『体温、鼓動』インタビュー
古内東子、30周年の道のりを実感した刺激的な挑戦 音楽の原点=ピアノと向き合って紡ぎ出された現在地
30周年のいま素直に感じる恋心
ーー以前、古内さんは自分のやりたい音楽のイメージとして、切なくてかっこいい=「セツナカッコイイ」という言葉で表現されていました。
古内:今回のアルバムは、まさにそういう部分を表現できたと思います。切なさっていうのは、サウンドもありますけれど、やはり歌詞が重要ですよね。それで言えば、今回の新曲の歌詞は、自分の中にある、純粋でシンプルな「いま感じる恋心」なんです。ピュアって言うとちょっと恥ずかしいですけど(笑)、その歌詞とピアノトリオのプレイのクールさが相まって「セツナカッコイイ」曲ができたと思っています。アルバムを作るからといって、あまり先にコンセプトや歌詞のテーマを決めたりしないタイプだし、今回はコロナがあったり、自分の年齢だったり、どうなるのか自分でもわかっていなかった部分が多いんですけれど、書いていくうちに結果的に「いま感じる恋心」になっていきましたね。
ーーさきほどの話からすると、それが6割ぐらいできたメロディに引っぱられて現れてくる?
古内:そうですね、あくまでも自分の中にあるものが出てきてしまうイメージですね。というか、それしかできないのかもしれない(笑)。映画だとラブストーリーが割と苦手で、コメディーとかサスペンスとか、宇宙がドカーンみたいなのとか(笑)、そういうタイプが好きなんですけど、自分の作品になるとメロディに呼ばれて自分の中にあった気持ちに気づく。人の恋愛はヒントになることはありますけれど、題材を探しているということはまったくないですね。あくまでも自分の中にリアリティがないと書けない。例えば「体温、鼓動」も、コロナ禍を経た自分だから出てきた歌詞かなって思って。当たり前ってなんだろう、一番大事なものってなんだろう、そんなことを誰もが考えた時期に私から出てきたのはこういう歌詞だった。誰かといたい、ひとつになりたい、そういう内に秘めた熱さのようなものが全体を象徴してくれていると思って、今回のアルバムタイトルにもなりました。
ーーアルバムからも聴こえる安定感、そこにあるリアリティはどこから生まれてくるんでしょう。
古内:そうですねえ……たまに、クールに見られる部分があると思うんですよ。好きなときにアルバムを作っていると思われたり、テレビに出ない人とか思われたり。いや、出ないんじゃなくて、そうお声がかからないんですって思うんだけど(笑)。でも、自分としては30年間、それなりに一生懸命やってきたんです。かと言って、四六時中ずっと曲を作り続けているタイプでもないんですよね。作るきっかけがあるときに集中する。そのいい距離感、自分なりのペースを保ってきたからじゃないかと思いますね。
ーーこうして完成したアルバム、そしてここからの古内東子への思いを聞かせてください。
古内:曲作りからレコーディングまで、あらためて音楽を作ること、演奏することが楽しいと思わせてもらいました。30年の中には、乗り越えるのが大変だなって思ったこともあったし、何を求められているんだろうと考え込むこともありましたけれど、このアルバムは、まず楽しい、それが先にありましたね。30年やってきたからこそ思えたんだろうし、原点に帰ったような、アニバーサリーにふさわしい気持ちに立ち返ることができました。このアルバムを携えてのブルーノートでのライブも決まっていますが、その気持ちのまま、今後のライブでさらにこのアルバムの曲を育てるのが楽しみですね。ブルーノートではバンド編成でお届けするので、ピアノトリオのために作った曲たちがどう変化するのか、そのことを私自身も楽しみたいです。これからに関しては、巨大な野望はないんですけど(笑)、音楽から離れることもないし、曲作りを嫌いになることはないですし、同じように恋心もなくならない。つまり変わらなくていいんだという自信は生まれました。変えなくていいかなって、今は思っています。
■商品情報
古内東子『体温、鼓動』
2022年2月21日(月)発売/¥3,300(税込)
<収録曲>
01. 虜
02. 夕暮れ
03. 体温、鼓動
04. 時はやさしい
05. 動く歩道
06. だから今夜も夢を見る
07. この夜を越えたら
08. はやくいそいで(2022 Piano Trio Version)