香取慎吾、先の見えない時代を音楽で照らす 本気の“遊び”から生まれる無限の可能性
「“こんな感じでやっていくんだな”っていう、所信表明的でもあるのかな」
4月12日、稲垣吾郎がパーソナリティを務めるラジオ番組『THE TRAD』(TOKYO FM)に香取慎吾が出演した際、自身の2ndアルバム『東京SNG』についてそう語った。
1stアルバム『20200101(ニワニワイワイ)』から約2年3カ月、香取のスケジュールは格段に忙しくなった。これまで特番だった『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)がレギュラー放送化し、ドラマや映画に出演した知らせもコンスタントに届くようになった。また、TikTokデビューにYouTubeの毎日投稿と、SNSでの活動も活発になっている。
数々のスケジュールをこなしながら『東京SNG』の制作と明治座ステージの準備が並行して行なわれていたと思うと、幼いころから国民的アイドルとして走り続けてきた香取のバイタリティに、改めて「さすが」としか言いようがない。
香取はよくバラエティ番組の場で、この仕事について、あるいは作品を作る場を指して“遊び”や“遊び場”という言葉を口にする。そして“香取慎吾”のことを「パーフェクトビジネスアイドル」とも。“遊び”という言葉には興味のあることにトライし、楽しみ続けるというスタンスがにじみ出ているように感じる。一方で相反するように感じる“ビジネス”という言葉には、そんな活動を続ける香取を客観視するプロデューサー視点が共存しているようにも。
今回『東京SNG』のコンセプトは“タキシードが似合うジャズ”だそう。ラジオでも「ビッグバンドでスイングジャズみたいなのやってみたいなって」という“遊び”に近い興味を感じさせるフレーズだ。タイトルの『東京SNG』にも、香取の好きな“東京タワー”と“SNG=SINGO、SONG、SWING”を掛け合わせた遊び心も伺える。
『東京SNG』のフィーチャリングアーティストには、新進気鋭のダンス&ボーカルパフォーマンスユニット・新しい学校のリーダーズ、超絶技巧&無重力奏法と形容されるピアノトリオのH ZETTRIO、「悪魔の子」で世界を席巻しているヒグチアイ、思わず踊りたくなるライブパフォーマンスに定評のあるGentle Forest Jazz Band、「Anonymous」以降すっかりお馴染みとなったWONK、そして田島貴男(Original Love)、小西康陽といったベテラン勢まで、ユニークな顔ぶれが揃った。
いずれも、香取が興味を持った人を“遊びに誘う”ような感覚で声をかけていったのが微笑ましい。“一緒に音楽で遊ぼうよ”というスタンスで集まったメンバーだからだろうか。レコーディングもアーティストたちと共に「もっとこうしてほしい」「いやこっちのほうがいいよ」といったように、気さくに意見を出し合いながら一緒に作っていったそうだ。
対して、内在するプロデューサーとしての香取の答えとしては、ジャズという新しいジャンルを歌う“香取慎吾”に「ビックリしてほしいんだと思います。あと自分もビックリしたい」とも。日本を代表するアイドルグループとしてJ-POPを牽引してきた香取。そしてソロとして『20200101』では、消費税が10%に引き上げられたタイミングで「10%」を披露するなど、ストリートやデジタルの音をベースに、新時代に切り込む音楽を届けてきた。そう振り返ると、こうしたアナログなジャズを歌う香取はむしろ新鮮に映る。
さらに、香取はアルバムを制作する際には、同時にショーをイメージしていると明かす。全11曲を通して聴いてみると、なるほどその狙いが伝わってくるような気がした。1曲目「東京SNG」はまさにライブの始まりを想像させる華やかさ。タキシードを着てスタンドマイクの前に立つ香取が目に浮かぶ。〈オイラ〉と自称する歌の中の主人公は、芸能界のど真ん中を突っ走ってきた“香取慎吾”その人にも思えるし、あるいはそんな香取が演じてきたキャラクターたちの魂が東京を闊歩しているようにもイメージできる。ジャズの自由で柔軟なリズムが一気にエンターテインメントの世界へと誘い、私たちのイマジネーションを広げてくれる感覚だ。
だが、香取が過ごしてきた東京という街は、シンプルな世界ではない。複雑に入り組んだ道、飛び交う情報や言葉たち、そして空を狭く見せる電線……。2曲目の「こんがらがって(feat. H ZETTRIO)」は、器用に生きているように見えても、思わず天を仰ぎたくなる東京の夜を香取が過ごしたこともあっただろう。香取が東京タワーを好きな理由は、そんな東京の夜にも凛々しく立ち続けているから。モノクロに見える東京の街で、煌々と赤く光る東京タワーは香取にとってこんがらがった気持ちをスッと戻してくれる、まさにアイドルだったのだろう。