Creepy Nuts、新作『アンサンブル・プレイ』をポップたらしめるフィクション性 “主体を隠す”ことから生まれた普遍的な解釈

恋愛を歌うことで獲得した“新しい自意識の表現方法”

 しかし同時に、これまでの歌謡曲やポップスもそうであったように、何かを表現する上で、それがどれだけフィクションで主体を問わない作品であろうとも、人が作る限り、完全に自意識と切り離して書くことは不可能だ。話題のAI生成イラストも、その入力(よく“詠唱”といわれるもの)には人為が存在するし、そこに微々たるものではあるが、自意識は介入する。その意味でも、当然ながらこの作品にも自意識は随所に垣間見られる。特にそれが強いのは「堕天」だろう。

 アニメ『よふかしのうた』(フジテレビ系)のオープニング主題歌であり、作品自体にインスパイアされて書かれたというこの曲で、Creepy Nutsとして恐らく初めて明確に“恋愛”について歌った(ワードとして“愛”や“恋”は出て来ないが、歌詞の内容からそれは明らかだろう)。その部分でもCreepy Nutsの作品性の変化を感じるが、興味深いのは、DJ松永の手掛ける“アッパー”な感触のトラックと、恋愛を“堕ちる”と書くR-指定のリリックとの対比であり(それをフックで〈fallin' falling/螺旋状に堕ちてゆく摩天楼に〉と天地を逆にしたり、曖昧にする構成も上手い)、この曲の隙間から見え隠れする自意識だ。

Creepy Nuts / 堕天【MV】

 『よふかしのうた』というコミックから、「エデンの園」「アダムとイブ」「禁断の果実」という古典へと、フィクションからフィクションに飛び移りながら、その世界観をCreepy Nuts流に再解釈し、さらにフィクションとして構築したこの曲。ここでテーマになった禁断の果実は、知恵の象徴である。そして知恵によって“自意識”が生み出され、それによって“自”と“他”が峻別される。同時にその“自”と“他”が精神的にも物理(肉体)的にも交差し、官能として綯い交ぜになり、自意識が解れてしまうものの原初的な形が、この曲で描かれる“恋愛”の作用であろう。その意味でも“自意識を描くこと”をひとつのアイデンティティにしてきたCreepy Nutsが、その自意識を外側からも内側からも壊す恋愛を表現したのは、『アンサンブル・プレイ』自体がCreepy Nutsの自意識をブレイクスルーさせた作品であることにも繋がっていく。

 同じように『よふかしのうた』の挿入歌である「ロスタイム」では、〈自分が自分である事/気がついてしまわぬよう〉と歌う。ひたすらに“自分が自分である事”を歌ってきたCreepy Nutsが、夜という陶酔の中で、自分という主体をあえて見失うことを願うこの曲がアルバムの後半に据えられたのも、必然と言えるだろう。

TVアニメ『よふかしのうた』第2夜挿入歌Creepy Nuts「ロスタイム」リリックビデオ(セリフ・SE無しアニメ映像)

 そうした、作品に対する意識や姿勢の変化を表出させた今作は、Creepy Nuts流の“良い年のこき方”を表したのではないだろうか。経年をそのまま受け止め作品にスムーズに落とし込むスチャダラパーや、「POP LIFE」で〈あの頃にはあの頃の悩みが その頃には心の暗闇が〉と歌うように、年齢による考え方の変化や自意識を作品に反映させてきたRHYMESTER(その2組がタッグを組んだ曲が「Forever Young」というのは興味深い)、またサイプレス上野とロベルト吉野のように40歳を迎えても〈まだまだ行けるぜ〉(「ドリームアンセム」)とハッパを掛けるのも一つの考え方だし、GEEKのようにハッスルから家庭人への“しみったれた”生活を描くのもいい。そういった経年とどう向き合うかは、キャリアを重ねていくアーティストの宿命と言える。そして、その乗り越え方にもアーティストの特性が表れるはずだが、Creepy Nutsは“ドキュメント”をひたすら書いた先に、“フィクション”という手法を獲得し、そのアーティスト性を拡張させた。

 今後は再びドキュメントに戻るのか、フィクションをさらに研ぎ澄ませるのか……おそらくはそれらが統合されるのではないかと思うが、いずれにせよ物語と自意識、オリジナリティと普遍性、個性とポップ性、自と他などの対概念をアンサンブルさせ、止揚することで飛躍的に“Creepy Nutsという広がり”を強く押し出した『アンサンブル・プレイ』は、彼らのキャリアにとって大きな一歩になっていることは間違いない。

※1:https://news.1242.com/article/307159

■リリース情報
Creepy Nuts
ニューアルバム『アンサンブル・プレイ』
2022年9月7日(水)リリース
『アンサンブル・プレイ』特設サイト

<収録形態>(全4形態)
・通常盤(通常盤CD)¥2,200(税込)
初回仕様、アルバム・シングル W購入者特典応募用シリアルナンバー封入
・ラジオ盤(ラジオ盤CD)¥3,300(税込)
初回仕様、三方背スリーブ仕様、アルバム・シングルW購入者特典応募用シリアルナンバー封入
・ライブBlu-ray盤(通常盤CD+Blu-ray)¥5,500(税込)
初回生産限定盤デジパック仕様、アルバム・シングルW購入者特典応募用シリアルナンバー封入
・Tシャツ盤(通常盤CD+Tシャツ)¥5,500(税込)
完全生産限定盤、アルバム・シングルW購入者特典応募用シリアルナンバー封入

<収録予定曲>
・通常盤、ライブBlu-ray盤、Tシャツ盤
1. Intro
2. 2way nice guy
3. パッと咲いて散って灰に
4. dawn
5. 堕天
6. Madman
7. 友人A
8. フロント9番
9. ロスタイム
10. ばかまじめ (Creepy Nuts×Ayase×幾田りら)
11. Outro
12. のびしろ - From THE FIRST TAKE

・ラジオ盤
1. Intro
2.〔OPトーク〕
3. 2way nice guy
4.〔アンサンブル・プレイとは〕
5. パッと咲いて散って灰に
6. dawn
7. 堕天
8.〔Madman選手権〕
9. Madman
10.〔2015年って何やってたんだっけ?〕
11. 友人A
12. フロント9番
13.〔2人の変化〕
14.ロスタイム
15.ばかまじめ
16.〔EDトーク〕
17. Outro
18.〔のびしろがすごいぞ!地元のおススメスポット2022〕
19. のびしろ - From THE FIRST TAKE

<Blu-ray Disc収録内容>
※ライブBlu-ray盤のみ
・『Creepy Nuts ONE MAN TOUR「Case」』横浜アリーナ公演
DJ Routine
Lazy Boy
バレる!
よふかしのうた
紙様
助演男優賞
顔役
耳無し芳一Style
俺より偉い奴
風来
オトナ
のびしろ
トレンチコートマフィア
デジタルタトゥー
15才
サントラ
Bad Orangez
かつて天才だった俺たちへ
Who am I
使えない奴ら
土産話
・Behind The Scenes of Creepy Nuts in 横浜アリーナ

Creepy Nuts Official Website

関連記事