菅田将暉、1曲1曲大切に歌い上げた初の武道館ライブ 生活や内面を鮮やかに彩る高揚感抜群のステージに

 全国ツアー『菅田将暉 LIVE TOUR 2022 “クワイエットジャーニー”』の追加公演として2月14日に開催された、菅田将暉の初の日本武道館公演。ツアータイトルと同名の楽曲「クワイエットジャーニー」で静謐に幕を開け、再びの「クワイエットジャーニー」で幕を閉じたライブ本編に思い浮かんだのは、日記帳を開き、ページをめくりながら日々を振り返っているようなイメージだった。「久々に人前で喋るので、この一年で感じたことを話していければ」と飾らない語り口による近況報告のMCと、そこで語られた生活と密接に結びついている音楽。俳優でミュージシャンでもある菅田のライブパフォーマンスには多面的な魅力があり、部屋の中を思わせる舞台セットが象徴するように、表舞台に立っていない間の、華やかではない日常さえもステージに昇華されている。様々なチャネルをゆるやかかつナチュラルに往来する菅田を観ていると、そこに境界などないかもしれないと思わせられる。例えば芝居の中で誰かを演じた時間も、確かにその人として生きていたという意味では彼にとって真実であり、私たちはこのライブを通して、一人の人間の内側に蓄積した真実の一端に触れさせてもらっていたのだろう。今の自分を作ったもの一つひとつを手に取って愛おしむように、一曲一曲を大切に歌う姿が印象的だった。

 それにしても、様々な表情を見せてくれた。開演から改めて振り返ろう。先述の通り、1曲目は、最新EP『クワイエットジャーニー - EP』の表題曲「クワイエットジャーニー」だ。同曲を静かに届けた直後、「クラップ!」と促し、菅田と観客の手拍子のみが武道館に響く印象的なシーンを作り上げてから、「ゆだねたギター」へと繋げた。この時菅田はパーカーのフードを被っているため、客席からは表情が確認できない状態。そして「ソフトビニールフィギア」の始まりと同時に場内が明るくなると、「ぶどうかーん!」と声を張る菅田の笑顔がスクリーンに映され、観客が思わず歓声を上げる。EPから早速3曲を演奏した最初のブロックは、菅田の音楽活動を初期から支えてきたバンド・KNEEKIDSの仲間とともに音を合わせることそのものを楽しむモード。「八月のエイリアン」ではステージの後方に下がり、バンドサウンドの中から歌う。

 最初のMCでは、約1万人の観客を前に「俳優業だとこれだけの人の前に立つことはないので不思議です」と実感を語った。そして話題は、昨年よく考えていた“人は3歳から左脳を使うようになる”という説の話になり、そういったトークが「愛と右脳」を導く。ソファに座りながらのパフォーマンスが似合うほどリラクシーな音像。続く「りびんぐでっど」では、ベッドに横になり、身をよじらせながら歌う菅田をカメラが上から捉える演出があった。色気が滲み出ている。このシーンが特に象徴的だったが、この日のライブ、「これは菅田将暉にしかできないだろう」という場面の連続で、その背景には本人の卓越した表現力はもちろん、「これを菅田将暉にやらせたらきっと面白いだろう」というチームからの提案もあったのだろうと想像する。菅田将暉という存在は、彼の周りにいるクリエイターにとって、何か気持ちを掻きたてられるほど魅力的な存在なのだろう。菅田一人で男女二人の声を発する「キスだけで」の歌唱も素晴らしい。声量をあえて絞りながらの声のコントロールや感情表現が絶妙だ。

 その後も、時折MCを挟みながら楽曲を披露する。10年前のイベントでフジファブリック「茜色の夕日」を弾き語りした時は、まさか10年後に武道館に立つなんて思ってもいなかった、というMCの後、「虹」「ラストシーン」で念願だった弦楽カルテットとの共演を実現。ドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の撮影中に書いた言葉を持ってKNEEKIDSのメンバーと北海道に合宿に行くも、当日熱を出してしまったと話した後、アコースティック編成で披露した「つもる話」では、仲間と暖炉を囲むように温かなムードが漂っていた。そして米津玄師とのエピソードを明かした後には、弦楽カルテットをフィーチャーした特別アレンジの「まちがいさがし」。

 さらに、ライブの折り返し地点。演奏が突然止まったかと思いきや、ボイストレーナーの“平子先生”に扮した平子祐希(アルコ&ピース)が登場。「(菅田の歌が)武道館レベルに達していない」と言いながらステージ上で菅田を熱血指導、さらに「ライブはみんなで一緒に作るもの」と矛先を観客にも向けると、全員を熱い言葉で鼓舞しながらコール&レスポンスへ……という展開はまるでコントのようだった。しかし突然の展開にも違和感はない。むしろこれを機にライブはさらに盛り上がっていく。というのも、何度も武道館に立ったことのあるアーティストと見間違えるほど、平子のコール&レスポンスが見事だったのだ。そのまま突入した「見たこともない景色」ではものすごい盛り上がりが生まれ、これ以降、Oasisのスタジアムライブを連想してしまうほどのシンガロングが何度も発生する。菅田本人も言っていたように、この日のオーディエンスは素晴らしかった。有観客でのツアーは3年ぶりということもあり、みんな、菅田の音楽に生で触れられたこと、こうして一緒に楽しめることが嬉しかったのだろう。

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