尾田栄一郎の音楽愛が『ONE PIECE FILM RED』大ヒットを生んだ? 流行の先端をキャッチするトップランナーとしての姿勢
2017年には『ONE PIECE』連載20周年を記念した公式ムック「ONE PIECE magazine」との連動企画で、尾田が執筆中に創作イメージを高めるために聴いている曲のプレイリストを公開。例えば、vol.3の「ルフィvsサンジ」では、a flood of circle「花」、Suck a Stew Dry「僕らの自分戦争」などのメッセージ性のある邦楽ロックが続いたかと思えば、エンニオ・モリコーネ「Titoli di testa (From"Il buono, il brutto, il cattivo”)」のような1966年公開映画『続・夕陽のガンマン』のサントラや、くるり「everybody feels the same」、Jet「Are You Gonna Be My Girl」といった楽曲をセレクト。このシーンにはこういう曲が流れると気持ちがいいのではないか、という視点が漫画執筆時にもあるというのは、『ONE PIECE FILM RED』の音楽の使い方にも通じるものがあるように思う。
また、Spotifyではテーマのないお気に入りのプレイリストを公開(※1、2)。2021年9月更新のプレイリストでは、BUMP OF CHICKENや米津玄師といったヒットメイカーから、浦上想起や時速36kmといった今後のブレイク株、MåneskinやSilk Sonic、aespaなどの海外の注目アーティストも並ぶなど、気になったものをとにかく聴くというノンジャンル/ノンジェネレーションの幅広い振り幅を感じさせる。その趣味嗜好は奇妙礼太郎やカネコアヤノのような表現力のある個性派、ドミコやa flood of circleなどの並びからも疾走感のあるロックサウンド好きの傾向も見てとれる。また、2021年9月時点でAdo「会いたくて」が入っているのも今作の伏線だったように感じてしまう。
尾田のプレイリストは一部からマニアックという声も上がるが、筆者としてはむしろミーハーな印象で、新旧アーティストにこだわらず今の流行や話題になった曲をしっかりと追っている。逆に様々な世代がどれを聴いてもキャッチーで入りやすい楽曲をチョイスしているところには、センスの良さを感じさせる。尾田栄一郎は現在47歳だが、躊躇なく新しいものに関心を示すことができる好奇心の高さも、幅広い世代の読者を常に驚かせる『ONE PIECE』という作品の根底になくてはならない要素だ。またこうしたプレイリストを聴くと、一見バラバラのように見えるが、どこかストーリー性を感じさせる構成力がある。それが、今回の映画における7曲の組み合わせとも相通じる部分なのではないだろうか。
今作について、尾田は公式パンフレットのインタビューで「『ONE PIECE FILM RED』でやりたかったことはハッキリ言って、全てが成功しました」と語っているが、音楽は他者に依頼しなければ成立せず、必ずしも自分達のイメージしたものが出来上がる確証はない。ただ結果として、ジャンルの異なるアーティストたちが結集して作られた音楽でありながらも、全ての楽曲にウタ=Adoが歌う必然性と、音楽だけでも起承転結のストーリーが成立するような統一感がある。尾田の音楽愛、日々熱心に音楽を聴いているからこそ生まれた、奇跡的な作品とも言えるだろう。それだけ漫画と音楽に関連性がある尾田なだけに、こういったプレイリストにも今後の『ONE PIECE』の伏線が隠されているのではないか、と思わずにはいられない。
※1:https://open.spotify.com/playlist/2ecVT4tP4jFedV7KGjQzFO
※2:https://open.spotify.com/playlist/2u7ubuQxYhw039xiifIwPS