アルファレコードにはなぜ超一流の才能が集ったのか? 村井邦彦×川添象郎×吉田俊宏 鼎談【前篇】

独特の感性を育んだ、西洋的な環境

川添:僕は制作の責任者として入ったわけです。普通は役員といえばハンコを押すだけになっちゃうんだけど、僕はそんなことやりたくないから、ハンコは課長に預けっ放しにして、最前線で音楽作りに専念しましたね。いろんな音楽を作って世界中で暴れまくった楽しい記憶がありますよ。疲れたけど。

村井:疲れるよ、そりゃあ。あちこち行くからね。

川添:YMO(イエロー・マジック・オーケストラ、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏によるテクノバンド)がロサンゼルスで大当たりして、第2回世界ツアーを企画して、僕が1人で世界中あちこちのツアーのセッティングをしにいくことになった時にね、飛行機はファーストクラスに乗せてくれと言ったら、他の役員から「それはぜいたくだ」って声が上がったのを覚えているよ。

村井:ははは。

川添:そうしたらクニがさ、他の役員たちを説得して、ファーストクラスでいいよって言ってくれたの。

吉田:どんなふうに説得したのですか。

川添:そこに座っていれば、外国からでもわざわざ人が訪ねてきてくれる。それが一番偉い人だっていうの。

吉田:なるほど、確かに。

川添:次に偉い人は自分のジェットで飛んでいく。

吉田:はい。

川添:「その次に偉い人が使うのがファーストクラス。だから象ちゃんはファーストクラスを使っちゃっていいんだよ」ってね。そう言ったのを覚えているよ。

村井:うん、そうだったね。与太話みたいだけど、意味はあるんだよ。そのぐらいしないと海外の一流の人たちと対等に付き合えないわけ。だから僕を含めてアルファのトップの連中は無理をしてでも経費を使ってファーストクラスに乗り、良いホテルに泊まり、良いレストランに行くようにしたんです。

吉田:そもそも川添紫郎さんがそういう志向の人だったんですよね。

村井:まさにそうでした。

吉田:アルファの名盤は挙げていけば切りがありませんが、例えば村井さんと象郎さんがエグゼクティブ・プロデューサーとして、深町純さんの『オン・ザ・ムーヴ』や『深町純&ニューヨーク・オールスターズ・ライブ』(いずれも1978年)を作っていますね。ブレッカー・ブラザーズ(トランペットのランディとテナーサックスのマイケルの兄弟)をはじめ、ニューヨーク・フュージョン界の一流ミュージシャンがバックを固めています。

村井:あれはね、まず象ちゃんが深町を連れてきたんです。それでニューヨークのブレッカー・ブラザーズやスティーブ・ガッドらと付き合いのあるキキ・ミヤケという女性を通じて、深町とニューヨークのミュージシャンを組ませようということになった。

吉田:それが『オン・ザ・ムーヴ』で、そのメンバーで来日した際のライブ盤が『深町純&ニューヨーク・オールスターズ・ライブ』ですね。

村井:そういうことです。

ルネ・シマール『ミドリ色の屋根/雨上りのデイト』

吉田:まだアルファレコードができる前ですが、1974年に少年歌手のルネ・シマールを日本でデビューさせたのも村井さんと川添さんなんですよね。

村井:はい。あるときルネ・シマールのレコードが僕の机の上に置いてあったんですよ。そこに象ちゃんがやってきて「この子、売れそうだ」って言うの。

川添:あははは。

村井:「この子を連れてきて、東京音楽祭か何かに出してみようよ」ってね。僕は「じゃあ、象ちゃんがモントリオールに行って相談してきてよ」って頼んで。

吉田:その後、すぐに村井さん作曲の「ミドリ色の屋根」(さいとう大三作詞)で日本デビューを果たしますね。

村井:そうそう。結局、その曲で1974年の東京音楽祭に出してグランプリを獲って、一夜にして大スターになった。レコードも大当たりしたんだよね。

吉田:そうでしたね。ルネ・シマールは僕と同世代ということもあってよく覚えています。それにしても深町さんやルネ・シマールといった人たちに目をつけた象郎さんのセンスは素晴らしいですね。その嗅覚はどうやって培われたのでしょう。

川添:うーむ、それは僕がテンサイだったってことでしょう。いや、テンサイっていっても災難の方の天災ですけどね。はははっ。

吉田:いやいや。

川添:まあ、そういう才能のある人たちが身近に現れてくれた。半分以上はラッキーだったってことでしょうね。

村井:ふふふ。本人はそう言うんだよ。象ちゃんは生まれつきそういう才能があるんです。こういうのは学校で教えてくれないから、やっぱり先生はお父さんの紫郎さんだよね。それにお母さんの原智恵子さん(クラシックの名ピアニスト)。それに加えて、若い頃にニューヨークとかに行ったわけだからね。そんな人はなかなかいないんだよ。才能と経験、それに感性。

川添:あとは運だね。村井さんも僕も強運の持ち主といえるかな。

吉田:運をつかむのも実力のうちなんでしょうけどね。象郎さんは慶応幼稚舎の5年生のとき、毎週土曜日にカトリック洗足教会に通うようになったそうですね。そんなご経験も後に生かされたのではないですか。

川添:ああ、それは非常に影響があったと思いますよ。1年半ぐらい通っていましたかね。すごく面白い神父さんで、パチンコに連れていってくれるんです。土曜に行って泊まって、日曜朝のミサでは神父さんのアシスタントみたいな仕事をやったりしてね。神父さんがラテン語でつぶやくと、こちらがつぶやき返すみたいなこともやった。いまだに覚えてるよ、その言葉を。

村井:なんて言っていたの?

川添:(すらすらとラテン語を言う)

村井、吉田:うわー、すごい。

川添:はははっ。

吉田:讃美歌や聖書の話に耳を傾けたりもするわけですね。

川添:そうでしたね。だから非常に西洋的な環境の中で育っちゃったわけです。子供の頃は母親がいつもコンサートのための練習をしているでしょう。

吉田:はい。

川添:相手をしてくれなくてつまらないから、こっちはピアノの下に潜り込んでペダルの動きを見ながら寝ちゃうとか、上ではずっとショパンが鳴っているとかね。そういう感じでしたね。だから、大人になってからも自分の感覚で音楽を選んでいたつもりだけど、普通の日本人とはかけ離れたところで判断していたんじゃないかと思いますね。

吉田:そうでしょうね。後にお母さまがチェリストのガスパール・カサドと再婚されたことは報道で知ったそうですね。

川添:その通りです。僕と弟は慶応から鹿児島のラ・サール高校に転校させられていたんだけど、ある日、弟が新聞を持ってきて「兄貴、これ読んでよ」っていうの。「原智恵子、巨匠ガスパール・カサドと結婚」だって。「いったい何だ、これは」だよね。要するに僕たちは実の母親から知らされないで、新聞記事で知ったわけ。

吉田:あらー。

村井:あははは。

川添:僕は楽天家だから何とかなるさと思ったけど、弟はまじめだからえらくしょげ返ってね。しばらくふさぎ込んでいましたよ。

吉田:それはそうでしょうね。

川添:そうしたら、いきなり親父(紫郎)が鹿児島にやってきて、僕ら兄弟をいい旅館に呼んでね、豪勢な料理を食べさせながら話を切り出したの。実はお母さんとは別れちゃったんだけど、新しいお母さんを見つけてきたからって、梶子さんという美人の写真を見せるのよ、得意げに。

村井:ふふふふ。

川添:こっちはびっくりするよね。

村井:あははは。大変だったねえ、象ちゃん。

川添:おれは楽天家だからね、これでお父さんが2人、お母さんが2人できたって考えて、なんだか得したような気分だったんだよ。それで弟と東京に行って、梶子さんに会ったわけ。梶子さんの第一声が「あら、でっかいわね。気持ち悪い」でさあ。でもね、おしゃれなズボンを仕立てていてくれて、それですっかり彼女のファンになっちゃったの。

村井:ふふふ。「気持ち悪い」っていうのがすごいね。

川添:あははは。タンタンらしいでしょ。

村井:そうだね。

吉田:タンタンという梶子さんの愛称は、ご本人がそう呼んでとおっしゃったのですか?

川添:そうそう。「お母さんなんて呼んじゃ嫌よ」って言ってさ。どうすりゃいいのって訊いたら「タンタンって呼んで」って。そのうち僕ら兄弟だけじゃなくて、周りのみんながタンタン、タンタンって呼ぶようになっちゃったの。(後篇に続く)

■書誌情報

『象の記憶 日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー』 
川添象郎 著
四六/並製/312頁(予定)
予価:本体2,300円+税
ISBN978-4-86647-175-4
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK324

■村井邦彦、新曲録音プロジェクト

小説「モンパルナス1934~キャンティ前史~」のテーマ曲「MONTPARNASSE 1934」のレコーディング費用を募るクラウドファンディングです。
スティーブ・ガッド・バンド、クリスチャン・ジャコブ、ブダペスト・スコアリング交響楽団という超一流ミュージシャンの編曲、演奏によるレコーディングで、支援者には「MONTPARNASSE 1934」のデジタル音源をはじめ、サイン入り楽譜やコンサートゲネプロへの招待、村井邦彦とのオンラインミーティングやランチ会などの返礼品がございます。
詳細は以下「うぶごえ」のページをご確認ください。

村井邦彦、新曲録音プロジェクト:https://ubgoe.com/projects/192

■公演情報

村井邦彦 作曲活動 55 周年記念コンサート
『モンパルナス 1934』KUNI MURAI
2022年7月3日(日)開場 16:00 開演 17:00
東京芸術劇場 コンサートホール
演奏:オーケストラ・アンサンブル金沢 指揮︓森亮平
出演:村井邦彦 海宝直人 真彩希帆 田村麻子
チケット:12,000 円(全席指定・4歳以上入場可)
企画:オフィスストンプ 制作協力:アースワークエンタテインメント
主催:読売新聞社 オフィスストンプ
お問合せ:キョードー東京 0570-550-799 オペレーター受付時間(平日 11:00〜18:00/土日祝 10:00〜18:00)

■関連情報
『The Melody Maker -村井邦彦の世界-』
『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』
ALFA MUSIC YouTube Channel

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