『25』インタビュー
春野、表現者として幸せを追い求めることの肯定 自由な創作を目指したターニングポイント『25』を語る
「ひとつの観念に留まってしまいたくない」
ーー2曲目のyamaさんとのコラボ曲「D(evil) feat. yama」も、ちょっと異色な雰囲気に包まれていますね。
春野:そうですね。この曲のアレンジはA.G.Oさんがやってくれました。yamaさんというとてもパワーのあるシンガーを迎えるとなったときに、僕の今までのアレンジメントスタイルだとどうしても歌に対して負けちゃうので、なかなかデモから本番のトラックへ持っていけなくて。自分がアレンジしてたら間違いなくもっとローファイになっていたと思うんですけど、ローファイなビートの中にyamaさんの声が入ったら、たぶんyamaさんは一人でどっか行っちゃうくらいパワーがある方なので(笑)。そういう中でA.G.Oさんがすごくいい助け舟をくれました。A.G.Oさんがトラックを組んでくれて、そこにメロをつける形で曲を作っていったので、「作曲:春野 / A.G.O」になってます。今までのこだわりを捨てて新しいこだわりを見出せた大きな点として、「D(evil)」という曲がありますね。「シンガーソングライターだから全部自分でやりたい」みたいなプライドをほぐすというか、過去の清算というテーマも相まって「こうでなければならない」という考えを捨てなきゃいけないなと思って。自分よりいいセンスを持った人たちにいろいろ委ねてみよう、一緒によりよいものを作ってみよう、という気持ちでできた曲です。
ーーyamaさんをゲストボーカルとして迎え入れたいと思ったのはどうしてですか?
春野:僕が誰かと一緒にやりたいなと思うときって、だいたい僕からのラブコールなんですよね。yamaさんはありがたいことに昔から繋がっていて……あるきっかけがあったときに、TwitterのDMで凸ったんですよね(笑)。そのときに「ぜひ一緒にやりましょう」といい反応をくださって、そこからその曲を軸にEPを作りたいと思って全体の構成を考え始めました。brb.もyamaさんもすごくリスペクトしてるので、一緒に曲を作ったという実感がなくて、できた楽曲を聴いて他人事のように思うことが今でもあるんですけど(笑)。
ーー海外のアーティストとも、yamaさんのようなボカロシーンの歌い手出身の方とも一緒にやっていますけど、やはり春野さんの音楽性の面白さって、クラシックピアノから始まり、ボカロPとしても活躍され、そしてローファイヒップホップや久石譲さん的な日本の叙情的なセンスも取り入れて、そして今新しいオルタナティブR&Bを作っているということで。ここまで幅広くエッセンスを取り入れながら、シーンや国境を越えて活動するアーティストはなかなかいないなと思います。
春野:浮いていたらいいなとは思いますね(笑)。
ーー浮いているとも言えるし、人によって「春野」というアーティストに対するイメージが違うんじゃないかと思います。「春野ってボカロPだよね」と言う人もいれば、「オルタナティブR&Bアーティスト」という印象を持っている人もいるのではないかと。
春野:いまだにボカロの新しい曲を出してほしいと言われたりするので、どの時間軸で僕を見つけてくれたかによって期待するところが違うんだろうなと思うし、そういうファンを切り捨てたいとも思っていなくて。「春野はこうあるべきだ」というひとつの観念に留まってしまいたくないという気持ちはすごくあるので、本当はまるっとファンを現在地まで連れていきたいんですけどね。でもどのときに作っていた曲もいい曲だなと今思えるので、表現の方法やスタイルが違う春野を、どの時間軸でも好きと言ってもらえるのは嫌味なく嬉しいなと思います。
アジアシーンへの興味やさらなるコラボへの意欲も
ーーもう1曲コラボレーションでいうと、「Angels」の作編曲にShin Sakiuraさんが入っています。Shinさんからはどういった手助けがありましたか?
春野:「Angels」は、本当はギター1本でバラードを作りたくて。ライブで、僕がマイクを持って、Shin Sakiuraが斜め後ろくらいでギター1本持って歌うという妄想だったんです。それがやりたくて「アレンジやってよ」と誘って快く参加してもらったんですけど、いざ歌とピアノが入ったデータをShin Sakiuraに送って、1週間後ぐらいに帰ってきたら、素晴らしいギターとビートが入っていたんですよね。僕のイメージとは別の楽曲が完成されていたんですけど、それがよかったんですよね(笑)。
ーー(笑)。
春野:それがほぼ、今リリースしてる「Angels」の形なんですけど。人と何かを作ることにおいて、意図しない変化ってあるべきじゃないですか。僕はShin Sakiuraをリスペクトしているし、作家として操作したいとも思ってないので、彼がよりよいと思うことが、僕の思惑とは違ってもそれがいいものであれば採用すべきだと思って。彼のことが好きなので、彼がいいと思うものを嫌いなわけがないんですよ(笑)。本当はバラードを1曲作りたかったので、当初の予定とは違う構成のEPができ上がったんですけど、そういう想定外なところも人と一緒に作る醍醐味なので、すごく面白かったなと思ってます。
ーーこのEPは音像も素晴らしいですよね。音の配置にまでこだわってるのがよくわかります。
春野:曲によって違いますよね。狭かったり、広かったりすると思うので。僕は気力とメンタルを削り取りながら楽曲を作るタイプなので制作期間が1年くらいかかっていて、その中で僕の趣向も聴いている音楽もずっと同じなわけではないし、よりよいサウンドメイキングをしたいと常々思っているので、その時々で表現したい音が違ったことで、結果的にいい意味で音像に違いが出たという感じですかね。
ーー本当にいい意味で、だと思います。
春野:ありがとうございます。できたときは「やっちゃったな。どうやって1枚にまとめるんだ……」という気持ちがあったんですけど、いつもお世話になってるエンジニアの染野拓さんにトラックをまとめてもらっているうちに、春野という主軸がどれだけ横方向に広がっても「春野がやってる」ってわかるなと思えて。僕としてはこだわりを捨てる過程で、変なことをやってやろう、とっ散らかしててやろうというつもりで作ったといいますか、現状を打破してぶっ壊しにかかるつもりで作っていて。それができ上がってみて、「ああ、やっぱり春野なんだな」といろいろな人に言ってもらえて納得した瞬間に、これでよかったんだと思えました。
ーー歌い方にも変化を感じたのですが、今回のEPにおいてはどういうことを意識しましたか。
春野:結構ファルセットを使うようになりましたね。今までポツポツと歌うのが春野のよさだと勝手に思っていたんですけど、自分がこの先見据えるものには、それだけじゃなくてもっといろんな表現をしているアーティスト像があって。そういう中でいろいろ触発されて、キーの高いメロディが前より増えたんじゃないかなと思います。
ーー『25』という作品で区切りをつけて、今後はどういった曲作りをしていきたいと考えていますか?
春野:今はやっぱり、アジアの音楽シーンに強い関心を持っていて。最近韓国語のレッスンに通い始めたぐらい、アジアのシーンを熱心に観察し続けています。僕は日本出身で日本語が話せるというところは大切にしつつ、できれば日本だけに留まらずに、自分が好きなアーティストと交流を持ちたいし、一緒に楽曲も発表したいなと思います。どこの国の出身であろうが、いいサウンドといいメロディといい歌であれば誰だって聴く時代になったので、そういったところの追求を深めていけたらいいなと思ってますね。
ーーすでに春野さんのYouTubeには日本語以外の言語のコメントが多いですよね。
春野:ありがたいことにちょこちょこ増えてきていますね。引き続き頑張っていきたいです。
■リリース情報
春野 Digital EP『25』
2022年2月2日(水)リリース
配信はこちら
<収録曲>
01. cash out feat. brb.
02. D(evil) feat. yama
03. Love Affair
04. 21
05. KID
06. Dream
07. Lovestruck
08. Angels
★オフィシャルサイト
https://haruno-official.com/shttps://youtu.be/_skQ1DldFFg
★YouTubeチャンネル
https://youtube.com/c/harunoiswhoo
★Instagramオフィシャルアカウント
https://www.instagram.com/iswhooo/
★Twitter オフィシャルアカウント
https://twitter.com/xupxq_