神谷志龍、孤独に寄り添う“日陰者”の音楽 鋭利な歌詞とキャッチーなサウンドで紡ぐダークな世界観
また、歌い手/シンガーソングライターのSouの楽曲にも「ミスターフィクサー」や「ユートピア」などで作曲・編曲に参加。終末感漂うダークな作風という意味でも、神谷志龍と共通する世界観を展開している。
作詞作曲だけでなく、楽器の録音や編曲、ミックスなど全行程を一人で手掛けるという神谷志龍。歌詞の言葉が強烈なインパクトを持つ一方、楽曲は“人を突き放す”攻撃性というよりも、むしろ“人を惹き付ける”力を持っている。たとえば「蓄積する毒」の〈dok dok dok dok〉〈dark dark dark dark〉と繰り返すフレーズ。たとえば「borderline」のハイハットとボイスチョップ。リズミカルなメロディやトラックメイキングが独特のキャッチーさを生み出している。
ここ数年の音楽シーンを振り返っても、ボカロPや歌い手などネットカルチャーを出自に活動をスタートさせたクリエイターには「心に突き刺さるような音楽を作る」アーティストの系譜が確実にある。カラフルで華やかでハッピーなモチーフを歌にするよりも、キラキラした情景にあえて背を向けダークな世界を描くタイプの作り手が多く存在する。
たとえば、まふまふによって代表曲「命に嫌われている。」が昨年末の『NHK紅白歌合戦』で歌われたカンザキイオリもそうだろう。「冷たい渦」で本格的なブレイクの渦中にあるキタニタツヤもそう。そしてyamaやAdoへの楽曲提供を通してコンポーザーとして成功を手にしつつあるくじらも、本人歌唱の「エンドロール」ではドロドロとした葛藤の波をドラマティックに表現する新境地に乗り出している。
神谷志龍もそういった系譜に連なるシンガーソングライターと言える。
限定販売されるアルバム『GHOST AID』の豪華盤では、CDに加えてロングTシャツ、ステッカー、直筆署名入りの「神谷楽曲紙袋」が付属する。処方薬のデザインを模した紙袋は、自身の楽曲が薬のようにある種の「生きづらさ」への効能を持ってほしいという意志にもリンクするものなのだろう。その思いが波紋のように広がっていく予感がする。
※1:https://realsound.jp/2019/03/post-336340.html