Homecomings 畳野彩加と福富優樹が考える、時代に合った“優しさ”のあり方 バンドとしてメッセージを発信することの意義
Homecomingsが、デジタルシングル「i care」を4月6日にリリースした。同曲は現在放送中の江口のりこ主演ドラマ『ソロ活女子のススメ2』(テレビ東京系)エンディングテーマ。一人を選ぶことも誰かといるのを選ぶこともその人の自由であり、一人を選んだとしても声を掛け合いながら互いに手を取り合える準備をしておきたいーー他者に向ける思いやりも相手の気持ちを尊重することが大切であると歌う「i care」は、Homecomingsらしい優しさに満ちた新たな名曲である。今回のインタビューでは畳野彩加(Vo/Gt)と福富優樹(Gt)に本作の制作についてはもちろん、Homecomingsの近況や新たな街での生活、最近おすすめの映画や本の話題など幅広く語ってもらった。(編集部)
相手を助ける時にちゃんと確認するのも優しさ
ーーちょうど今、3年半ぶりの大きなツアー『Somewhere In Your Kitchen Table』の真っ只中ですね(取材時は3月後半)。久しぶりにいろんな場所でライブをやってみていかがですか?
福富優樹(以下、福富):「待っててくれたんやなあ」って実感してます。コロナ禍も3年目に突入するなかで、お客さんのライブの楽しみ方も変わってきている気がしますね。声が出せないぶん、拍手でいろんな気持ちを伝えてくれている気がして。それが新鮮だし、嬉しいです。なんか新しい音楽みたいに聞こえるんですよね。
畳野彩加(以下、畳野):久しぶりのツアーだし、初めてライブに来てくれる方もいらっしゃると思うので、これまでのすべてのアルバムから何曲かずつやったりして、バンドのことを幅広く知ってもらえるようにしています。あと、場所によってセットリストを変えていることもあって、新鮮な気持ちでステージに立てているんですよね。どんどんツアーの内容が良くなっていることを実感してます。
福富:これまではセットリストを決めて、そこから演奏を成熟させていったんです。今回は思いつきで曲を変えているし、新曲もいっぱいできているので、日によってはそれを全部やることもあるんです。だから、会場によって曲も雰囲気も違う。久しぶりのツアーだし、次にいつできるかわからない状況だからこそ、これまでとは違うツアーにしたいという気持ちがありました。
ーーライブといえば、畳野さんはASIAN KUNG-FU GENERATIONの25周年記念のコンサートにゲスト出演していましたね。
畳野:これまでアジカンのライブには何度か出させてもらっていたんですけど、いろんなゲストの方が参加されるライブは初めてだったので、ちょっと緊張しました。でも、高校の時から大好きだったアジカンの大事なライブに呼んでもらったのは本当に嬉しかったし、アジカンが好きでよかったと思いました。
福富:ゴッチ(ボーカルの後藤正文)さんは、いろんなことに対して、ちゃんとステイトメントを示す。その姿を見て僕らもちゃんと自分たちの意見を表明していこうって思うんです。そして、僕らをフックアップしてくれたように僕らもいつか誰かをフックアップしていきたいなと思える。アジカンは僕たちのルーツなんですけど、同じ時代に並走しているバンドとしてもリスペクトしています。そういう存在って、ほかにあまりないですね。
畳野:私より緊張してたよね(笑)。
福富:緊張するよ。高校の時からの友達がアジカンのステージに立つと思うと、自分のことみたいに感じるし、状況がエモすぎて前が見えない(笑)。そういえば、僕らの今回のツアーのセットリストと(アジカンのライブのセットリストは)曲の並べ方は同じ感じでしたね。
畳野:うん。「あの曲聴けなかった!」っていうのはなかった。
福富:代表曲もやりつつ、カップリングの曲もやる、みたいな。
ーーHomecomingsが25周年記念ライブをやる日がくるのが楽しみですね。新曲「i care」がリリースされたばかりですが、ドラマ『ソロ活女子のススメ2』のエンディング曲です。これはドラマのために書き下ろした曲なのでしょうか。
福富:そうです。曲の小さなかけらというか、ピアノのリフだけのデモはあったんですけど、歌詞とかメロディとか曲調はドラマの話をいただいてから考えました。
ーードラマのどういったところを曲に反映させていったのでしょうか。
福富:例えば、ひとりでいることに引け目を感じなくてもいいし、裏を返せば誰と一緒にいてもいい。自分で自由に選んでいいんだ、というところですね。ただ、そこで放り出しているわけではなく、手をとりあえる準備はしてあるというか。必要な時はお互いにケアできる準備はしてある。ある意味シスターフッド的な関係性というか。
ーーサビの〈あらゆる色の花束を〉という歌詞は、昨年リリースされた最新アルバム『Moving Days』でも歌われていたことですよね。多様性を受け入れる、という。
福富:そうですね。これはずっと歌い続けていきたいことというか。シスターフッドのこととかケアのこととか、本で読んだり調べたりしていくと、フェミニズム的価値観って重要だなって思うようになって。女性の権利を守るだけではなく、あらゆる差別に反対するっていうところが良いなと思うんですよね。そういうメッセージを自分たちなりに歌っていきたいと思っています。
ーー歌詞に〈ふとよぎった丸い寂しさ〉という表現もありますが、「寂しさ」もHomecomingsがずっと歌ってきたことですね。
福富:寂しさって尖っている時と尖ってない時があるように感じるんです。ともすれば、何かを攻撃してしまうようなきっかけになる寂しさは尖っていると思うんです。そういう寂しさを歌うことも大事なんですけど、この曲で歌いたかった寂しさは、暮らしの中でふと感じるものなんです。
畳野:そういう寂しさは、私も日々感じていて。だから〈丸い寂しさ〉っていう歌詞を読んだ時、ストンと納得できました。
福富:前作に収録されている『Here』は尖った寂しさの曲なんです。社会からこぼれ落ちてしまった人たちに対して手を差し伸べている感じ。『i care』は、それぞれがばらばらでいながら、お互いに気をかけている感じです。手を差し伸べるにしても、差し伸べていいかどうかを相手に聞く。そういう気遣いは〈ほどけるリボンを手にとる 結びなおす?〉という歌詞に反映されているんですけど、相手を助ける時に、ちゃんと確認するのも優しさなんやと思っていて。僕たちのバンドもそういう感じなんですよ。みんな仲良くて、自分の心のドアを開けていても、閉めていても構わない。ただ、開いているからといって勝手に入るんじゃなくて、ちゃんとノックをする。
ーーお互いを尊重し合っているんですね。サウンドに関してはどんなイメージだったんですか?
福富:2つ選択肢があったんです。ちょっと跳ねた感じでモータウンっぽくするか、2000年代のポップパンクっぽくするのか。いま2000年代リバイバルが世界的にきている気がするんですよね。それで自分たちなりに2000年代中盤の音、洋楽から来た歪んだギターとJ-POPが合わさったみたいな音を出せないかなと思って、ドラムの音を大きくしたり、レスポールをマーシャルに突き刺したりしてレコーディングしました。
畳野:いつもは二人(福富と畳野)のギターに、さらにアコギを入れたりしてギターを重ねることが多いんです。そこを今回はサイドに一本ずつ入れるだけにして、それでいて音の厚みを出すようにしました。いろいろ研究しながら。
福富:研究は楽しかったですね。木村カエラさんとかYUKIさんのアルバムを聴き直してみたりして。2つ選択肢があったなかで、ロックっぽい方に振ってはいるけど完全にそうじゃなくて、跳ねたリズムも入れたり、いい塩梅で両方の要素が混ざり合っている。そのバランスをみんなで考えるのが楽しかったです。
畳野:これまでは方向性を決めたら、そっちの方を向いて作っていくことが多かったんです。曲がある程度できた段階で、アレンジや音像を迷うことはなかった。でも、今回は楽しみながら迷って、ちょうどいい感じの音になりました。
ーーバンドにとって新しい試みだったんですね。今年1月にデジタル配信された「アルペジオ」は、ドラマ『失恋めし』の主題歌でした。この曲はどういう風に作り上げていったのでしょうか。
福富:『Moving Days』を作ったすぐ後に、この話をいただいたんです。それで『Moving Days』ではやってなかったことをやりたいと思って思いついたのがギターポップでした。ギターポップは自分たちのルーツなんですけど、「Songbirds」以来、あまりやってこなかったんですよね。ドラマの雰囲気にも合ってたし。
畳野:スタジオで音を合わせながら作っていったよね。
福富:そうそう。『Moving Days』はリモートで、みんな自宅で作業していたんです。『アルペジオ』はみんなで一斉に演奏している感じがあってると思った。それでレコーディング前にライブで演奏してみたりして。やっぱり、演奏している時の気持ちって録った音に表れるような気がするんですよ。『アルペジオ』はすごく気持ちが良い音になっていると思います。
ーーやっぱり、バンドで一緒に演奏すると音も違うでしょうね。あと、Eテレの番組『シャキーン!』に提供した「Wonder Wander」が初めて音源化されました。曲を発表してから、ちょっと時間が経っていますが。
福富:曲を作ったのは2018年くらい。歌詞が日本語にシフトしたアルバム『WHALE LIVING』と同時進行で作っていたと思います。先方からは「HURTS」みたいな内容というリクエストがあったんです。だからこの曲も「みんなばらばらで大丈夫だよ」っていう曲なんですよね。でも、決して自分の気持ちは押し付けない。エモーショナルなことを歌うけど「君はどう?」ってちゃんと聞く。それが優しさだと思うので。
畳野:そういえば、当時MCを務めていためいちゃんが卒業間近だったんですよね。歌入れの時に私がまず歌って、それを聴いてめいちゃんが歌ったんですけど、めいちゃんはずっと「自分の声が嫌だ」って言ってたんです。私やスタッフはめいちゃんのあどけない声が歌に合っていて、とても良いと思っていたんですけど、本人は自分の子どもっぽい声が嫌いだったみたいで。大人になりたかったんでしょうね。その葛藤がリアルに伝わってきて胸がぎゅっとなりました。
福富:確か中学を卒業するくらいだったんですよ。大人から「子供っぽいから可愛くていいよ」って言われるのも嫌だったんでしょうね。
ーー二人にもそういう時期がありました?
福富:どうだろう。僕はずっと尖ってましたね(笑)。大人になりたい、とか思ったことはなくて、世の中のすべてのことにムカついている時期がありました。自分の嫌いなことに過剰反応したりして。