the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第17回 異色作へ繋がったポンコツ合宿&A$AP Rockyらのクールな刺激

 寒い日が続いております。僕は冬が好きなので、よし、今日はこっちのダウンジャケットを着てやろう、などと日々の洋服選びを楽しんでいるくらいですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 それにしても学生の頃から現在まで、あまり変わりばえしない服装で毎日過ごしている。今の時期ならスウェット上下にシェルやダウン、ニット帽。夏は年甲斐もなくTシャツに短パン like 小学生エブリデイ。スーツを着る機会は冠婚葬祭くらいである。そうやってここまで来てしまったので、この先も好きな服装で適当に過ごせるように、逆向きの努力を惜しまず生きていきたい。

 しかし、着ているものの傾向は変わらなくても、サイズ選びは時期によって微妙に違ったりもする。今より2サイズくらい下のものを選んでいた頃の話から、今回は始めていこうと思います。

理想の環境を求めて合宿するも、思わぬ事態に!?

 音楽の演奏は面白いもので、例えば同じ楽器を同じセッティングで弾いたとしても、演奏者が異なれば出音の差異は一目瞭然である。特に我々のような独学でそれぞれの楽器に触れてきた集団になってくると、バンド自体が一つのトータルコンプレッサーのような趣を帯びてくるし、またそれが“バンド”というものの大きな魅力の一つでもあるだろう。

 『街の14景』(2013年)は前回書いた通り(※1)、それまでのthe band apartのアルバムの中でも、最も個別作曲の色が濃い作品だった。各メンバーの手癖や普段の使用機材を顧みない音色選びやエフェクト処理、オーバーダビング……そうしたミキシングはそれまでにない色彩とインドアなムードを楽曲に与えてくれたが、同時にライブでの再現を難しくもしていた。僕の作った楽曲は特に。

 普通のバンドであれば、事前にそのことに対する入念な準備ーーそういった楽曲のライブ用リアレンジなどを考えて臨むのだろうけど、そこは筋金入りのボンクラ集団である。各メンバーがそれぞれのパートをなんとなくコピーしてリリースツアーに突入、何本目かのライブを終えても「これはなかなか難しいですな、アハハ」と喫煙所の談笑で済ませてしまう始末である。

 結局そのままツアーはやり通したものの、自身の不調(詳しくは僕のnoteに書きました)も相まって『街の14景』ツアーには今までにないストラグルがあった。

 一つの楽曲を細部まで作り込んでいくのは好きな作業だ。しかし、録音手法やエディット、ミキシングでいくらでも音をいじれる環境であっても、最終的にバンドという癖の強い演奏装置で再生される“ライブ”が、録音作品と共にもう一つの主戦場である以上、特に我々のような4人だけの演奏でライブを成立させているオールドスクールなグループにとしては、その前提をまず踏まえるべき……そんな経験則が次の作品に反映されていくことになる。

 それは僕だけではなく他のメンバーも何となく感じていたところだったようで、『謎のオープンワールド』(2015年)制作時には、まず原点に立ち返ろう、という趣旨のもと『quake and brook』(2005年)以来の曲作り合宿が敢行されるに至った。

 『quake and brook』の時に使わせてもらった素晴らしい環境の合宿所の予約が取れなかったため、マネージャー Kがネットで探してきた某県某所のスタジオ付き宿泊所は、前回と違ってなかなか規模の大きい施設であり、我々以外にもいくつかの大学のサークルが合宿を行なっていた。

 いくつかあるスタジオは常に満員御礼、至る所からギターやドラムの音が漏れ聞こえてくる。夜分に飲み物を買いに行った自販機の前では若い男女がシリアスな雰囲気で話をしているかと思えば、建物の外壁にもたれかかってその様子を見守る先輩らしき人物がいたりして、そんなドラマティックな場面に「ちょっと失礼」とか言いながら割り込み、ノコノコと缶コーヒーを買うのも、人生の先輩として無粋な話だ。

 世の流れは嫌煙に傾いていたが、喫煙所は常に賑わっていた。食堂ではアルコール片手に歓談に勤しむ集団がいる。

 つまり、施設のどこへいっても誰かしら人がいるのであった。

 通常であれば、そんな青春模様を観察・追体験し思いを馳せる……のもやぶさかではないのだけど、僕たちは僕たちでいつものスタジオを離れ、人里離れた静かな場所での能率的な作曲作業を期待して訪れているのだから、この合宿の環境は全くの逆効果だったと言ってもいい。

 さらに泊まっている人数に対してタイトな構造の浴場と食堂、荒井岳史(Vo/Gt)の飯茶碗にだけ二度続けて髪の毛が入っているなどのハプニングもあり、どこでも寝られるし誰とでも割とすぐ打ち解けてしまうパーソナリティに生まれついた僕や原昌和(Ba/Cho)はともかく、どちらかといえば心のシャッターがすぐ閉じてしまうタイプの荒井と川崎亘一(Gt)は、毎晩二人で深酒しながらマネージャー Kを呪うことによって、当初の想像と真逆の環境での作業をどうにかやり過ごしていた。

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