『TerminaL』インタビュー

K:ream、音楽を通して曝け出す赤裸々な感情 コロナ禍の焦燥を経て見出した希望への道筋

 2018年に結成、名古屋をベースに活動してきた2人組バンド、K:ream。内川祐(Vo/Pf)の持つJ-POPのDNAと、鶴田龍之介(Gt/Vo)の中に流れる洋楽の血がミックスされて生まれるオリジナルなロックサウンドは、2021年2月に1st EP『asymmetry』でメジャーデビューを果たして以降、コンスタントにリリースを重ねる中で大きく進化と変化を果たしてきた。

 怒涛のように駆け抜けてきたそんな1年間を総括する最初の集大成であり、未来への足掛かりとなる一歩が、2月23日リリースの1stフルアルバム『TerminaL』だ。始点であり終点、さまざまな心が行き交うターミナル駅のごとく、焦燥や失望も、情熱や希望も詰め込んだこのアルバムは、そのすべてを呑み込んで、ただ一点、「希望」に向かって走っている。

 彼らはこの1年、どんなことを感じながら音楽を鳴らしてきたのか。そしてその先に何を描いているのか。2人にじっくりと話を聞いた。(小川智宏)

「思うような活動ができないもどかしさとは常に戦っていた」(鶴田)

K:ream

ーー『asymmetry』以降、1年にEPを4作。はたから見ると相当なペースですが、ご自身としてはどうでしたか?

鶴田龍之介(以下、鶴田):まあ、とにかく作っては出してっていう。でも、ハイペースかもって思ったのは終盤でしたね。結構、没頭して作っていたので。

ーーそれは充実した日々だった?

鶴田:充実っていえばいい雰囲気の言葉に聞こえますけど、そんなにいいことばかりではなかったんで。バンドとしては去年デビューして、勢いづけて、どんどん広がっていきたいなっていう年ではあったんですけど、どうしてもライブができなかったり、思うような活動ができないもどかしさとは常に戦っていましたね。

内川祐(以下、内川):いや、めちゃくちゃきつかったですよ(笑)。楽しかった瞬間もあるんですけど、すごく自分と向き合う期間だったんで。コロナっていうのもあったし、出したものに対してのレスポンスっていうのも思ったより得られなかったりして。そういったときに自分自身で自分をどう保つのかみたいな。「自分ってどういう存在なんだろう」とか、「自分で誰に必要とされてるんだろう、いや待てよ、必要とされるからやってるわけじゃないし、必要とされたいからやってるわけじゃないでしょ」みたいな、もうずっとぐちゃぐちゃってしてる1年でした。

鶴田龍之介

ーー鶴田さんはこの1年やってくる中での手応えというか、きつい中でも成し遂げたことというか、そういう感覚はありますか?

鶴田:探せば……探せばというか、たとえば単純にサウンド面では楽器を弾く時間が増えたりとか、曲作りに割く時間も結構あったので、そういった意味ではすごく還元できたかなって思うし、元々内川の持っているJ-POP由来のポップセンスと僕の洋楽由来のサウンドの融合みたいな部分は、より音楽に向き合ったからこそものにできつつあるのかな、みたいなところはありました。でも僕もやっぱりしんどい日もあれば、すごい希望に満ち溢れた日もあってっていうのは共通していたので。そのたびに曲を作って……だから曲ごとにいろんな方向を向いて、たぶん曲と曲が矛盾してるところも探せばあると思うぐらい、いろんな方向を向いた曲が多くなって。それを全部包み隠さず、赤裸々に集めた作品がこの『TerminaL』なんです。『TerminaL』っていうタイトルをつけた理由もそこなんですよね。

内川:でも僕、それこそ4作もEPを出してるんですけど、アスリートみたいに思われるのはめっちゃ嫌なんですよ。実際にはめちゃめちゃさぼってましたし、ちゃんとお酒飲んだりとか(笑)、いっぱい遊びました。そういう意味では楽しかったです。

ーーそれ、ミュージシャンとしてはサボりじゃないですよ。でも、ストイックに向き合い続けていただけではないということですね。

内川:そう思われたらちょっとシャクだなと(笑)。彼(鶴田)はわからないですけど、少なくとも内川はたくさんサボりました(笑)。

「精神性だけのバンドマンが嫌いだったけど、今は完全に逆転してる」(内川)

内川祐

ーーわかりました(笑)。それにしても、EPが出るごとに変わり続けていくのが聴いていてすごくおもしろかったんですが、自分たちの変化という意味ではどういうふうに感じていますか?

鶴田:でも意識して、作品ごとにいろいろ変えてチャレンジしようとかは一切ないんです。結局どの曲もやってることは一緒というか、自分たちがこうありたいと思う自分であり続けて、そこから出てきたものをストレートに音楽にしていくっていうことはどの曲も変えてない。だから、作品としてパッケージしたときに、自分たちの1年を客観的に見たときに、変化に気づくみたいな。

内川:同じ人間性の中で、切り取り方が違った4作だったのかなって思いますね。

ーーうん。まさに変化するための変化をしたわけじゃなくて、そのときそのときの気持ちに向き合ってたら自然と変わっていったっていう。

内川:そうですね、そのほうが近いかもしれない。

ーーで、変わっていったからこそ、変わらないものも浮かび上がってきているというか。

鶴田:変わらないものが浮かび上がってきたっていうのはすごく感じる1年でしたね。

ーーそれって自分たちで言語化できますか?

鶴田:まあ、2人がかっこよくあり続けるということですかね。そのままでいるっていうことです、結局残ったのは。何かいろんな鎧とか武器とかを外していったら、それしか残っていない。

ーー「鎧とか武器を外していった」という感覚があるんですか?

鶴田:本当に結成当初とかはサウンドの好奇心みたいなのも今よりも少し強かったりしたので、いろんなことにチャレンジしましたけど、結局この1、2年は体当たりっていう感じですね。だからこそその期間の曲を集めた作品が、本当に今の自分たちのドキュメンタリーのようなものになったんだと思います。最初はどうかっこよくなろうかとか、いろんなことを考えてましたけど、それよりも自分の中にあるかっこいいものを信じて貫くっていうところに辿り着けた。かっこよさの定義ってすごく難しいですけど、結局僕ら2人がそれをかっこいいと思うかっていうところでしかないんですよね。

ーーそれって自信みたいなものでもあるんですかね。

内川:でも自信はやっぱりあると思いますけどね、自分がどういうベクトルで選ばれて今ここにいるんだろうと思ったときに、やっぱり努力とか、センスとか、経験値ではないなと思うんですよ。単純に、僕だったらたぶん声だし、鶴田と2人でやってるこのK:reamっていう、そもそもの可能性に満ちた形だったりとか、そこしかないんだなと思って。逆にそれで業界のトッププレーヤーの人たちと一緒にやらせてもらえるんだって思ったときに、「これ強烈な才能じゃん」って思ったんですよ。

ーーなるほど。

内川:それが今現状で足りているとか、そこで戦っていけるっていうよりは、たぶんそこが僕らのポイントだから、そこをただただ伸ばしていくべきなのかなと思ってます。アマチュア時代にライブハウスでライブをやっていたときに、精神性だけあるバンドマンとかめちゃくちゃ嫌いだったんですけど、なんか逆に今、僕もそうなってるなって思いますね(笑)。音楽家なら曲書けよ、考えろよと思ってたんですけど、完全に逆転しちゃってますね。

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