松本千夏×LITTLE「Smile in your face」対談 原曲リリースから20年、世代を超えて語り合う音楽シーンの変化

 J-POPからクラブミュージックなど、ジャンルにとらわれない自由な楽曲制作と、等身大の歌詞が同世代からの支持を集めるシンガーソングライター・松本千夏。彼女とKICK THE CAN CREWのLITTLEのコラボレーションが実現した。

 この共演が実現したのは、1月18日リリースのデジタルシングル「Smile in your face」。BOO feat. MUROによる2002年のヒットソングのカバーである。山下達郎の「SPARKLE」をサンプリングした同曲を現代的にリアレンジするだけでなく、LITTLEもMUROのリリックを引用しながら新しいラップを書き下ろし、名実ともに時代をつなぐ1曲へと仕上がった。

 そのリリースを記念して松本とLITTLEの対談を行い、「Smile in your face」についてはもちろん、原曲がリリースされた2000年代前半の音楽シーンを振り返ってもらった。この20年で変わったこと、変わらないこと、戻ってきたこととは?(沖さやこ)

先輩へのリスペクトと、若い人に受け渡すイメージで書いた(LITTLE)

――なぜ松本さんはLITTLEさんを「Smile in your face」のフィーチャリングアーティストとして招いたのでしょうか?

松本千夏(以下、松本):スタッフさんが「Smile in your face」のカバーを提案してくれて、そのスタッフがパッと“LITTLEさんと千夏の声って合うと思うんだよね”と言ったのがきっかけですね。わたしはもともとヒップホップやラップがすごく好きで、ドカンとくるラップもよく聴いているんですけど、LITTLEさんのまっすぐで優しくて愛があるラップも素敵だなと思っていたんです。でもLITTLEさんとは交流もなかったので共演は無理じゃないかな……と思っていたら、スタッフが“お願いするだけしてみよう”と言ってくれて。そしたらLITTLEさんが受けてくださったんです。

――オファーをもらって、LITTLEさんはどう感じましたか?

LITTLE:「Smile in your face」はロングヒットしていてクラブでもよく掛かる曲だし、今カバーするのはいいんじゃないかと思いました。もともとすごく好きな曲だったし、俺らも同じぐらいの時期に達郎さんのカバーをしてるんですよ。そういう意味でもシンパシーがありましたね。

――山下達郎さんの「クリスマス・イブ」をサンプリングしたKICK THE CAN CREWの「クリスマス・イブRap」が2001年11月に、「SPARKLE」をサンプリングした「Smile in your face」が2002年3月にリリースされています。達郎さんの音楽はヒップホップやクラブシーンで活躍する方々の心も掴むということでしょうか。

LITTLE:もちろんそうだと思いますよ。僕はサウンドをクリエイトするわけではないけど、たとえばKICK THE CAN CREWならKREVAはトラックメイカーだし、MCUは俺らより年上だから達郎さん世代でもあるんです。だからふたりとも達郎さんにリスペクトをすごく持っていて、KICK THE CAN CREWで初めて達郎さんとお会いしたときはKREVAとMCUがものすごく緊張していて。俺も釣られてめちゃくちゃ緊張してきちゃって。

松本:そんなおふたりを見たことないから(笑)。

LITTLE:そうそう(笑)。トラックを作る人で達郎さんをリスペクトしてる人は本当にたくさんいるから、やっぱりそれだけサウンドの作り方が素晴らしいんだよね。

――もともとヒップホップ/ラップシーンではサンプリングの文化がありますが、「SPARKLE」をサンプリングした「Smile in your face」をカバーするという図式は、なかなか珍しいと思います。

LITTLE:だから最初にお話をもらったときに、MUROさんのパートを自分が受け持つイメージがあんまり生まれなくて。そしたら千夏ちゃんのスタッフさんが“MUROさんのラップを生かした作り方をしてほしい”とおっしゃったんですよね。世界観を受け継いだうえで自分なりに作っていくというやり方は割と好きなので、それならやれそうだなと。

――松本さんのファンの方が「いきなりラップから始まるとは思わなかった」とおっしゃっていて。

松本:あ、SNSでそういうコメントがありましたね(笑)。

LITTLE:そうか、千夏ちゃんのファンの人たちからすると新鮮なのか。原曲もラップから始まるので、必然的にそうなりましたね。BOOさんとMUROさんは僕らからすると先輩、千夏ちゃんはすごく年下なので、MUROさんの書いたワードを残しながら先輩にリスペクトを込めて作らせてもらって、さらに今の若い人に受け渡すイメージで書いていって――自分史上いちばん真面目に取り組んだかも(笑)。それだけ自分にとって、ラップのカバーは特別なものがあるんだと思います。

松本:わたしを知らない方々や原曲を知っている方々、LITTLEさんのファンの方々が“え、この曲を今こんな感じでやるの!?”みたいに盛り上がっているのをSNSでよく見かけるんです。あらためてこの曲の凄さを知りましたし、それを歌えているのがすごく光栄です。原曲の「Smile in your face」は20代前半のわたしが聴いても違和感がないし、2000年代前半の音楽と今の音楽は、いい意味であまり変わらないのかなとも思いました。今はイントロがない曲が多いし、声にフォーカスした曲作りが主流だから、ラップ始まりの「Smile in your face」もスッと受け入れられたのかなと思います。

松本千夏 feat.LITTLE - Smile in your face (Official Music Video)

――松本さんが考えるヒップホップの魅力とはどんなところでしょうか。

松本:わたしはもともと歌詞をしっかり聴くタイプなので、たまに“ほんとにこんなこと思ってんのかな?”とか“ちょっと綺麗事すぎないかな?”という歌詞に出くわすこともあって(笑)。でもラップは笑っちゃうぐらい素直というか、言葉にその人自身が存在してると感じるんです。多分“俺たち一生仲間だぜ”とか“離れないぜ”みたいなことを言ってもカッコいいのは、本心からそう思ってるからですよね。それぐらい自分のことをまっすぐ言えるようになりたいし、最近は女性のラッパーさんも増えているので、性別問わず自分を表現する人が増えてるということなのかなと思います。

LITTLE:なるほどね。俺自身もそういうラップを聴いてきたけど、自分を客観視したときに“自分のことばっかしゃべってんな!?”と思っちゃって(笑)。音楽シーンで自分語りだけしていても続けていけないなと思ったのよ。

松本:へえ~!

LITTLE:だからシングルやリードでは夏の曲、クリスマスの曲みたいな作品性を大事にするようになって、アルバムで“俺のラップはどんぐらいやばい”みたいな曲を作るようになったかな。今は自分語りをするラップもヒットしていて、そういうラップを聴いて育った俺らからするとすごくいい時代になったと思うし、テーマやコンセプトがあって、ちょっとしたギミックが効いていて、合うシチュエーションがあるいい曲もたくさん聴いてきてるから、自然とそういうものをやりたい意識にはなっていったかも。

――LITTLEさんから見て、「Smile in your face」がリリースされた2000年代前半の日本の音楽シーンはどんな時代でしたか?

LITTLE:面白かったですよ。まだYouTubeもなくてTVの時代で。地上波にはアイドルや売れてるロックバンドが出ていて、MTVやスペースシャワーTVみたいなCSの音楽チャンネルはヒップホップもロックも、ジャンル問わずごっちゃになって取り上げられてたし、バラエティ要素のある番組やクイズ番組もあって。だからそれぞれで楽しめてましたね。

――KICK THE CAN CREWは地上波とCSどちらにも出演されていて、ヒップホップユニットとしてJ-POPシーンにも進出するなどシーンをまたいで活躍していましたが、どのような心境だったのでしょうか。

LITTLE:それこそ先輩のEAST ENDやスチャダラパーが90年代にJ-POPとヒップホップの間の門を開いてくれていたし、キングギドラの勢いもすごかったし、その後に続いた身としては普通に受け入れられているなという感覚でした。だからヒップホップを背負っていくという感覚はあんまりなくて、自分たちのやりたい音楽をやっていただけでしたね。だから地上波に出たときとかにいちいち“ヒップホップ”と説明されることにちょっと違和感があったかも(笑)。でもいまだにCreepy Nutsが“ヒップホップとは~”と説明しているところを観たりもするので、そういう意味では時代は変わってないというか、世の中が変わるのには時間がかかるのかもしれませんね。

松本:そうだったんですね。わたしは1998年生まれなので、そのときの音楽シーンがどうなってたかまではわからなくて。でもモーニング娘。やミニモニが好きだった記憶があります。

LITTLE:いや、正しい。2000年代前半の音楽シーンはまさにモーニング娘。だった(笑)。

松本:子どもにまで存在が知られるってそういうことですね(笑)。

――2000年代前半から今の音楽シーンでも活躍しているアーティストの方は多いですが、LITTLEさんには同世代のアーティストさんはどのように映っていますか?

LITTLE:僕の周りはヒップホップの人間が多いので、そこ視点の話にはなるんですけど、この年齢まで音楽を続けている人はヒップホップカルチャーや音楽が好きな人ばかりですね。今は成り上がるため、お金を手にするためにヒップホップを選ぶ人もすごく多いけど、僕がラップを始めた頃はお金になるとはまったく思ってなかった。自分がお金持ちになりたい、大きなステージに立ちたいと思っていたら確実に違うジャンルを選んでたと思うし、みんなそうだったんじゃないかな。だからカルチャーや音楽が好きな人ばかりだし、ヒップホップは生き方だから、辞めるとか辞めないとかじゃないんですよね。

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