『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』インタビュー
竹原ピストル、コロナ禍を生きる歌うたいの赤裸々な本音 全国を旅することでしか出会えない刺激とは?
野狐禅時代に抱いた歌うたいへの強烈な憧れ
ーーそして5曲目「悄気る街、舌打ちのように歌がある。」は、曲名からシリアスで激しい曲を想像していたんですが、どこかお祭り的な雰囲気がある曲ですね。
竹原:そうですね。「どんな状況であっても歌はあるよな」という歌詞だし、ハッピーなニュアンスもあるので。描いているのは、何度目かの緊急事態宣言のときの情景ですね。街にほとんど人がいなくて、たまに人とすれ違うとお互いに距離を取り合っている。
ーー〈四条の橋を渡り行く。〉というフレーズから始まりますが、京都は思い入れのある街なんですか?
竹原:もちろん京都も好きですけど、この曲で描いているのはライブハウスへの愛着ですね。someno kyotoというアコースティック専門のライブハウスなんですけど、この2年間も足繁く通って、無観客配信ライブをやらせてもらって。めちゃくちゃお世話になったし、そのおかげで何とか歌うたいでいさせてもらえたなと。
ーー竹原さんは全国各地のライブハウスで歌ってきたし、日本中に「お世話になった」という人たちがいるのでは?
竹原:まさに。どの店もそうなんですけど、どうにかエンタテインメントを続けたい、楽しいことをやろうというエネルギーがすごくて。僕自身も引っ張ってもらったし、すごく感謝してますね。去年の秋くらいから少しずつ出かけられるようになって、いろんな店を回れるようになったので、街に着くたびに「やった!」って嬉しくなっちゃいます。
ーーその間もずっと曲を書き続けてきたわけですよね。いいときも悪いときも、すべてが歌になるというか。
竹原:シンプルに、曲を作ったり歌うことが好きなんですよ。繰り返しになりますが、今回のミニアルバムについては、この時期に書いた曲をすぐに届けたかったというのが大きいです。
ーー“歌を作り、歌うことを生業にする”という竹原さんの生き方を色濃く反映した作品でもあると思います。そもそも“歌うたい”として生きることを選んだのは、何がきっかけだったんですか?
竹原:「歌うたいという生き方があるんだ」と知ったのは、野狐禅として北海道で活動していたときですね。北海道に渡ってきた歌うたいの方の前座をよくやらせてもらっていて、そのなかで出会った一人が遠藤ミチロウさんなんですが、ミチロウさんは『音泉map(150:全国インディーズ・ライブスポット情報)』という本を出しているんです。全国各地のライブハウスの図鑑みたいな本で、弾き語り小屋とかカフェとか、とにかく一人でライブできる店がたくさん紹介されていて。そこを回って生活している歌うたいの方がいることを初めて知って、「こういうシーンがあるのか」と感動したんですよね。それまでは、「プロになるというのは、事務所に所属して、メジャーのレコード会社と契約することだろう」と思っていたんだけど、そういうやり方ではなくても、歌を生業にしている人がいる。その生き方に強烈に憧れたんです。
ーーカッコいいなと。
竹原:はい。歌で出し物を披露して、取っ払いのギャラをもらって、次の街に行く。自律性が高いし、すごい生き方だなと思って自分もやり始めたんですけど、あるとき「なんだこの生き方。普通じゃねえぞ」と我に返る瞬間があったんですよね(笑)。日本中のライブハウスを回って歌うという生き方にはもちろん愛着があるし、いまも美学やこだわりを持っていますけど、気づけばそれしかできない人間になっていたという、冷めた目で自分を見ているところもあって。そこもせめぎ合っているんですよね。俺はいつまでこれを繰り返すのかと。今回のアルバムには、歌うたいが何を思っているのか、どんな生活をしているのかが赤裸々に描写されています。描き方やシチュエーションは違えど、自分のなかの揺れもすごく出ていると思うので。
ーー竹原さんは現在、事務所に所属して、メジャーのレコード会社と契約しているわけですが、根本はやはり“歌うたい”なんでしょうか?
竹原:そうだと思います。最初の頃はブッキングも自分でやっていたので、事務所に入ることになったとき、スタッフにそういうことを任せて「今までの活動を卒業する」というイメージがあったんですよ、実は。「今日の日はさようなら、俺はもっとデカいところに行くよ」と思ってたんですけど、今もやってることは変わってないんですよね。俺はいい歌を作って、いいライブができるように精進する。ツアーを組めば、スタッフの皆さんが必死で宣伝してくれて、お客さんを呼んでくれる。それって、弾き語り小屋のマスターが「今度こういうヤツが歌いに来るから、聴きに来てよ」って常連のお客さんを誘ってくれるのとまったく同じなので。
ーー規模は変わっても、基本的にやってることは同じだと。
竹原:はい。そのことに気づけたからこそ、以前と同じ気持ちで活動を続けていられるんだなと。弾き語りのシーンは今もあるし、むしろ大きくなっていると思います。「うちの店でもやってみよう」というカフェも増えているし、日本中を旅して歌ってる仲間はたくさんいるので。自分もいろんなところで歌ってるし、それが面白いんですよね。
ーー小さい会場で歌うことの面白さもあるということですね。
竹原:もちろん。例えば、名実とも素晴らしいアーティストと共演して、「結構食い下がったんじゃねえか?」と思えるライブをやったとしますよね。その翌日に弾き語り小屋に出て、初めて会ったルーキーにボコボコにされたりするんですよ。バケモノみたいなやつというか、「すげえな、こいつ!」と思う歌うたいはどこにでもいるし、だからこそいろんな場所でやる意味があるんですよね。一番影響を受けるのは共演者の音楽だし、「ここは真似したい」と思えば、どんどん取り入れるので。そういう意味では先輩・後輩は関係ないし、ビッグネームもルーキーも関係ないです。事務所の方々が組んでくれるツアーとは別に、気の向くままにいろんな店で歌ってるやつはなかなかいないし、幸せな活動をさせてもらってますね。しかも「まだ行ける」「もっとすごい曲が書けるはず」という気持ちも色褪せてなくて。自分でもどうかしてるなと思いますけど(笑)。
■リリース情報
竹原ピストル
Mini ALBUM『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』
2022年2月2日(水)リリース
・初回限定盤(CD+DVD)¥5,280税込
・通常盤(CDのみ)¥1,980税込
・アナログ盤 ¥3,630税込
ダウンロード/ストリーミングはこちら
<CD収録曲>
1. 初詣
2. せいぜい胸を張ってやるさ。
3. 笑顔でさよなら、跡形もなく。
4. 朧月。君よ、今宵も生き延びろ。
5. 悄気(しょげ)る街、舌打ちのように歌がある。
<DVD収録内容>
ミニアルバム収録全5曲のミュージックビデオを収録
1. 初詣(監督:今中康平)
2. せいぜい胸を張ってやるさ。(監督:広瀬奈々子)
3. 笑顔でさよなら、跡形もなく。(監督:加藤拓人)
4. 朧月。君よ、今宵も生き延びろ。(監督:西川美和)
5. 悄気(しょげ)る街、舌打ちのように歌がある。(監督:橋本拓哉)