鈴木則孝氏に聞く、角野隼斗/かてぃんとの出会い 自身のキャリア、ジャンルを超えて広がるピアノシーンの今も
『特級グランプリ』獲得後の角野に依頼した意外な初仕事
ーーでは、現在マネジメントをされている角野さんとの出会いについて聞かせてください。
鈴木:ワーナークラシックスのスタッフがPTNA(ピティナ:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)との共同プロジェクトを進めていて、2018年に『第42回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ』を受賞したので、僕が角野さんに会いに行ったのがきっかけです。
ーーその時の角野さんの印象は?
鈴木:真面目な好青年といった感じで、話しやすかったです。
ーーそこからどのように作品制作へと話を進めていったのですか?
鈴木:僕は2009年にリリースされた『島本須美 sings ジブリ』のリレコーディング作品を出したいと思っていました。角野さんの当時のYouTubeも見ていたり、編曲もすることも聞いていて、直感的にちょうどタイミングが良い気がしたのでピアノアレンジと演奏をオファーすると、彼は二つ返事でOKしてくれました。特級グランプリを獲ったばかりの彼に最初に依頼する仕事としては、我ながらなかなかぶっ飛んでいたと思いますが、どこかで、彼ならやってくれるだろうという予感もありました。
最初に「君をのせて」のアレンジデモ音源を上げてくれたんですが、それを聴いた瞬間に“角野隼斗と仕事をしたい”と思わせるものがありました。その後、他の楽曲のアレンジも続々と上がってくる中で、アプローチのそこかしこにクラシックのエッセンスが入っていて、この人はクラシックを心底愛していて遊んでいるという、彼の個性を強く感じた初仕事でした。
ーー作品完成後のプランはどういったものでしたか?
鈴木:この作品を携えてすぐにコンサートをしたかったのですが、コロナ禍と重なってしまいまして……2022年にようやく実現しました(島本須美/麻衣/角野隼斗/菊池亮太による歌とピアノのスペシャルコンサート「sings ジブリ」)。
ーーなるほど。その後イープラスへ移籍され、コロナ禍の真っ只中から新天地でのスタートに。
鈴木:イープラス 橋本行秀会長のスタンスと合致し、2020年2月から、マネジメント、コンサート、アルバム制作を一カ所で行うことになりました。パンデミックでつまずいた部分もありつつ、当初から描いていた4年がかりくらいのビジョンを、彼は半分の期間で達成した印象です。
最初の1年はやはりライブも組みづらく、プランニングとして厳しい面もありました。その思うように動けない時期にYouTubeでの活動に積極的に取り組み、じわじわと登録者数を伸ばしていった。彼の動画の良さは、ヒット曲を連日カバーするようなスタイルではなく、時間をかけてアイデアを詰め込んだ演奏を公開するところでした。ストリートピアノがコロナ禍で物理的に難しくなっていく一方で、自宅からの配信という形でクオリティにこだわった演奏をアップし続けていく手法が図らずも時期にマッチしていた部分かもしれません。
ーーチャンネル登録数は100万人を突破していますね。
鈴木:“登録者100万人”にしても、急にではなくなだらかに時間をかけて進んでいった結果です。この間のタイアップやCM、配信コンサート、アルバム制作や、ポップスとのコラボなどはこちらからサポートし、音楽を届けられるものに限定しようという指針で露出を作っていきました。
ーー丁寧にピアノが伝わることだけをやってきた。
鈴木:最初の一年くらいはそうして頑張ってきて、ようやく年末に昼公演+配信という形で、サントリーホールでの公演を開催することができました。
「アコースティックピアノバージョン」が求められる理由
ーー鈴木さんから見て、今、ピアニストのシーンはどう見えていますか?
鈴木:クラシック、ジャズ、ポップス、といったジャンル分けではなく「ピアノ」というジャンルになっている印象です。リスナーがそれぞれのピアノをシチュエーションに合わせて楽しんでいる。「何のジャンルのチャートに入るべきか」は販売する側としては気にしますが、リスナーはJ-POPカバーも『ショパンコンクール』も『フジロック』も、「ピアノ、すごい! かっこいい!」を基準に聴いているようで。
ーーこれまでピアノは、クラシック、ジャズ、クロスオーバー、などカテゴライズされることが多かった気がします。
鈴木:そういう意味でも色々なカラーを持つピアニストがYouTubeで活躍したことでもたらした影響は大きいのではないでしょうか。角野さんのスタイルにはそのハブである要素も感じます。
ーーポップスにおけるピアノの重要性が高まっているのでしょうか?
鈴木:J-POPにはリリース楽曲の「アコースティックピアノバージョン」というものが長年に渡り存在しますよね。なぜ凝って作り込んだ元のサウンドをピアノというシンプルなアレンジに、ある意味ダウンスケールするのか? そこには、ピアノというオーケストレーションを内包している楽器のミニマルビューティさを、人間が本能的に好きで、感じたいというものがある気がします。そしてそれを感じさせてくれる確かなクオリティを求めている。そのため、アレンジ力は非常に求められるところだと思います。
ーーピアノアレンジは角野さんの強みであり、オリジナリティあるところでもありますね。
鈴木:角野さんは、アレンジャーでありコンポーザーでもあります。来年のコンサートツアーのタイトル『Reimagine』という言葉にも表れていますが、彼はピアノで“再構築”をする、というスタンスもずっと持っています。
ーー最後に、鈴木さんの今後取り組みたいことについて聞かせてください。
鈴木:例えば反田恭平さんは、音楽学校を作りたいと話されていたり、後進のバックアップを考えている。角野さんも、コンサートに学生席を多く設けたり、学校でのコンサートに積極的で、子供たちに音楽を届けることに重きを置いている。やはり、音楽を聴く環境があるかどうかで後進の育成は変わりますし、そういったことをアーティスト自らが強く意識しているように思います。
ーーピアノというジャンルもまた進化を遂げるのでしょうか?
鈴木:きっと、今後も「のだめブーム」や「YouTuberブーム」の時のように、驚くような展開が必ずきます。角野さんのような人は稀有だと思う反面、彼の存在をゴールと思わないことが我々には大切です。当然彼も進化/変化していきますし、いずれ新しい才能が現れるのです。10年以上前にラン・ランと何日もレコーディングやコンサートでご一緒した時に、僕は彼以上のピアニストに会うことはないだろうと確信していましたからね(笑)。それは大きな誤解でしたし、“誰々以上”という考え方自体が誤りで。今後も環境やメディア、テクノロジーの変化はアーティストの可能性をもっと広げるはずです。僕たちのような仕事をしている人がやれることは、『ショパコン』がYouTubeで見られたように、コンサートがストリーミング対応になったように、聴いてもらう機会を、可能な限り多く作っていくことだと思っています。
ーー出会いの機会をいかに作っていくか、という。
鈴木:アーティスト自身が次世代の登場を意識している今、僕たちもアーティストという“個人”だけでなく“音楽そのもの”に向き直りたいなと思っています。そうすれば、現在のアーティストと共に音楽に出会うための企画になり、新しい才能との出会いへとシフトしていけるように思います。そこからもたらされる、ピアノやクラシック音楽を聴いた人が、またアーティストにもリスナーにもなってくれるって素敵なことですよね。
■リリース情報
角野隼斗
『ショパン: ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11』
発売日:2022年12月21日(水)
収録曲:
ショパン: ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11
1. 第1楽章 Allegro maestoso
2. 第2楽章 Romanze, Larghetto
3. 第3楽章 Rondo, Vivace
初回盤ボーナス・トラック
4. 角野隼斗: 胎動 New Birth
5. 角野隼斗: 追憶 Recollection
演奏:
1-3 マリン・オルソップ(指揮)、角野隼斗(ピアノ)、ポーランド国立放送交響楽団
2022年9月10日(土)大阪:ザ・シンフォニーホールにてライヴ録音
4-5 角野隼斗(ピアノ)
品番/価格:
初回盤 em-0024 / 3面デジパック+ボーナス・トラック 2曲 収録 / ¥3,000(税込)
通常盤 em-0025 / ¥3,000(税込)
※添付のジャケットデザインは通常盤の仕様。初回盤は別デザイン予定(後日発表)
デジタル配信:10月17日(月)~主要音楽配信サービスにて順次配信開始
https://orcd.co/hayatosumino_chopin1
■ライブ情報
『角野隼斗 全国ツアー2023“Reimage”』
▼公演日時
1月19日(木)宮城:日立システムズホール仙台 コンサートホール
1月27日(金)神奈川:横浜みなとみらいホール 大ホール
1月29日(日)岡山:岡山シンフォニーホール 大ホール
2月1日(水)新潟:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
2月3日(金)大阪:ザ・シンフォニーホール
2月5日(日)岐阜:バロー文化ホール(多治見市文化会館)大ホール
2月10日(金)神奈川:ミューザ川崎シンフォニーホール
2月12日(日)長野:サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 大ホール
2月17日(金)福岡:福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
2月19日(日)山形:山形テルサ テルサホール
2月22日(水)北海道:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
2月24日(金)愛知:愛知県芸術劇場 コンサートホール
2月26日(日)東京:サントリーホール
3月3日(金)京都:京都コンサートホール 大ホール
3月5日(日)石川:石川県立音楽堂 コンサートホール
3月10日(金)東京:東京オペラシティ コンサートホール
▼演奏予定曲
J.S.バッハ: パルティータ 第2番 BWV826
J.S.バッハ: インベンション より
ラモー: 新クラヴサン曲集 より
グルダ: プレリュードとフーガ
カプースチン: 8つの演奏会用練習曲 Op.40
角野隼斗: 胎動 / 追憶
角野隼斗: Human Universe 他
※曲目は変更となる場合があります。予めご了承ください
▼料金
全席指定 S席:一般 ¥6,800 学生 ¥3,000
A席:一般 ¥5,800 学生 ¥3,000
※「多くの学生にも聴く機会を」という角野隼斗の熱い希望により学生席が設けられた。
対象は25歳以下の学生となり、S席、A席はともに¥3,000(要学生証)
▼一般発売
2022年10月22日(土)
▼公演詳細
https://hayatosum-tour2023.com/
■アーティストリンク
角野隼斗オフィシャルサイト:https://hayatosum.com/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/chopin8810