レコード会社がNFTに参入するメリットとは? ビクター鵜殿高志氏に聞く、アーティストを広く知ってもらうための活用法

自社でNFTの企画から発行までを手掛けられることが大きな強み

ーーこの3月からは具体的なNFTの活用がスタートしました。まず3月15日に行われたヤングスキニーのフリーライブで来場者特典として「いつかの引換券付きチケット型カード」を配布。これをNFT技術と連動させたわけですが、配布時にはNFTであることを告知していませんでした。

鵜殿:アーティスト担当、宣伝担当が決めたことなのですが、ヤングスキニーのファンはほとんどが10代、20代と非常に若いので、最初からNFTであることを告知して、「とっつきづらい」と思われることを避けたいということが背景としてあります。ただ、もともとSNSでバズったアーティストですし、デジタルリテラシーは高いという見込みはありました。ライブ前に用意したチケット型カード5000枚をすべて配布しましたが、NFTへのリーチ数は通常平均リーチ数の約2倍。かなりいい結果だったと思います。

ーーSNSを介したファンとのコミュニケーションがあったからこそ、NFTとの連動も上手くいったと。

鵜殿:そうですね。ファンとのエンゲージメント、ファンダムマーケティングともハマったんだと思います。ライブというリアルな体験、カードというフィジカルとつながっていたのもよかったのかなと。「いつかの引換券」というネーミングもクリエイティブの一部ですし、結果的にハイブリッドな施策になったのではないでしょうか。ヤングスキニーのNFTにはドキュメンタリー映像が付与されていて。もちろん実際のライブに来てもらうことも非常に大事ですが、今の若いリスナーはスマホかタブレットでコンテンツを楽しむことがほとんどなので、そこにリーチできるNFTの役割はとても大きいと思います。

ヤングスキニー、フリーライブ来場者特典「いつかの引換券付きチケット型カード」NFT画面イメージ

ーーさらにスピードスターレコーズ30周年記念『LIVE the SPEEDSTAR』では、先着3,000点限定で来場記念NFTを無料配布。『LIVE the SPEEDSTAR』来場の証を永久的に保存できるほか、公演のセットリストや当日の様子を収めたメモリアルフォトなどが閲覧できるということですが、こちらの反響はどうでしたか?

鵜殿:スピードスターレコーズの30周年ということで、キャリアのあるアーティストが数多く出演したイベントだったんです。お客さんの年齢層も比較的高めということもあり、反応はどうだろう? と思っていたのですが、NFTを体験するきっかけになったのかなと。ビジネスライクな話になってしまいますが、「ビクターオンラインストア」に登録しないとコンテンツを取得できないので、弊社の顧客獲得にもつながるのかなと。サブスクで聴かれても自社のデータには何も紐づかないので、そこも大きな違いだと思います。

スピードスターレコーズ30周年記念『LIVE the SPEEDSTAR』来場記念NFT画面イメージ

ーーヤングスキニーのときと同じく、リアルなイベントでの体験と紐づけることでNFTの魅力をアピールできたし、販促にもつなげられたと。

鵜殿:“何を売るか”という発想に執着していたら、こういう施策には至ってなかったと思います。“点”で終わるのではなく、その先につなげることが必要。NFTは配布した後からコンテンツを付与できるので、その強みを活かすことが大事ですし、それがファンの囲い込みなどにもなるのかなと。そのことを踏まえて使い方を広げていくことで、可能性はさらに高まると思います。

ーーNFTを使った今後の展開については?

鵜殿:ビクターでマネジメントしているアーティストについては、こちらで企画をしやすい部分があるので、そこから広げていけたらいいのかなと。アーティストサイドの理解が進めば、もっとやれることも広がると思うんですよね。ファンクラブのグッズ販売と同じような感覚でいると、「ビジネスとしてのうまみが少ないな」ということになると思うんです。デジタルコンテンツとして売るだけでは、それ以上でも以下でもない。先ほども言いましたが、楽曲、アーティストを広めるために活用するのがいいのかなと。そこからファン同士のコミュニティにつなげたり、いろんな広げ方ができると思っています。

ーー「murket」のNFT基盤を利用したメリットについてはどう感じていますか?

鵜殿:NFTを自社で扱えることはやはり大きいと思います。当初は外部のプラットフォームを利用することも考えていたのですが、「ビクターオンラインストア」を(「murket」を採用して)リニューアルしていたおかげで、NFT参入のハードルはかなり下がったと思うので。ヤングスキニーのフリーライブと『LIVE the SPEEDSTAR』でNFT配布を行いましたが、当初は難しいと思っていた2022年度内に実施できたのはうれしく思っていますね。おそらく自社オンラインストアで、フィジカルからNFTまで総合的に商品展開できているのは、今までのところ弊社だけではないでしょうか。

ーー伝統のあるレコード会社がNFT参入を決めたことも大きな注目を集めたのではないでしょうか。

鵜殿:ビクターは比較的コンサバな会社だと思いますし、いち早くNFTに参入したことは、確かに意外だったかもしれません。ただ、新しいことをやるのは楽しいじゃないですか(笑)。それまでにない取り組みをスタートさせるときは、ある程度“エイヤ”でやらないといけないでしょうし。私自身のことでいうと洋楽業務が中心だったのですが、CMやドラマなどのタイアップのセクションも経験して、異業種とのコラボレーションも好きで。ですからNFTに関しても楽しくやらせてもらっています。

ーーNFTはイレギュラーな販促物ではなく、御社のリリース編成にも組み込まれているのでしょうか?

鵜殿:そのあたりのスキームはまだまだ構築中ですね。正直、社内のすべての人間がNFTを理解しているわけではないし、勉強会などを通して、さらに周知を進めていきたいと思っていて。まだスタートしたばかりなので、具体的な事例を重ねながら、「面白いことができそうだな」と捉えてもらえたらなと。自社でNFTの企画から発行までを手掛けることができるのは、大きな強みですからね。先ほども言いましたが、我々はレコード会社なので、楽曲自体、アーティスト自身を1人でも多くの方に知ってもらうのがもっとも重要だと思っていて。ビジネス的な結果を出すことも求めてられていますが、音楽とアーティストに真摯に向き合いながら、NFTの活用を広げていきたいですね。

ビクターオンラインストア
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