稲垣吾郎、自分自身の言葉で語っていく芯の強さ 『不可避研究中』から感じた教養番組との好相性

 稲垣吾郎がMCを務める教養番組『不可避研究中』(NHK総合)が、3月22日に最終回を迎える。2019年11月にスタートし、そのタイトル通り誰もが避けて通れない「不可避」なテーマに切り込み、モヤモヤを吹き飛ばそうと放送されてきた同番組。

 2022年9月のオンエア以降少し時間が空いていたが、今年2月末に再稼働することが公式Twitterでつぶやかれると、多くの視聴者から「待ってました」の声が届いた。しかしその直後に、残念ながら今回が最終回というお知らせも。すると、さらに多くの惜しむコメントが寄せられたのだ。

 なぜ、この番組がこれほどの支持を得たのか。それは、センシティブなテーマにも真正面から飛び込む意欲的な番組だったから。これまで扱ってきたテーマを振り返ってみると「ジェンダー」「外国人」「働く」「お金」「選挙」「教育」「ルッキズム」「変わりゆく表現」……と、どれも社会と密接に関わる重要なテーマではあるものの、テレビで真正面から扱うにはかなり攻めているといった印象を抱く。きっと「攻めている」と言いたくなるのは、そこに触れれば何かしらの摩擦や論争が巻き起こりそうな予感がするから。でも、そんな誰もが避けて通りたくなってしまうところにこそ、私たちのモヤモヤは息づいているもの。

 そんな本当は扱いづらいけれど、今こそ語り合って理解を深めたいテーマに触れるために番組が工夫をしたのは、「テレビ」という大きな一人称で情報を発信していくのではなく、番組ディレクターが「個人」の視点で感じているモヤモヤをVTRにしていったこと。

 特に、最新回の「何かと言いにくくて…圧 表現を考える」の回は、時代の流れと共に変わりゆく表現の変化に、テレビを作る側のディレクター陣が苦悩していることが伝わってきて大変興味深かった。

 裸体の芸術作品はアートだとする主張がある一方で、目のやり場に困るという意見も飛び出す。では、そうした時代の感覚に合わせて昔話『桃太郎』を編集し直してみたらどうなるのだろうか。イヌ、サル、キジ、とはきびだんごだけでなく、書面で労働条件を確認して契約。鬼退治を武力行使ではなく話し合いによる平和的解決を目指す……のだが、子どもたちからは「面白くない」とイマイチな反応をもらってしまう。

 「正しい」と「面白い」のバランスは、その時代によって大きく変化する流動的なもの。だから、情報を発信する側はその絶妙なラインを常に考え続けていく必要があるのだと改めて考えさせられる。ましてや今は多様なバックボーンを認め合おうという風潮だ。あらゆる視点を考慮しながら、グッと引き込まれる表現を探し出す。そこに挑み甲斐を感じられる人こそが、表現者として活躍していく世の中になってきているのかもしれない。

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