「この作品を最後にしてもいい」Mardelasが乗り越えた葛藤 4年ぶりアルバム『Mardelas Ⅳ』コロナ禍での制作の裏側

Mardelasは、歌とギターがイーブンであるべき

Mardelas "Spider Thread" (Music Video)

――知っている人は懐かしく楽しめると思います。そして、冒頭にも話があった「Spider Thread」、新機軸であるのもわかりますが、個人的にはMardelasらしいなと思ったんです。

本石:そうですか? 完全に僕の趣味を詰め込んだだけなんですけど(笑)。

――ええ。先ほどDream Theaterの名前が挙がっていましたが、確かに言われてみれば納得はするんです。

本石:聴きやすいDream Theaterみたいな。イントロとかは思いっきりそうですけど、別に変拍子とかをバカバカ入れたわけじゃないので、そんな感じはあまりないかもしれませんね。サビはキャッチーですし。ただ、テンポチェンジとフェードアウトは絶対にと思ってたんですよ。それからドラムがめっちゃ難しいですね。普通に聴いてわかる以上に凝ってます。

及川:確かに自分はこういう曲は書けないというか、書かないなと思って新鮮でしたね。Dream Theaterとは言ってたので、ギターソロのアプローチとかは、ジョン・ペトルーシを参考にしようかと思って改めて聴いたりはしたんですけど、ちょっと自分らしさを抑えて、テクニカルに弾いたのが中間のソロですね。テンポが変わって、歌との掛け合いのところなどは思いきり自分のスタイルで、場面を切り替えたイメージで構築しましたね。

――速弾きで押してくるところは、地獄みたいな雰囲気ですよね。

及川:ははは(笑)、でも、そうだなと思いますね。ガラッとテンポが変わって、リフが7弦ギターで入って。カオスな感じを出すのが良いと思ったんですよ。そのうえで速弾きというのは、表現のツールとして必要だと思って、こういうゴリゴリに押すアプローチにしたんです。

――アップテンポになってからのリズミカルなバッキングもすごくフックがありますね。

及川:それは作曲の段階から入っていて、(本石が)頑張って弾いたんだなぁと、もらったときは思ったんですけど、その通りにカッコよく弾いた感じです。結構凝って作ってますよね。

――エンディングのギターソロもまた良いです。

及川:そうですね。そもそもMardelasって、歌とギターがイーブンであるべきだと思ってやってるんです。だから、あそこは歌からもらったバトンを、ギターがさらに盛り上げて返すじゃないですけど、そういうイメージで弾いてますね。

――先ほどMardelasらしいと言いましたが、それを強く感じるのはマリナさんの歌なんですよ。“情念の女”と言いますか……。

蛇石:はい(笑)。

――一つの物語をきちんと組み立てていく歌の強みが、すごく出ている。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を下地にした歌詞の書き方も含めて、いろんなものが上手く噛み合った曲だなと。

蛇石:まずデモをもらって、自分の中音域のよさを引き立てようとしてくれて、このメロになったんだろうなという印象を受けたんですね。『蜘蛛の糸』という歌詞のテーマも、本石さんからオーダーを受けて書いたんですよ。文学スタイルじゃないですけど、これは得意分野なので、原作からの引用も使いつつ、最後に自分の解釈を入れて終わるという組み立てをしました。歌はわりと歌詞に引っ張られて……自分のことを“情念系”って呼んでますけど(笑)、その良さみたいなのも素直に出したらいいんじゃないかなと思って歌いましたね。

――最後の一節〈もし再び生を享けるなら〉というくだりは惹き付けられますよね。

蛇石:そこだけが原作にない場面なんです。最後は光が見えるようにしたいって言われたんですけど、『蜘蛛の糸』はバッドエンドなんですよね。だから、そのままでは光は見せられない。そこで自分の解釈を入れて、余韻をさらにつけ足すというアイデアにしました。

綺麗事で人を励ますことはしたくなかった

――この重厚な曲がある一方で、「Raccoon Party」はアルバムの頭から順に聴いてくると、びっくりしますよね。

及川:そうですね。セクション的にはここで一旦、真剣なものを仕切り直す感じですね。

蛇石:パーティーソングみたいなものって、アルバムに毎回1曲は入れてるんですよね。一見ふざけてるんですけど、狸の皮をかぶった中身の人は大真面目みたいな、道化師がちらっと見せる本音のようなものもどこかに入れたいなと思って。苦しい時代だからこそ、エンタメを頼ってほしいって思ってて、Mardelasも、その選択肢の一つに入れてもらえたら嬉しいなって気持ちで書いたんですね。だから、狸というのはエンタメそのものの比喩であって。英詞を書くようになってから、比喩の手法、考え方の引き出しが増えたんですよね。日本語の比喩や発想とはまったく違っていて。たとえば、映画を観ていても、これは字幕でどう訳すんだろうと思うものってあって。英語のような振り切った比喩を、日本語で使ったらこういう感じになったというか。でも、本当は生きてさえいれば、きっとどうにかなるということを真剣に書きました。ふざけているようで、大真面目に書いてます。

――それがわかるのはサビの一節ですよね。ガラッと表情が変わるじゃないですか。そこでこの曲の本質が出てくる。

蛇石:そうですね、〈生きてくことに疲れたなら ここにおいで 僕がいるよ〉というのは、最初からこの曲のどこかに入れたかった歌詞だったんですね。そこがメインのメッセージとしてあるかなと思います。サビは前向きっぽいけど、最後は〈つらいなぁ〉と終わっているのも、綺麗事で人を励ますことはしたくなかったという私のこだわりでもあるんですね。より現実的というか、辛いときがあっても、無理に前向きになりすぎる必要もない。ただ生きてさえいれば何とかなる。

――〈いらっしゃいませ〉という歌い始めからのギャップも結果的に奏功していると言えそうですね。

及川:最初に仮歌をもらったときに、「えっ、ふざけすぎじゃない?ちょっと書き直したら?」みたいな感じで言ったんですよね(笑)。でも、本当の意味を説明されて、これでいいと思いました。パーティーソング枠だったんで、曲そのものはちょっとふざけた感じで書きましたけど、仮タイトルから「Raccoon Party」だったんですよ。そのワイワイしてる感じがそのまま歌詞になった感じもあって。曲自体にもこだわりがあって、ヘヴィメタルしかやっていない人にはできないであろうアプローチを、自分なりにふんだんに入れました。

本石:サビもウォーキングベースでちょっと難しいんですよ。その辺のメタルバンドではやらない感じでね。

及川:そうね。こうやって弾いてくださいって僕が指定して。フレーズの構築の仕方とかは、ジャズ、ブルースを取り入れましたね。

――ジャズ、ブルースと言いながら、リズムはファンクだったりもするじゃないですか。

及川:そうですね。3連系で、かつサウンドは普通にハードロックっていう。

――とはいえ、良い意味でそれを意識させないロックンロールに落とし込んでいる。

及川:うん。ちょっと意識したのは、ブライアン・セッツァーとか、あの辺のロカビリーっぽいノリですね。そこに上手く自分というものを収めて。ギターソロの入り方はジョージ・リンチとかを意識してましたね。ピッキングハーモニクスがすごく出てる感じ、鋭い感じとか。

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