社会人バンド つづき、類い稀なるボーカルに国内外リスナーが注目 音楽を“仕事”にしないマイペースな活動に迫る

両親の喪失した時の感情から生まれた「(what you've) lost」

まなぶ

ーー今日の取材は「(what you've) lost」の制作に関われたJYAGAさん(ソングライティング、プロデュース)、壱タカシさん(ミックス)、すさきふみおさん(ボーカルレコーディング)の3人も同席されているんですけど、皆さんから見て、つづきというバンドはどんなふうに見えていますか?

壱:自分は付き合いが古いんですけど、一緒にいて居心地はいいです。ただ、こうやって5人で集まっても外に発信していく馬力がある人たちではないので(笑)、「手伝ってあげたいな」と思うんですよね。でも、そのくらい、先が見えるんですよ。5人共いい演奏をするし、自分が持っているものを提供すれば、きっといいものが生まれるだろうと思える。そんな集団ですね。

すさき:僕も付き合いは長いので、スタジオのレコーディングエンジニアです、という関わりというよりかは、友達感覚のコミュニティのなかで手伝っている感じがあって。このゆるっとした感じって、音楽性に出ていると思うんです。気張って聴かなくていい感じというか、構えて聴くことなく、スッと入ってくる。まさに、そんな人たちですね。

JYAGA:バランスがいいし、融和する感覚というか、一体感がすごいなと思います。制作しているときは、このゆるいスピード感が大変だったりもするんですけど(笑)。

一同:(笑)。

JYAGA:でも、それを急かしてもいいものはできないので。

ーー新曲の「(what you've) lost」のサウンドはまさに、皆さんが言ってくださったつづきのバンドコミュニティとしての在り様が音の魅力として出ている感じがします。繊細で、大らかで、でも確実にダイナミズムもあって。この曲はどのように生まれたんですか?

SEKI-NE:Yochiくんの「ダブポップナイト」というイベントにJYAGAくんがライブで出ていて、そこから僕とJYAGAくんの間でやり取りが始まったんですけど、あるとき突然、僕のところに「曲ができました」ってデモが送られてきたんですよ。そこで送られてきたのは結構アップテンポな曲だったんですけど、それに対して僕が「じゃあ、こんな歌詞どうでしょ?」と送った歌詞が、めちゃくちゃ暗くて(笑)。これはさすがファンキーな曲には合わないなということで、JYAGAくんが「この歌詞のイメージに合う曲を作りますよ」と言ってくれて。それから1~2週間で、この「(what you've) lost」のベースになるものが送られてきたんです。そこから、希望のない、ただただ暗かったそもそもの歌詞も、JYAGAくんとやり取りをしていくなかで、「こういう表現はどうですか?」って提案してもらったりして、変わっていきました。

ーー最初にSEKI-NEさんが書かれた暗い歌詞というのは、どういったところから生まれたものだったのですか?

SEKI-NE:2~3年くらい前に、自分の父親と母親が同じくらいのタイミングで亡くなってしまって。それがすごく悲しくて、しんどかったんです。ただ、両親が死ぬ前から、僕はどちらかというと悲しいことを感じやすいというか、暗い方に行きがちだったんですよ。だからこそ、その悲しい出来事から自分が何かを学んで大きくならないと、悲しみを悲しみとして受け止められるだけじゃ勿体ないっていう考え方で生きていたんですよね。でも、両親が死んだとき、その考え方ができなくて。ただただ大きな悲しみがやってきて、自分ではどうすることもできなくて、悲しみが去っていった……そんな感覚があって。その体験をしたことで、自分の人生観的なものが大きく変わった感じがしたんです。どうしようもないことがあって、それがただ流れていくのを見ていたっていう、それが自分にとってはすごく大きな経験だったんです。

ーー人生観の変化というのは、具体的にどのようなことにそのとき気づかれたんですか?

SEKI-NE:単純にそのとき思ったのは、何かを受け止めて、自分のなかで消化して、どうにかするっていうことではないんだな、というか。誰かや何かが自分に対してメッセージを送るために、出来事が起きているわけじゃない。ただ、出来事があって、それは自分にはどうしようもなくて、他の誰かにとってもどうしようもなくて、ただ、「そういうことがある」ということを、自分のなかですごく思った。それまではいろんなものに理由を探していたんですけど、それがなくなったんです。

SEKI-NEが持つ稀有な歌声

Yochi

ーーSEKI-NEさんにとって曲を作ったり、歌を歌うということは、ご自身の人生的な経験とすごく結びついているのかなって、今のお話を聞いて思いました。

SEKI-NE:歌うことに関しては、それはまったくないんです。僕の声質もあるんですけど、感情を込め過ぎたり、伝えようとし過ぎてしまうと、曲にプラスしてボーカルのエゴが乗りすぎてしまうような気がして。そういう音楽は、僕は聴く側としても苦手なんです。なので、今回の曲もそうですし、レコーディングする音源に関しては、感情を乗せずに、気持ちを乗せずに、メロディをそのまま表現することで、曲自体の魅力を伝えようっていうことだけを考えていて。

ーーなるほど。ただ、つづきの音楽に人が惹かれるときに、第一印象としてSEKI-NEさんの歌声は非常に大きなポイントになると思うんです。他の皆さんから見て、SEKI-NEさんの歌にはどのような印象がありますか?

友:なかなかいない声質というか。別の取材でも「倍音がすごいよね」という話になったんですけど、「こんな歌声の人と一緒にやったことない」というのが第一印象です。厳しいことを言えば、ライブでのピッチは少々不安定だったりするし、もっと上手く歌える人はいるんでしょうし(笑)。

SEKI-NE:(笑)。

友:でも、この声だからこそ沁みて聴こえるのかなって思います。いわゆる、カラオケで一番歌の上手い子が同じように歌おうとすると、逆に難しいと思う。

まなぶ:届く声だよね。「歌の上手い人」っていっぱいいるけど、「届く人」って一握りだと思うんです。カバーとかも結構やりますけど、何を歌ってもSEKI-NEくんになる。そのSEKI-NEくんの世界にしちゃうんですよね。それが、私たちが思っている以上に聴いている人たちに刺さるのかなって思う。いろんなメロディを届けられる、稀有な声を持っている人だなと思います。

スヌ:私がSEKI-NEさんに初めて会ったのって、「DUBPOPNITE」にDJで誘われたときに、そのときの出演者で集まってやった飲み会だったんです。事前にYochiさんに「SEKI-NEくんって、めっちゃイケメンで、だけどいい歌、歌うんだよ」と教えてもらっていたので、「ふざけんなよ」と思っていたんですけど(笑)。

一同:(笑)。

スヌ:「そんなわけないっしょ」って。でも、音源をもらって聴いたときに、「すいませんでした」と思いました(笑)。さっき、SEKI-NEさん自身は「歌うときに感情を入れない」と言っていましたけど、それって、聴いた人にはわからないと思うんですよ。込めて歌っているより込められている感じがするし、そこに、聴いている人は共感したり、感じるものがあるんだと思うんです。本人は意識していないのかもしれないけど、受け取る側は深く捉えられる、そんな声だなと思う。

ーーYochiさんはどうですか?

Yochi:すごい珍しいバランス感の歌だと思います。(SEKI-NEの)性格と人となりを観察していると「だからこの歌になるのかも」と思う瞬間はあるんですけど......。普段は前に出たがらないけど、ライブではフロントに立つ人としての役割をしっかりと果たしてくれるし、これからもつづきのボーカルはSEKI-NEでお願いしますっていう感じです(笑)。

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