Red Hot Chili Peppers、ジョン・フルシアンテ帰還で轟いた無敵の躍動感 原点と進化を自在に繋ぐ東京ドーム公演に
Red Hot Chili Peppers(以下、レッチリ)が、結成40周年を迎えた今もなぜモンスターバンドであり続けるのか。16年ぶりの単独来日公演となった2月19日の東京ドームライブは、その理由をこれでもかと体感できる最高の一夜となった。
振り返れば、ジョン・フルシアンテ(Gt/Cho)がレッチリへの2度目の復帰を発表したのは、2度目の脱退を発表した日からちょうど10年後となる2019年12月16日。日本では『SUMMER SONIC 2019』にヘッドライナーとして出演してからわずか4カ月後の出来事で、歓喜と共に、とても信じられないという気持ちの人も多かっただろう。なぜなら、ジョンがソロアーティストとしてここ十数年で追い求めてきたディープで実験的なサウンドは、一見レッチリの音楽とは交わり得ないものに思えたからだ。
しかし、エレクトロを駆使して音楽そのものの可能性を探求し、自分の奥深くと向き合うような作品を生み出してきたジョンのソロ活動と、レッチリでのバンド活動が一直線に繋がった――いや、ようやくジョン自身の中でその二面性のバランスが取れたのが、昨年リリースされた2枚のアルバム『Unlimited Love』『Return of the Dream Canteen』であり、今回のワールドツアーなのかもしれない。ジョンは2023年に入ってからも、ほとんど楽器の音が鳴らないアンビエントなソロアルバム『:II.』をリリースしているが、そんな“新しい音を鳴らす刺激”を、再びロックの中に見出すことができたのではないだろうか。
というのも、再びジョンを迎え入れた2019年末以降のレッチリは、ジョンの提案で、ロックの胎動を感じられる1950年代のブルースやロックンロールのセッションを通して、4人の音を確かめ合っていった。The Beatlesやジミ・ヘンドリックス以前、ジャンルとしてのロックが確立されていない頃のギタープレイには、荒削りゆえの未開な魅力がたっぷり詰まっており、ジョンに刺激的なアイデアをもたらしたのだ(※)。レッチリといえば、パンク、ヒップホップ、ファンクなどを縦横無尽に行き来することで、定型のジャンルを超えていくロックの精神性を体現しながら進化してきたバンドだが、そうしたジョン再加入後のセッションを通して、レッチリの輪郭と原点を再確認できたのかもしれない。そんな衝動と洗練、あるいは内省と遊びの振れ幅は、そのまま『Unlimited Love』と『Return of the Dream Canteen』の作品性に直結している。
一方のアンソニー・キーディス(Vo)、フリー(Ba/Cho)、チャド・スミス(Dr)も、おそらく『The Getaway』(2016年)という傑作を経たからこそ、次なる進化としてジョンのイマジネーション、メロディセンス、そしてライブでの爆発力を求めたのだろう。巨大な音の渦を通して再び心を通わせた4人は、何度目かの黄金期を迎え、ロックの中で自由な姿になれることを東京ドームのステージで堂々と示してみせた。
ライブはまず、ジョン、フリー、チャドによる数分のジャムから「Can't Stop」へ繋ぐという王道パターンからスタート。その場にいる誰もが口ずさめるだろう、あのギターリフが空を切り裂き、アンソニーの歌にジョンのコーラスが重なり合った瞬間、「本当に4人が帰ってきたのだ!」という感慨と興奮に包まれた。そこから「The Zephyr Song」「Here Ever After」「Snow (Hey Oh)」を立て続けた序盤は、ジョンの帰還を祝福するかのようにメロディアスなギターパートを前面に出したセットリスト。エフェクターを踏み、くしゃっとした表情でソロを弾く没入感満点なジョンの存在感に目も耳も奪われる。
そして前半のハイライトを飾ったのが「Eddie」。フリーの歌うように滑らかなベースライン、それを軽快に運んでいくチャドのドラム、切なさをたたえた歌心あふれるアンソニーのボーカルに対して、演奏中ずっと“叫び続けている”のがジョンのギターだ。特にギターソロを経た大サビ、そしてアウトロに至るまで、ジョンの独壇場が続く。一音だけでどこまでも飛べるような“泣きのギター”から、同曲を捧げたエディ・ヴァン・ヘイレンを彷彿とさせる速弾きまで、実にナチュラルに繋げて弾き倒してみせる。そんな“ギターソロの魅力全出し”と言ってもいい、泣きながら火を吹くプレイを観て、レッチリのグルーヴにスタジアム級のスケールを与えていたのは、他ならぬジョンのギターだったのだと痛感する。抜群にクリアだったこの日の音像も相まって、ジョンがレッチリにさらなる可能性をもたらしていることがわかる、圧倒的な演奏だった。