Mr.Children「innocent world」の面白さをコード展開から解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第6回(後編)

 ソロアーティストとして話題作をリリースする一方で、国内外の様々な作品のプロデュースや演奏にも参加してきたKan Sano。絢香、Uru、CHARAといったアーティストの作品に携わるなど、2010年代以降のJ-POPシーンのキーパーソンの一人で、先日4月27日には、通算6作目となるニューアルバム『Tokyo State Of Mind』を発表した。

 本連載『Kan Sano Talks About Pop Music』では、彼のルーツとなったり、愛聴していたというアーティストを取り上げていき、そのアーティストの魅力や、現在の音楽シーンに与えた影響を解説してもらう。第6回目は、前回に引き続き、Kan Sanoが小学生の頃から愛聴しているというMr.Childrenをピックアップ。国民的な名曲の数々に散りばめられた、ソングライティングの面白さを解説していく。

 なお本連載は動画でも公開中。Kan Sano自身による「innocent world」1コーラス丸々の実演は必見だ。(編集部)

【オリジナル動画】Kan Sanoが「innocent world」を丸ごと実演

【「innocent world」を丸ごと実演!】Kan SanoがMr.Childrenのコード展開を解説

予想を裏切るコード進行

 Mr.Childrenの楽曲に限らず、ほとんどのJ-POPは「ドレミファソラシド」から成るダイアトニックと呼ばれるスケールで作られているんですよね。そこから生まれたコードはダイアトニックコードというんですけど、Mr.Childrenは随所でダイアトニックコード以外のコード(ノンダイアトニックコード)を効果的に使っています。具体的には「ドレミファソラシド」に「#」や「♭」がついたコードのことなんですけど、それが聴いていてグッとくるポイントになっているんです。

 「innocent world」のサビはノンダイアトニックコードの使い方が巧みです。メロディ自体には「#」や「♭」が1個もついていないので、すごく歌いやすくて覚えやすいんですけど、ハーモニーの方に「#」や「♭」が入ることで、非常に奥行きができています。例えば「C」や「F」というのはダイアトニックコードなんですけど、「D7」になると「ファ#」の音が入ってきたり、「E7」には「ソ#」、「A7」には「ド#」、「Fm」には「ラ♭」といった音が入ってきます。こういうコードが「innocent world」のサビの随所に出てくることで、高揚感が生まれたり、あるいは独特の暗さが混じるような感じがするんです。仮に「#」や「♭」がつかないと、予想通りで地味な曲になってしまうんですよね。メロディだけ聴いていると気づかないんですけど、ハーモニーも合わせて聴いてみると、Mr.Childrenの作曲の巧みさがわかると思います。

Mr.Children 「innocent world」 MUSIC VIDEO

 「名もなき詩」のサビでも同様にノンダイアトニックコードが使われています。 最初は「C」「Dm」「F」といったダイアトニックコードが続くんですけど、途中からノンダイアトニックコードの「G#」によって「ソ#」が入ってきたり、一番の盛り上がりポイントであるサビの最後で「D7」によって「ファ#」が入ってくることで、切なさを感じられるんですよね。Mr.Childrenの楽曲には、ここぞっていう大事なところに「#」や「♭」の音が入ってくる印象です。

Mr.Children「名もなき詩」Mr.Children "HOME" TOUR 2007 ~in the field~

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