Hana Hope×まつむらしんご×吉田美月喜『あつい胸さわぎ』鼎談 嘘のない歌声が彩った、映画の普遍的なメッセージ

「“分からない、どうしよう”という不安や混乱を大切に演じる」(吉田)

ーー寄り添うといえば、エンドロールで曲が流れ出すタイミングも絶妙でした。千夏が最後の台詞を言った後、ほんの僅かな間を置いて、Hanaさんの第一声がそっと耳に届く。物語と主題歌が、最良の形で支え合い、繊細な世界を形作っています。

まつむら:そのシーンの呼吸は作り手としてもこだわった部分なので、ぜひ劇場で体感していただきたいですね。ちょっとだけ裏話をすると、曲が上がってきた段階で、フィックスしていた編集のタイミングを変えたんです。当初は千夏の台詞とHanaさんの歌声がなだらかに繋がっていくイメージだったんですが、〈わたしに 聞こえる〉という最初の入り方があまりに素晴らしかったので。歌の導入部が際立つように、ほんの少し間を伸ばした。時間にすれば1秒にも満たないと思いますが、仕上がりはかなり変わったと思う。

Hana:ラストの千夏ちゃんの台詞、すごく心に残りますよね。物語が終わって、自分の声だけ聞こえてきた瞬間はちょっとびっくりしましたけれど(笑)。忘れられないモーメントです。

まつむら:吉田さんの芝居も素晴らしかった。

吉田:あの日はとても緊張しました。映画の核になるとても大切なシーンで。しかも最後の台詞はたった一言、それもシンプルで当たり前の言葉じゃないですか。そこにどう説得力を持たせられるか。何回もやりすぎると、かえってニュアンスが分からなくなってしまう気もして。

まつむら:そんなにテイク数は重ねられないというのは、無言のコンセンサスとしてあったよね。僕の中では、多くて3回だなと。実際は2つ目のテイクでOKを出したんですが、あのラストカットが撮れた瞬間、心の中で「勝った!」と叫びました。この映画は必ずいいものになる。必要としてくれている誰かに、間違いなく届くはずだと。そう確信したんです。

Hana:短い言葉の中にいろんな思いが詰まっている気がしました。友だちへのエール、自分への励まし。あと、物語を見守っている私たちへのメッセージも。それが全部、一瞬のお芝居に凝縮されているのがすごいなって。

吉田:ああ、よかった。そう言っていただけて、ホッとしました。

まつむら:映画って必ず終わるでしょう。どんな作品にも必ずラストシーンがある。でもそれは、あくまで便宜的なものであって。登場人物たちの人生は、観客の中でその後もずっと続いていく。そうあってほしいと願いながら、僕はいつも映画を撮っています。『あつい胸さわぎ』のラストもまさにそう。千夏にとっては、あれは新たな人生のオープニングシーンでもあるんですね。たとえ困難だったとしても、それは決して不幸なものじゃない。そう伝えることが、この映画を撮る理由だと思っていたので。その意味で今回、吉田さんの芝居とHanaさんの声が、とてもいい余韻を作ってくれたんじゃないかなと。

Hana:今のお話を伺って感じたんですが、実は私も、レコーディングであまりテイクを重ねないようにしています。もちろん細かい微調整を加えて完成度を上げていくやり方もあると思う。でも自分は、歌が持っている気分とか感情をより大事にしたいんですね。それには自分の中でしっかりイメージを膨らませ、1回に集中した方がいい。そこは今回も変わらなかったです。

吉田:本作のお芝居ともちょっと通じますね。

Hana:はい、そう思いました。千夏を演じるにあたり、吉田さんはどういう役作りをされたんですか?

吉田:若年性乳がんというテーマについては、私自身もこの作品が決まるまでほとんど知識がなかったので。事前に病院でお話を伺ったり、当事者の方々のリアルな声をネットで読んだりして、自分なりに調べるところから始めました。そうすると本当に膨大な情報が出てくるんですね。何を信じ、誰に相談すればいいのか、最初はまるで分からない。映画の中の千夏も、きっと同じだったと思うんです。なので、私が感じた「分からない、どうしよう……」という不安や混乱は大切にして演じようと意識していました。

「Hanaさんの声が加わって、100点が200点になった手応え」(まつむら)

ーーHanaさんは、どのシーンが特に記憶に残りましたか?

Hana:千夏ちゃんが未来に向けて踏み出していくラストは、最高にパワフルで感動的でした。あとは、治療をめぐりお母さんに当たってしまうシーンかな。絶望しかかった一人娘にどう接すればいいか迷いつつ、何とか支えようとするお母さんの表情が素晴らしくて。この先どんなことが起きても、一緒に向き合っていこうというメッセージが全身から伝わってくる。2人の関係性にぐっときました。

吉田:常盤貴子さんと母娘役で共演し、お芝居を肌で感じることができたのは本当に幸運でしたし、自分にとって大きな経験になりました。台詞はもちろん、ちょっとした表情や佇まいだけで細やかな感情が伝わってきて。役者としても人としても、一緒にいられて幸せな時間だったなって改めて思います。

Hana:どこかに見守ってくれる人がいるって、素敵ですよね。

吉田:本当に。千夏は、実は周りの人にすごく恵まれているなと思いますね。病気になって何もかもが嫌になり、恋も青春も、幸せな未来も全部奪われた気がしても、実は誰も彼女のことを見捨てていない。みんなが全力で見守ってくれています。それに気づき受け入れていくプロセスも、この作品の魅力だと私は思っていて。そうやって周囲に支えられ、生かされていたところも、この撮影現場における自分と重なるのかなって思います。

まつむら:この映画を撮るとき、1つだけ心に決めていたルールがあるんです。それは劇中で簡単に答えを出さないこと。若年性乳がんになった女性がどんな気持ちを抱き、どういう事態に直面しているのか。本当のところ僕には分かりません。だからこそ本作では、千夏という18歳の女の子をファインダー越しにしっかり見つめてみたかった。そうやって何かについて考え続けられるのも、自分が映画を作る大きな理由なんですよ。実際、撮ってみて初めて腑に落ちる感覚というのもいろいろあって……。

ーー例えば、どういうことでしょう?

まつむら:告知を受けた瞬間から、千夏の人生は一変してしまいます。でも、ちょっと残酷な言い方かもしれないけれど、世界は何も変わらないんですね。カメラを通して客観的に眺めることで、その事実がより際立つ。ただ、僕にはそれが1つの救いにも感じられたんです。

吉田:その感じ、何となく分かります。

まつむら:世界そのものの成り立ちが変わってしまったら、一個人の意志では太刀打ちできないかもしれません。でも世界が変わらず目の前にあるのならば、気持ちを奮い立たせて、また飛び込んでいくこともできます。もちろん現実は簡単ではないけれど、撮影中にそう実感できたのは、少なくとも僕にとってはよかった気がする。人は誰でも失いたくないものを持っていますよね。病気に限らず、それを理不尽な理由で奪われてしまったとき。若者は何を感じ、どう生きようとしたのか。まさに冒頭Hanaさんが仰ったように、この映画はそんな普遍的なストーリーになったと思うんです。

ーー最後にもう1つ。映画が公開直近の今、Hanaさんは「それでも明日は」というナンバーにどんな思いを抱いていますか?

Hana:私にとってまた1つ、大切な曲ができました。その巡り合わせに心から感謝しています。今の気持ちを決して忘れずに、ステージでも毎回しっかりと感情を込め、丁寧に歌っていきたいと思います。

吉田:エンドロールの後も、観た人の心を温かく包んでくれる。そんな曲ってなかなかないですよね。素敵な声で千夏に寄り添ってくださって、ありがとうの気持ちでいっぱいです!

Hana:こちらこそ、ありがとうございます。

まつむら:僕からの補足は、もうありません(笑)。振り返ってみれば、本当に縁に恵まれた映画になりました。3年前、友だちに誘われ『あつい胸さわぎ』の舞台を観に行ったのもたまたまでしたし。吉田さんとの出会いも、常盤さんが出演してくださったことも、優秀なスタッフが集い、和歌山でロケ撮影できるようになったのも、すべて偶然の産物でした。その時点で監督的には100点をつけていたのに、最後の最後でHanaさんの声が加わった。さらに100点加算されて200点になった手応えがあって、最高に幸せな気分です。

■リリース情報
Hana Hope
「それでも明日は」
作詞:柴田聡子
作曲:UTA
編曲:UTA for TinyVoice,Production
ダウンロード/ストリーミング
https://lnk.to/SoredemoAshitaha

『Sentiment/Your Song』
1. Sentiment
(作詞/作曲/編曲:Black Boboi)
2. Your Song
作詞:Yui Mugino
作曲:Shigekazu Aida
編曲:Souki Urakami
https://linkco.re/GQmh4hhh

『きみはもうひとりじゃない』
1. きみはもうひとりじゃない
作詞:加藤登紀子
作曲/編曲:江﨑文武
2. 16 - sixteen
作詞・作曲:Hana Hope
編曲:ROTH BART BARON
https://lnk.to/YouAreNotAloneAnymore

■Hana Hope関連リンク
Litlink:https://lit.link/hanahope
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■映画情報
『あつい胸さわぎ』
2023年1月27日(金)全国ロードショー
監督:まつむらしんご
出演:吉田美月喜 常盤貴子
前田敦子 奥平大兼 三浦誠己 佐藤緋美 石原理衣
主題歌:Hana Hope「それでも明日は」
配給:イオンエンターテイメント、SDP
製作:映画『あつい胸さわぎ』製作委員会
映画公式サイト

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