全員同じデザインの衣装も作っていなかったんです。渡辺さんから「勝負を賭けた赤で」と言われて、さらにそのときにめちゃめちゃいい赤の生地を見つけたんですよ。肩を尖らした衣装や、後ろのマントも、すべてがスムーズに自分の中でできあがって、BiSHとしても象徴的な曲や衣装になったので、すべてのタイミングが完璧だったと思います。

ーー2018年に行われた『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR』の前にマンネリを危惧した話も出てきますが、これだけの量を製作していると、それも一苦労なのでは?

外林:そうなんですけど、やっぱ僕としてもずっとBiSHを仕事として一番がんばっていて。BiSHの子たちも変わってきて、かわいい衣装が似合ってた子が、かっこいい衣装が似合うようになったりと変化していたので、自分の中でも変わるタイミングはいろいろあったと思っていて。あの子たちに着せられる衣装の幅がどんどん広がったことで、方向性も変わっていきました。リファレンスとして探すものが増えたのは苦労しましたけど、いろいろ成長できたので、あまりストレスはなかったです。常に引き出しはない状態ではありましたけど(笑)。

ーーそのメンバーのそれぞれの変化とは、外林さんから見てどんなものでしょうか? まずはアイナさん。

外林:声の魅力があって、グループ内で特に世間の目を集めていたので、売れる前から業界人が近寄ってきたんです。そういう意味で、人間関係的な部分のストレスもあっただろうし。メンバーの中で一番人に埋もれて育ってきたので、大人になるスピードも速かったような気がします。「見られてる」っていう感覚がめちゃくちゃ強くなりましたし、最近はハイブランドのファッション誌に出たり、「大人になったな」と特に思う子かもしれないです。メンバーの中で一番芸能人っぽいというか(笑)。

ーー外林さん的にはちょっと寂しい感じですか?

外林:いや、もっと先に行ってほしいなと思うぐらいです。

ーーセントチヒロ・チッチさんは?

外林:最初はめちゃくちゃ猫をかぶっていたんですけど、どこかのタイミングでおっさんみたいにどっしり構えた、しっかりした子になりましたね。そのパワフルさはグループの中でトップです。いいところのMCも彼女が担当しますし、この子の「しっかり感」がないとBiSHは成り立たないなと思うので、グループの中心にいると思います。

ーーモモコグミカンパニーさんはいかがでしょう?

外林:本気でBiSHが売れてきたぐらいに、ちゃんと歌やダンスをがんばらないといけないと思っただろうし、めちゃくちゃ成長したと思います。最初から本人的にはがんばっていたのかもしれないんですけど。全然できてなかったことが、どんどんできるようになっていきましたね。

ーーハシヤスメアツコさんは?

外林:みんな言うんですけど、一番変わらないんですよね。体型も入ったときからほぼ変わってないし。自分の中のルールがめちゃくちゃあって、アイドルとしての自分の理想をずっと守っている印象です。今だに、現場に入るときも帰るときも、ちゃんと営業感のある挨拶をしますね。お土産を持ってくるみたいな気遣いもできますし、芯が強いんだろうなと思ってます。

ーーリンリンさんはいかがでしょうか?

外林:最初は「お嬢様のお遊びかな」みたいな感覚が僕にはあって。でも、雑誌やテレビに出るようになってからは、気合いを入れてやっているなと思います。

ーー『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』の巻末インタビューで外林さんは、アユニ・Dさんの加入が大きな刺激になったと語っていますね。

外林:他の子って、ある程度、自分の人生を歩んでからBiSHに入ってきているんですけど、アユニはそれがないままBiSHに入ってきた子で。本人とBiSHのアユニ・Dの区別がなかったんです。ずっと本気でBiSHをやり続けてきて。あと、天才的なので、ダンスもうまくなれば、かわいくなるわで、悪いところが一切なくて腹が立つぐらいなんです(笑)。人と話すことすら下手くそだったのに、BiSHと一緒に人間力が育ってきた感があるんです。まだまだ成長するなと思って、これからのほうが楽しみだなと思ってます。

ーーその一方で、渡辺さんから「つまらない」と思われたくない、というプレッシャーも大きかったのではないでしょうか?

外林:もうプレッシャーしかないです。

ーーそれをどう乗り越えたんですか?

外林:乗り越えたのか、ちょっとわからないんですけど(笑)。でも、渡辺さんとは仲がいいので。仕事じゃないところで飲みに行って話してると、渡辺さんはずっと先のことばっかり考えてるし、ずっとハングリーなんですよね。この歳ぐらいになると、「今の稼ぎがあればルーティンできればいい」という考え方も当たり前にあると思うんですけど、渡辺さんはあれだけ稼いでもハングリーでしかないんです。それを聞いてると「置いてかれるな」としか思わないので、がむしゃらについていくしかないなとずっと思ってるし、渡辺さんもわざと言ってるのかもしれないし。「WACKの仕事はミスれないな」っていうプレッシャーを常に抱えながらやっています。

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