supercellからwowaka&ハチ、DECO*27、じん、バルーン、稲葉曇まで VOCAROCKの変遷と再興するボカロシーンでの存在感
一時期に比べシーン全体が縮小したように見えたが、サウンドは目まぐるしく変遷し、2016年にはVOCAROCKに新たな兆しが見え始める。ダンスロックブームだ。その先鋒が2015年「アンドロメダアンドロメダ」で活動し始めたナユタン星人、そして「失敗作少女」で頭角を現したかいりきベア、「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」でブレイクした和田たけあき(くらげP)である。
翌年投稿されたバルーン(須田景凪)「シャルル」やユリイ・カノン「おどりゃんせ」と共に、これ以降はややテンポを落とした四つ打ちや跳ねのリズム、そして打ち込み音を混ぜ込んだダンサブルな曲がメインとなる。
2017年にEve「ドラマツルギー」やOmoi「テオ」、2018年はみきとP「ロキ」やかいりきベア「ベノム」など、BPMの幅はあれどダンスビートを共通して刻むVOCAROCKが主流となった。
同時にこの時期を牽引したのはv flowerの存在も大きい。発売されたのは2014年5月で、少し遅れた台頭だったが、このv flowerはボカロでも初の「ロックに特化した歌声ライブラリ」と銘打たれている。打ち込み音やバンドサウンドに負けないパワフルな声は多くのボカロPに愛され、事実v flowerによるVOCAROCKも多数生まれている。
このような流れやアプリゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」やイベント「The VOCALOID Collection」の影響もあり、近年再び盛り上がりを見せ始めているボカロ。だが実はこれ以降、シーン全体とVOCAROCKの再興は必ずしも一致していない。むしろシーンの復活に反して、現在のVOCAROCKに関して言えば衰退期とも呼べる状況なのではないだろうか。では2018年までのダンスロックがどこへ行ってしまったかと言えば、より踊れる音に特化した本格的なEDMテイストや打ち込み曲へ移行したのである。2019年に頭角を現したAyase(YOASOBI)「ラストリゾート」、syudou「ビターチョコデコレーション」、そして八王子P×Giga「Gimme Gimme」などを見ればその潮流は一目瞭然だ。
さらにこの流れは2020年のKanaria「KING」や柊キライ「ボッカデラベリタ」、2021年のツミキ「フォニイ」やDECO*27「ヴァンパイア」、ピノキオピー「神っぽいな」、そして「ボカコレ2022春」の優勝曲、r-906「まにまに」にも如実に表れている。この背景にはアニクラ(アニソンクラブ/DJイベント)文化の広まりやバーチャルシンガー・花譜をモデルにしたCeVIO AI・可不の登場も影響があるように思われるが、本稿では一旦その話は割愛する。
再興するボカロシーンにVOCALOEDMが台頭する昨今ではあるが、2020年のすりぃ「テレキャスタービーボーイ」や稲葉曇「ラグトレイン」、Chinozo「グッバイ宣言」や、2021年のSLAVE.V-V-R「んっあっあっ。」、「ボカコレ2022春」のルーキー1位を獲ったろーある「感情ディシーブ」など、音色・音数の多さ、音圧をEDMへ譲りシンプルなバンドサウンドへ回帰しながらも、四つ打ちを刻むVOCAROCKは確かに今も鳴っている。今後も踊れるボカロ曲のトレンドが続くであろう中、VOCAROCKの新たな進化を見逃さないよう注視し続けたい。