THE BACK HORN、雨の中にも広がった奥深い音楽世界 5年ぶり日比谷野音での『夕焼け目撃者』

 THE BACK HORNが9月24日、日比谷野外大音楽堂で『KYO-MEI ワンマンライブ 〜第四回夕焼け目撃者〜』の東京公演を開催した。今年4月にニューアルバム『アントロギア』をリリースし、5月から7月にかけてワンマンツアーを開催。バンドとしてのさらなる充実ぶりを示してきたTHE BACK HORNは、この日のライブでもーー前半は雨、後半は秋の爽やかな空気のなかーー圧巻のステージを繰り広げた。

 心配されていた台風は温帯低気圧になったものの、開場時間から開演までかなり強い雨が降り続いた。ときどき雷の音も聞こえたが、スタッフが慎重に天候の変化を確認しつつ、定刻通りにライブは始まった。

 菅波栄純(Gt)、岡峰光舟(Ba)が手掛けた(まるで“青森ねぶた祭”のような)バックドロップが掲げられたステージにメンバー4人が登場。オープニングは、1stアルバム『人間プログラム』(2001年)の1曲目に収められた「幾千光年の孤独」。イントロがはじまった瞬間に歓喜のどよめきが起こり、観客は雨に打たれながら、楽しそうに体をゆらしはじめる。神話的な世界観と生々しい肉体性に貫かれた音像がぶつかり合うこの曲は、まさにTHE BACK HORNの原点だ。さらに強烈なスラップベースに導かれた「金輪際」(アルバム『カルペ・ディエム』/2019年)、ファンクネスを感じさせるサウンド、〈今夜生きる意味なんて知らねぇ/命がただ叫びだしてる〉という歌詞が響き合う「涙がこぼれたら」(シングル『涙がこぼれたら』/2002年)と“孤独”をテーマにした楽曲を披露。オーディエンスの心と体を強く引き寄せる。

山田将司(Vo)

 「“夕焼け”どころか祝福の雨になりました。たっぷりと伝説の野音を一緒に作っていきましょう! 野音、素晴らしい夜にしましょう!」と松田晋二(Dr)が挨拶した後も、様々な時期の楽曲が演奏された。

 SF的な妄想とリアルな風景が重なる「情景泥棒」(ミニアルバム『情景泥棒』/2018年)、ヘヴィかつシリアスなTHE BACK HORN流のブルース「ファイティングマンブルース」(アルバム『太陽の中の生活』/2006年)、複雑怪奇な楽曲展開とドラマティックな照明、さらに強まった雨の音が共鳴し合った「悪人」(シングル『悪人/その先へ』/2015年)、レゲエやヘヴィロックが混ざり合う「疾風怒濤」(アルバム『アントロギア』)。時代を行き来するようなセットリストであり、楽曲のテイストもまったく違うが、もちろん違和感はまったくなく、このバンドにしか表現できない世界観、音像、パフォーマンスがリアルに立ち上がる。その根底にあるのは圧倒的な身体性と、あらゆる常識や枠を打ち壊すような想像力だろう。

 ライブ前半のハイライトは「カラビンカ」だった。シングル『コバルトブルー』(2004年)のカップリング曲として収められたこの曲は、グランジ直系のギターリフ、和の怖さを感じさせるメロディを軸にしたロックチューン。〈カラビンカ 雨の中舞い踊れ〉というフレーズが雨の野音の風景と結びつき、感動と高揚感が押し寄せる。エンディングでは山田将司(Vo)がギターを弾き、菅波が踊り出すシーンも。このエモーショナルな祝祭感もまた、THE BACK HORNのオリジナリティだ。

 「5年ぶりにまた、野音でやれるのを嬉しく思っています」「いろんな時代の楽曲が散りばめられております。『マニアックヘブン』とは違った、野音ならではのライブにできるといいなと」(松田)と今回の『夕焼け目撃者』に対する思いを語った後は、このバンドの“歌”の魅力をじっくり味わえる時間が続いた。

 まず「何もない世界」(『B-SIDE THE BACK HORN』/2013年)では、儚く、叙情的な雰囲気とともに、そこはかとない寂しさを描き出す。さらに「I believe」(アルバム『カルペ・ディエム』)では透明感のあるメロディのなかで“すべてを失ったとしても、夢を信じていたい”という切実な思いを響かせる(このあたりで雨が止み、虫の音が聴こえてきた)。

 悪夢のような孤独を濃密なロックナンバーに導いた「ひとり言」(アルバム『甦る陽』/2000年)の後は、メンバー全員でMC。「ここに出てきたとき、みんなの笑顔に励まされたわ。ありがと、マジで」(菅波)「天気予報は当たらないね。予報は外れても、期待は外さないよ(笑)。前回の野音も雨だったから、しばらく“夕焼け”見てないね」(山田)とゆったりしたトークが続く。秋の涼しい風が気持ちいい。

 「この秋めいた空気にぴったりの曲だと思います」と山田が紹介したのは、ライブ初披露となった「輪郭」(配信EP『この気持ちもいつか忘れる』/2020年)。その後の「瑠璃色のキャンバス」も強烈だった。アルバム『アントロギア』の起点になったこの曲は、コロナ禍がはじまった2020年6月に配信リリース。THE BACK HORNの不屈の精神を示すと同時に、この2年間の活動のエンジンになった楽曲だったと言っていいだろう。全身全霊で歌を届けようとする山田の姿は、このバンドの魂そのものだった。

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