『I was born 10 years ago.~TRIBUTE~』特別対談

愛はズボーン 金城昌秀×夜の本気ダンス 米田貴紀が語り合う10年間の変遷 葛藤しながら獲得してきた“らしさ”とは?

ダンスミュージックに求める“悲しさと怖さ”

ーー今年、夜の本気ダンスは1月にミニアルバム『PHYSICAL』、愛はズボーンは5月にアルバム『TECHNO BLUES』をリリースしています。愛はズボーンはテクノを経由してダンスミュージックに接近した作品でしたけど、お二人はそもそもダンスミュージックに対してどういう解釈を持っているのでしょうか。

金城:まず今年は、広い会場で映える曲を作ろうって考えていました。『TECHNO BLUES』の曲と、今回のカバー10曲は、愛はズボーンが大きな会場でライブできるようになった時に効いてくる気はしますね。「この曲、この時のために作ってたんや」みたいな。

愛はズボーン "BEAUTIFUL LIE" (Official Music Video)

ーー夜の本気ダンス「SMILE SMILE」も広い場所で鳴っているイメージの曲だと思ったんですけど、いかがですか。

米田:そうですね。ホールで新曲を披露したいなという気持ちから、コロナ禍前に作り始めた曲なんですけど、「SMILE SMILE」を除けば、『PHYSICAL』の他の曲はコロナ禍での制作なので、タイトル通り体で楽しめるようなものを作りたかったんです。ライブハウスになかなか行けない状態でも、家で聴いて、ちゃんと踊ってもらえるものにしたいなと。僕自身がそこに飢えていたのもデカかったかもしれないです。「GIVE & TAKE」は自分自身が踊れる曲を目指していたので、めちゃくちゃ気に入っていて。

ーー自分で踊りたくなるというのは、具体的にはどんなものだったんでしょう?

米田:“楽しいけど悲しい”、「どっちなんや」みたいな感じの曲。ワーッと踊って楽しいんやけど、ふとした瞬間に「あれ、ちょっと悲しい……」となるというか。ニューウェーブとかポストパンクの踊れる曲って、たぶんそういうものが多い気がする。

金城:初期のArctic Monkeysの映像によくある、青と灰色のカラーグレーディングで寒そうなコートを着ていて、踊れるけど泣いてる……みたいな感じ?

米田:そうそう。イギリスの晴れ間のない曇り空みたいなイメージ。

Arctic Monkeys - When The Sun Goes Down (Official Video)

金城:それで言うと僕の場合は、「面白すぎて怖い」みたいな感じが一番踊れるかも。まさにThe Flaming Lips、MGMT、The Chemical Brothersみたいな、ブレイクビーツを使ったアシッドハウスみたいなループ曲で、躁鬱の“躁”のコード進行で「ピコピコピコピコ」「ドンドンドンドン」っていう音をずっと聴いていると、自分が自分でなくなりそうなトランス状態になって、楽しすぎて怖くなってくる。米田くんの言う“悲しさ”の部分が、僕は“怖さ”かもしれん。でも、それがめっちゃ気持ちいいねんな。

ーー興味深いですね。

金城:子どもと遊んでる時も感じるかも。言葉を喋り始めたばかりの2〜3歳くらいの子とずっと遊んでると、だんだん目が本物になってくるというか(笑)。楽しいことだけに脳みそが使われてるから、ワーッと視野も狭くなって感情的になるし……僕が音楽を聴いていてなりたい状態ってまさにそれで。だから子どもに返るためにやってるのが音楽なのかもしれないですね。

ーー現実を忘れるくらいの没入感ということでしょうか。

金城:そうそう。踊り続けていると「現実に戻れなくなったらどうしよう」「これ以上踊り続けたら死ぬな」って思うんだけど、音楽はそのうちパッと止まってしまうわけだから、そこのせめぎ合いがあるんですよね。僕の歌詞って意味はちゃんとつけてるけど、例えば耳に入ったそのままの意味で伝わってしまうものや、意識が現実に戻ってしまうような言葉は書かないようにしていて。「人生大変なことばかりだけど頑張ろうぜ」とか歌われたら、せっかく楽しく遊んでるのに「はよ風呂入ってきなさい」って言われてるようで、なんか冷めるじゃないですか。もちろん「愛はズボーンの曲にとって」ということですけど。

ステージに立つロックバンドとしての終わりなき葛藤

ーー逆に米田さんが踊っていて悲しさを求めるのは、どうしてだと思いますか。

米田:僕は踊ることで、生きている実感を得られているんだなって最近よく思うんです。生きていることを確認するために踊っていて、それが行き過ぎた時って、感覚的に死に向かっていきそうになる。ライブしている人が、たまにステージ上で無茶苦茶な状態になったりするじゃないですか。急にマイクをバコーンと投げるとか、どうにでもなってしまえっていうパフォーマンス。それを観ているとちょっと怖くなったりもする。途中まで生きている喜びをワーッと感じてるんやけど、それ以上行ったらもうヤバいぞ……みたいな。

金城:あるよね。

米田:しかもお客さんとの相乗効果でガンガン上がっていくから、僕もそういう時って首とかバンバン振りまくるんだけど、終わった後に「あれ、体痛いぞ」みたいな(笑)。でも、やっぱりやってしまう。

金城:ステージ上だとアドレナリン出てるから痛くないしな。愛はズもライブ後に「今日どうやった?」みたいに反省会するんやけど、結局ステージ上でそうなるとしたら「反省会って一体何なの?」っていう話にもなっていくし(笑)。

Yoru No Honki Dance 「TOUR 2021 "TANZ"」 NAKANO SUNPLAZA

米田:前に京都MOJOでthe coopeezの藤本(浩史)さんに言われたのが、「ライブではスーパーサイヤ人になれ」っていうことだったんだよね。スーパーサイヤ人ってさ、ブチ切れてるけどめっちゃ冷静やん?

金城:たしかに。(孫)悟空ってホンマにキレたら静かやもんな。

米田:そう。“ガンガン気合い入ってるけど冷静”っていう状態に入ることで、もっとライブが良くなるよ、みたいな。そう言われたのを今思い出したわ。

金城:つまるところは自分の狂気を司れるかどうかやな。でもそう思うと、悟空ってめちゃくちゃ悲しいよな。最初は「クリリンのことかー!」っていう怒りでドカンとキレてスーパーサイヤ人になってさ、その怒りのままフリーザを倒せるけど、その後ってだんだんスーパーサイヤ人になることをコントロールできるようになるわけやん。そうなった時の悟空ってめっちゃ悲壮感漂ってるよなって。

米田:たしかに。

金城:エンターテインメントとしては、スイッチのオン/オフでコントロールできたらめっちゃいいと思うけどね。自分に嘘をついてるわけでもないし。でも何回もそれを重ねすぎると、なんか悲しい。

ーーパフォーマンスをコントロールしすぎてしまうと、一定のクオリティは出せるけど、予想外の爆発的なライブは生まれにくくなるかもしれないですよね。その爆発を生み出すことこそが、ロックバンド本来の醍醐味でもあると思うので。

金城:そうですね。僕も米田くんも30代に入ったからこういう話ができるけど、20代の時は、もっと極端に0点か100点かみたいなライブをやってきたかもしれんな。

米田:僕らが0点出し続けてたから、藤本さんもそういう風にアドバイスしてくれたのかもしれない(笑)。

金城:米田くんとしては、ライブでのスーパーサイヤ人のコントロールはどれくらいやれてるの?

米田:全然できてないね。この前まで全国ツアー回ってたんやけど、自分を解放しすぎて大猿みたいになって、尻尾切らないと止められなくなってた(笑)。

金城:ははははは。

米田:やっぱりツアー自体が久しぶりなこともあって、やり方からまず思い出していかなきゃっていうのもある。そこさえも忘れてるからね、まずは自分がスイッチを押していかないとなって。

金城:そこまで振り切れたらいいよね。こないだビレッジマンズストアのツアーに参加した時、狙って振り切れようとしちゃった時があって。全然予定してないところで僕が喋り出したりとか、バンド初期みたいなことをバーッとやってみたんやけど、もはやその程度では気持ちよくなれへんのやって気づいた。でも、米田くんみたいに大猿になって振り切れようとすると、そこまでいったらあかんっていうストッパーが働いてしまうし……どのタイミングでスイッチ入れようかなんて、狙ってできるものじゃないよなって。

米田:いろんなものが相まって勝手にそうなるからね。僕もさっきの話したライブの時、直前のライブがあまりよくなくて「あかんな」って思っていたからこそ、反動でガツンとスイッチが入ったというか。

金城:そう考えるとKING BROTHERSってやっぱすげえなって思う。

米田:ホンマやね。キャリアが長くなるほどヤバいライブしてる。

金城:でもあれだけ派手にやっときながら、たぶん冷静なんやろうし。そこに悩まなくなっちゃうと終わりやろうなとも思うから、難しいけど。

米田:マラソンみたいに、この葛藤は続くんやろうなって思うよね。

ーーその葛藤も含めて音楽として見せていくのが、ロックバンドでもありますからね。

金城:間違いない。そのマラソンを走り続けるのもやめるのも自由やし、やめたことが正解だったっていう人もいるはずやからな。でも自由だからこそ僕らは悩み続けるというか、いいライブをするためにちゃんと葛藤して、その分だけいいバンドになっていきたいなと思います。

『I was born 10 years ago.~TRIBUTE~』

■リリース情報
トリビュートアルバム
『I was born 10 years ago.~TRIBUTE~』
2021年10月13日(水)¥2,200(税込)
<収録曲>
岡崎体育 / エレクトリックオーシャンビュー
キュウソネコカミ / まさかのイマジネイション
KING BROTHERS / 愛はズボーン
空きっ腹に酒 / MAJIMEチャンネル
THIS IS JAPAN / Z scream!
DENIMS / ゆ~らめりか
ナードマグネット / 恋のスーパーオレンジ
Hump Back / ニャロメ!
Helsinki Lambda Club / ピカソゲルニカ
夜の本気ダンス / BABY君は悪魔ちゃん

『I was born 10 years ago.~COVER~』

カバーアルバム
愛はズボーン『I was born 10 years ago.~COVER~』
2021年10月13日(水)¥2,200(税込)
<収録曲>
エクレア(岡崎体育カバー)
ウィーアーインディーズバンド!!(キュウソネコカミカバー)
XXXXX(KING BROTHERSカバー)
生きるについて(空きっ腹に酒カバー)
カンタンなビートにしなきゃ踊れないのか(THIS IS JAPANカバー)
LAST DANCE(DENIMSカバー)
THE GREAT ESCAPE(ナードマグネットカバー)
星丘公園(Hump Backカバー)
午時葵(Helsinki Lambda Clubカバー)
SMILE SMILE(夜の本気ダンスカバー)

愛はズボーン オフィシャルサイト:https://iwzbn.com
夜の本気ダンス オフィシャルサイト:https://fan.pia.jp/honkidance/

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