『New Spring Harvest』インタビュー

TOSHI-LOW、OAUの活動から得た“音楽”を奏でる喜び BRAHMANに与える影響も明かす

 OAUの新EP『New Spring Harvest』は、先行配信された「世界は変わる」をはじめ彼ららしい力強くも繊細な5曲を収録した快作だ。全17曲収録のベスト『Re:New Acoustic Life』から1年強、コロナ禍の厳しい状況の中で生まれた2曲のインストゥルメンタルを含む5曲は、いずれも格別な存在感を放っている。

 OAUが、BRAHMANの4人であるTOSHI-LOW(Vo/Gt)、KOHKI(Gt)、MAKOTO(Cb)、RONZI(Dr)とMARTIN(Vo/Vn/Gt)、KAKUEI(Per)が組んだバンドであることを書くのは蛇足だが、この取材の直前にBRAHMANのツアーが終わりOAUとして動き出す分岐点的な時期だったこともあり、「もうOAUもBRAHMANも一緒くただと思うんで、そんなに分けなくて大丈夫です。どれも繋がってるんで」とのTOSHI-LOWの言葉からこのインタビューは始まった。(今井智子)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

OAUが目指すのは誰もが心に持っている“ふるさと”みたいなもの

ーー「世界は変わる」は昨年のツアーで演奏していて、今年に入って先行配信されましたね。コロナ禍の真っ只中で生まれた曲かと思いますが。

TOSHI-LOW:「世界は変わる」を作ったのは、最初に緊急事態宣言が出た2年前の春なんです。集まれないんだったら一人ずつスタジオに入って録ってしまえばいいんじゃない、ってことで録った曲で。この2年間を経て出てきた言葉ではないけれど、結局初めから思ってることはそんなに変わらないんですよ。

ーー2年前の突然のいろいろな変化は曲のテーマや活動などに影響しましたか。

TOSHI-LOW:影響せざるを得ない時だったので、大いに影響して大歓迎だったというか。それでOAUのセルフカバーベスト盤(『Re:New Acoustic Life』)を作ることもできたので。他の人たちが動いていなかったからスタジオも空いてるし、余裕を持ってみんな1日ずつ入って。「世界は変わる」はベスト盤と並行して作ってたんです。

ーーベスト盤を作ったことで、サウンドの方向性に変化はありましたか。

TOSHI-LOW:サウンドより、自分たちの持ってるものをもう1回見つめ直すことができたのはデカいですね。もう1回自分たちの根本にあるものを見直すことができて、「今だったらこうできるのになぁ」とか、「もともと持ってる良さってなんだろう」ってのが見えたので。バンドの今までの振り返りがしっかりできたことがよかったし、何もできないならそういうことをしっかり考えるという切り替えができたのもよかったと思ってます。

ーーベスト盤には「帰り道」(テレビ東京系ドラマ24『きのう何食べた?』OPテーマ)が入っていますが、振り返ってみれば日本語でしっかりしたテーマの曲を書くというのは新しい経験だったかと。

TOSHI-LOW:OAUでは、難しい言葉じゃなく多くの人に届くわかりやすい言葉で歌いたくて。シンプルで簡素な感じなんだけど、それだけで情景が浮かぶというか。子供に絵本を読むような言葉遣いにも近いかもしれない。それが色濃く、完成形として出たのが「帰り道」なのかな。

ーー「世界は変わる」は、「帰り道」の続編のような印象も受けました。

TOSHI-LOW:そういうイメージですよ。二人のストーリーがある中で、人によって自分を変えられることもあるし。今、人と会えなくなったじゃないですか。それで遠くに離れてる人は、一緒にいないといないことになるの? って言ったらそんなことはないし、ちゃんと存在を感じて認識していれば、いるんですよね。亡くなった人だとしても、自分の心で感じてる限りは、いるじゃないですか。「世界は変わる」という曲の内容はどう捉えてもらってもいいんですけど。愛する人ができた、認識したってことは、ずっと一緒にいられることだと思うんですよ。それはコロナが始まったからじゃない。本当はもともと感じておくべき人間の大事な話だと思うんですね。それをコロナ禍になって「会うことって大事だったんだね」ってみんなが大騒ぎしているだけで。

ーーコロナ禍でも止まらず動き続けようという気持ちもあったんでしょうか?

TOSHI-LOW:いや、何もできないんだったら何もしなくていいと思いますよ。実際OAUのレコーディングはしてましたけど、それ以外は子供たちとダラダラしてましたし。子供がやってるゲームを1日中眺めてるとか、YouTubeのザッピングしてるのを横で見てるとか。こんな時間をもらえるなんて最高だなと思いながら朝からビール飲んで過ごしてたんで(笑)。その時にやれることをやるというような感じでしたね。

ーー新作の『New Spring Harvest』というタイトルは春の収穫祭といったイメージでしょうか。どんな意味が?

TOSHI-LOW:インストの曲に名前をつける時に、だいたい植物とか果物とかの名前をつけるんですよ。それが自分の中でしっくりくるというか。無機物じゃなくて有機物の名前をつけたくて。今回も2曲インストがあるんで、果物だったら何があるかなと考えて出てきたのが「Peach Melba」と「Apple Pie Rag」。そういうものがいっぱいあったら何になるだろう、と思ったら、収穫祭的な感覚になるというか。カゴいっぱいに果物がある。そういうイメージですね。

ーーこういう曲はバンドでジャムって作っていくんですか? それとも誰かのモチーフがあって?

TOSHI-LOW:最近はMARTIN原案がほぼほぼなので。彼の持ってるイメージを最大限に生かして作ってますね。その他の曲もそうですけど、これを何回繰り返してとか、逆にここはいらないんじゃないかとか、そういうのは結構俺が決めることが多いです。歌詞の都合もあるんで。でも編曲的なことはみんなでやった方が面白いというか、バンドサウンドならではのものが出ると思うので。たぶん、MARTIN自身も、それがあるから初期段階でボンと投げてくれるんですよね。

ーーMARTINさんも歌詞を書いて歌うから、彼の曲とのバランスは考えますか。

TOSHI-LOW:考えないですけど、MARTINから「こういうことをテーマに書いて欲しい」と言われることもある。その時はできるだけその意見に添いたいなと思いながら書いています。

ーー逆にTOSHI-LOWさんからテーマを投げることは?

TOSHI-LOW:俺が日本語で書いた歌詞を歌ってもらう時に最近気をつけているのは、できるだけMARTINが言いやすい言葉にするということ。そこは気を遣いますね。

ーーOAUの歌詞が、平易で子供にもわかるような言葉で、テーマも伝わりやすいのはMARTINさんとのそうした関係性が反映されているんですね。

TOSHI-LOW:普通に喋ってる時に「分かるか?」ってことを「認識してる?」とは聞かないじゃないですか。それと一緒で。それは「知ってる?」でいいじゃんって。できるだけ簡単な言葉で深い情景を描きたいですよね。MARTINと喋ることが、そういう表現の練習にもなってるのかもしれない。

ーーMARTINさんが歌詞を手がけた「Life」は、人生は乗り越えられないと歌いながらも最後には人生は素晴らしいと言うポジティブな曲ですね。

TOSHI-LOW:この曲に関してはパーソナルな思いを歌詞にしたというよりは、親としての矜持の部分なんじゃないかな。彼が父親として子供に何を話すかと考えた時、なんだってうまくいくよという嘘はつきたくないんだと思う。大変だけども、自分が頑張れば乗り越えられるかもしれないと。

ーーなるほど、そうでしたか。

TOSHI-LOW:俺は結構広いところに向けて歌詞を書くことも多いけど、MARTINは子供に向けてとか特定の誰かについて書くこともあって。でもたった一人に書いたもののほうが届くことってあると思うんですよ。逆にみんなに向けて書いたものが誰にも届かなかったりする。みんなが自分にあてはまるかもしれないと思えるものって、実はすごく狭いポイントに書かれた歌詞なんじゃないかなと思うことはありますね。

ーー「世界は変わる」が最初にできて、そのほかの曲はどのように?

TOSHI-LOW:MARTINが原案を持ってくるスピードが早いんで、自分たちもそれをまとめ上げるスピード、全体のリレーションが早くなってるのはあります。みんな言語化するスピードが早くなってるし、楽器の技術も上がっているから形にするのも上手になってるんですよ。それで全体がすごく早くなってる。

ーーOAUも15年以上続いてますから、いろんな意味でのレベルアップは当然でしょう。

TOSHI-LOW:いやいや俺なんか、音楽をやろうという意識は最近で。それまでは、ガーッとパフォーマンスをしてた、それがたまたま音楽だった、というのでしかないんで。血が滾ることだったら何でもよかった。それがバンドだった。今は音楽ができるという喜びの方が大きいし、単にパフォーマンスでその場をぐちゃっとして終わろうという気はない。もっと音楽の中で、自分たちの自由さを見つけていきたいと思ってますね。

ーー今回5曲というサイズですけど、アルバムの前にこれを出そうという気持ちで?

TOSHI-LOW:聴きやすくないですか、これぐらいだと。アルバムは結構頑張らないと聴けないじゃないですか。でもシングルじゃ物足りない。ちょうど野菜カゴ1杯分の果物でいいかなって感じ。単純に、自分が気持ちいいステップを踏めればいいだけなんで。インスト2曲を入れたのは、自分たちもお客さんも含め自然と体が揺れる感覚をもう1回体感したかったからなんですよ。それをまた野音の光景で見てみたいなっていう。去年の野音のライブが天気もよかったし、すごく気持ちよかったんですよね。夕暮れの本当に日が暮れる手前のところで「帰り道」をやるのもよかった。去年の野音の時にもすでに「Peach Melba」をやってるんですよ。歌詞も大事だと思うけど、それより一番初めに、手拍子したくなるとか、頭が揺れてくるとか、その感覚が大事というか。そんなに耳でばっか音楽を聴かないでよって。もっと感じてほしいんですよ。インストは、そういう意味でも言語に邪魔されないじゃないですか。

「Peach Melba」OAU TOUR 2021 -Re:New Acoustic Life- FINAL/日比谷野外大音楽堂(2021.04.18)

ーーOAUにとってインストは重要な要素の一つのような気がします。

TOSHI-LOW:インストは、このまま増えていくんじゃないかな。時期が来たらインストだけのアルバムを作るとか、そういうことも楽しみとして残せるなって。ちょっと前までは、歌がないと物足りないと思うこともあったけど、バンドがスキルアップしたこともあって、楽器が鳴ってることで見せられる面白さが、最近のOAUの収穫かな。

ーー昨年の野音は、大変な時期にとても平和で素敵な時間を過ごさせてもらった記憶があるんですよ。OAUの音楽の豊かさがあの場所に似合っていたしあの時期に心地よかったんです。

TOSHI-LOW:コロナだろうが結局自分次第じゃないですか。OAUには来てくれた人を喜ばせたいという、一番シンプルでポジティブな思いがあるんですよ。音楽を聴いて喜んでもらいたいっていうね。どっちかというとBRAHMANはフラストレーションの行き先みたいなところも重要なんだけれども、OAUは純粋に、大人からおじいちゃんおばあちゃん、みんなが手を叩いて喜んでもらえるような音楽が真ん中にあって、その周りにテクニカルなこととかマニアックなことがあるから。売れる歌を作りたいんじゃなくて、誰が聴いても「いい歌だね」って思ってもらえるような、誰もが心に持ってるふるさとみたいな、その琴線に触れるようなものを作りたいと思ってますよ。

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