なとり、“UGC”通して海外にも広がる「Overdose」 ユーザーの制作意欲を刺激する活動展開がヒットの鍵に

 〈Overdose 君とふたり やるせない日々/解像度の悪い夢を見たい〉ーーこんな意味深なフレーズを、浮遊感あるニュアンスをキープしながらも、母音の強弱でインパクトを残すスキルフルなウィスパーボイスで聴かせた「Overdose」で2022年後半にブレイクした、なとり。自身初の配信曲「Overdose」はTikTokで先行して一部が公開され、配信前から“フルバージョンを聴きたい”と話題になっていたが、2022年9月の配信スタートと同時にものすごい勢いで再生数を伸ばし、1月中旬現在、ストリーミングでの総再生回数は1億4000万回を、MVも5000万回再生を突破。さらに、Spotifyでは「Tokyo Super Hits!」「Hot Hits Japan」「キラキラポップ:ジャパン」「Teen Culture」など複数のプレイリストにピックアップされている。

 注目すべきはMVへのコメント数の多さで、その総数は9000以上。その内容は「曲がいい」「なとりの声がいい」「リズムがたまらない」「中毒性がある」……など、ほとんどが楽曲そのものを絶賛するコメントだ。加えて海外からの書き込みもとても多い。それらが象徴するように、「Overdose」は曲のクオリティの高さによって2022年下半期を代表するヒット曲となった。その勢いは2023年になっても衰えを知らない。

なとり - Overdose

 現在19歳のシンガーソングライター なとりは、2021年5月に音楽活動を開始するとTikTokで次々に楽曲を投稿。曲ごとにイメージの異なる、インパクト溢れるビジュアルを使ったリリック動画で注目を集めた。このTikTokをメインにした“動画と楽曲を並行させた”活動展開と、前述した楽曲そのもののクオリティや中毒性が「Overdose」にこれまでとは違った拡散性をもたらした。TikTokで「歌ってみた」「踊ってみた」「弾いてみた」からバズを起こし、ヒットするにつれ「推し動画」や「Vlog動画」など、多彩なジャンルの動画に使われるようになるのはTikTokの定石だが、「Overdose」は「Remixしてみた」や「リップシンクしてみた」といった動画へ派生し、ユーザーがもう1歩踏み込んだ形で曲を使用していった。この現象はYouTubeなどにも広がり、VTuberや歌い手が「Overdose」を歌ったり、バンドが楽曲をカバーしたり、リアレンジしたりと、様々な形で一般ユーザーによって制作されたコンテンツ(UGC)がどんどん増えていった。

 UGCがこれだけ増えたのは、もちろん楽曲の良さが最大の原因だが、なとりの“動画と楽曲を並行させた”活動展開が、一般ユーザーの制作欲を刺激したからではないかと考える。この流れは、YouTubeチャンネル登録者数が228万人を超えるインドネシア出身のシンガー・レイニッチが同曲のカバー動画を投稿するなど、海外にも及んでいる。

【Rainych】 Overdose - natori / なとり (cover)

 そんな中、なとりは2023年1月初旬に、“中国版ニコニコ動画”と称されることもある中国の動画共有サービス「Bilibili」にオフィシャルアカウントを開設。約1週間で再生数は25万回を超えた他、登録者も4万人に迫ってきている。「Bilibili」への初投稿動画では、なとり本人が冒頭で英語と中国語で挨拶しているのも貴重だ。このように、楽曲使用を規制するのではなく、オフィシャルアカウントを開設してオープンにしてしまうような、これまでの音楽業界の常識を軽く飛び越えてしまうスタンスこそ、UGCが増え続けている理由だと思うし、これからワールドワイドに活躍していくアーティストになるのではないかと期待せずにはいられない。

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