荻原梓のチャート一刀両断!
King Gnu、初のシングルチャート首位獲得 焦燥感と夢心地ーー人間の愛情を表現する2つの視点
一方の「逆夢」では、甘く温かいストリングスとピアノが絡み合う美麗なサウンドのイントロを経て、ヒップホップ由来の重厚なグルーヴと美しい歌メロとが混ざり合う。ある意味「一途」とは対極に位置する作風である。常田大希の兄である常田俊太郎がアレンジを担当したこの曲のストリングスは、ボーカルの裏で繊細に奏でられる序盤から、〈春はいつだって〉以降のBメロではピチカートを用いて曲全体の景色をガラリと変化させ、サビではバンド全体を支えるように楽曲の熱を静かに盛り上げている。こうしたストリングスのもたらす優しい雰囲気と、King Gnuが元来持っている特有の哀愁とが、終盤につれて大団円的に折り重なって行く展開が見事。とりわけストリングスとピアノだけが流れる中で、心地よいファルセットが響き渡るラストの歌世界には思わず息を呑まされる。
タイトルの「逆夢」とは、実際には逆のことが起きる夢。とすると結びの〈正夢でも、逆夢だとしても〉の一節からは、未来がどうなろうとも構わないというある種の切なさが募る曲だ。そして「一途」のあとにこの曲を聴くと、そのやるせなさもより一層強まる。
何かに駆り立てられたかのように1つのものに突き進む〈僕〉をドライに描いた「一途」、温かく流麗なストリングスアレンジで、まるで夢心地のようなサウンドを聴かせる「逆夢」。人の抱く愛情について、2つの楽曲から描くことで、深みを持たせたシングルだと感じる。