WOWOWオリジナルライブ×TK from 凛として時雨 丹修一と島本プロデューサーが語る、瞬間の熱量を切り取った舞台裏
12月30日にWOWOWオリジナルライブ『TK from 凛として時雨 10th Anniversary Session presented by WOWOW』が放送・配信される。これはTK from 凛として時雨のソロ活動10周年を記念して制作され、7月に初放送されたもの。特別な会場、クレーンライトや紗幕を使った特別な演出、さらにはゲストとしてSalyuを迎えるなど、「オリジナルライブ」だからこそ実現した、貴重なプログラムとなっている。そこで、過去にもTKのMVを多数手がけ、今回監督を務めた映像作家の丹修一と、WOWOW制作局音楽部プロデューサーの島本時を迎え、撮影の裏側について話してもらうとともに、コロナ禍における「オリジナルライブ」の意義についても語り合ってもらった。(金子厚武)
目の前でどんどん楽曲が変化(へんげ)していく
――WOWOWオリジナルライブとしてTKさんのライブを制作することになった経緯を教えてください。
島本時(以下、島本):音楽部に来て2年目くらいのとき、まだWOWOWが放送していないアーティストを調べていたら、凛として時雨がいることに気付いて。その後すぐに事務所の方と打ち合わせのお時間をいただいたのですが、まず一言目に「難しいかも」って言われたんです。そもそも凛として時雨はライブ映像作品を出してなくて、映像にすごく慎重なんだろうなっていうのは伝わってきました。そのとき「今度ボーカル(TK)のソロがあるので、よかったら見に来てください」とお誘いいただき、スタジオコーストに伺いまして、一曲目で「TKさんソロかっこよすぎる……時雨はもちろんだけど彼のライブも放送したい」と思ったのが始まりです。
――それくらい衝撃的だったと。
島本:はい。一曲目の「Showcase Reflection」で鳥肌が立ったのは今でも覚えています。衝撃的にかっこよかったです。それからTKさんのマネージャーさんとは年齢が一緒だったこともあり仲良くさせていただき、定期的にライブにお邪魔させてもらうようになりました。そのうちTKさんにも顔を覚えていただいて。ただ、TKさんとしては「映像はちょっと」という想いが強く、マネージャーさんと「いつになりますかねぇ」と終演後に必ず話していました(笑)。そうして数年経ち、コロナ禍となった中、「TKさんが配信ライブをやる」という情報が入ってきたんです。TKさんが映像に少し前向きになり、しかもソロ活動10周年、このチャンスを逃すと次はないと思い、急いでマネージャーさんと打ち合わせをしました。そこで「オリジナルライブどうですか?」とTKさん側から提案していただき。4年の年月を経てようやく企画が動き始めました!
――監督を丹さんが務めることになったのは、どういった経緯だったのでしょうか?
丹修一(以下、丹):僕はTKさんから直接電話で連絡をもらって、「ちょっと急なんですけど、一緒にやりませんか?」と言われたので、「喜んで」って。まだ島本さんに会う前だったと思うんですけど、はじまりはそこですね。
――丹さんはこれまでもTKさんのMVを多数手がけられていて、信頼関係が構築されていたわけですよね。
丹:最初に撮ったのは凛として時雨のMVだったんですけど、クリエイターとして彼との距離が近づいたのは、ベルリンのハンザスタジオに一緒に行ったときだと思います。そのとき2曲のMVを撮って、レコーディング中もずっと近くで撮影してたんですけど、あの一連の時間で、TKさんが持つクリエイションのコアに触れた気がして、そこで響き合うものがあったと僕は思っていて。ま、勝手にですけど(笑)。だからこそ、今回また声をかけていただけたのは本当に嬉しかったです。
――TKさんのアーティストとしての魅力、ライブの魅力について、お二人はそれぞれどのように考えていらっしゃいますか?
島本:「とにかくすごい」っていうのが第一印象ですね(笑)。まずギターボーカルであの曲をやるってすごすぎますよね。自分の中に持っている世界観をソロと凛として時雨でしっかり分けて、ここまで表現できる。本当に天才なんだろうなって思います。何よりライブパフォーマンスの迫力は初めて観たらみんな衝撃を受けるんじゃないでしょうか。
丹:今回初めてリハーサルを観させてもらったんですけど、目の前でどんどん楽曲が変化(へんげ)していくんですよね。煙が空中にモコモコって広がっていくみたいな(笑)感じで曲の様子が瞬時に変わっていくんです。本当にすごかったですね。TKさんはバンドの中でコンダクターの立場で、彼が中心になってイメージが提案され、各メンバーがそれを受け取り、揉んで、“それってこういうことかな?”と、出てきたものがもうすさまじく変態していて。それがメンバー間で何往復も投げあわれるんです。何度も何度も同じ小節やパートを練りまとめ、目指す楽曲に近付けていく。楽曲たちが目の前で豹変していくそんな様にびっくりして、「毎回こういう作業してるの?」って聞いたら、「大体毎回こんな感じです」と(笑)、すごいなって。
島本:尊敬の意を込めて、凝り性の極みみたいな人だと思うんですよね。ちょっとでも気になったら、自分が納得するまで続ける。1フレーズを何時間かけてでも直すような人だと思います。リハーサルでの楽曲アレンジ作業でそう実感するシーンが幾度もありました。
丹:プログラムの最後の仕上げをするときも、納品ギリギリまでやりとりをしました。映像を送ると、「音をちょっと変えたので、これだとここがこうで……」って返ってくる。そういうやりとりを10回どころじゃなくして。ここまで映像を理解し拘るミュージシャンとのコラボレーションは、本当に面白かったですね。
――ライブの内容に関しては、どのようなアイデアからスタートしたのでしょうか?
丹:まずTKさんと一緒に打ち合わせをして、アイキャッチになるような面白い場所でやりたいという話を受け、じゃあライブだけどお客さんは入れないわけだから、ビジュアル的に強いところを探しましょう! ということで、僕が気になる候補をいくつか挙げて、最終的に河口湖のステラシアターになったんです。客席がすり鉢状になっていて、上の方にいるお客さんにも舞台上の生声が届くように設計された場所で、パンって手を叩くと、すごく響くんですよ。客席の形状が面白いというか、ミニマルだけど強さがあるので、あの造形が生きるように正面を決めました。だからTKさんは客席に背を向けて演奏してるんです。
――なるほど。
丹:あとは「動く光の中で歌ってもらいたい、演奏してもらいたい」っていうのが僕の頭の中にずっとあって。本当はドローンライトとかを使いたかったんですけど、あれは音が出ちゃうので、同録だと厳しい。そこでクレーンの先にライトをつけて、振っているんです。「光と影」をテーマに世界観を作ったので、それを普通のライブだとできないようなセットでどう構築しようか……。そういうことを考えながら企画し撮影をしました。
――クレーンライトを使った撮影というのは、どんな様子なのでしょうか?
丹:リモートで、コンピューターで制御するライトもあるんですけど、それはすごく高価なので、今回はクレーンにライトをつけて、それを2機作り、クレーンオペレーターの方に手動で動かしてもらいました。リハで数パターン動きを作って、あとは本番中に指示を出し、動かしてもらっています。なので、すごくアナログなやり方なんですけど、それでライブ感が出た部分もあるかなって。
――映像の中にはスタッフさんも映り込んでいて、臨場感を醸し出していました。
丹:その場の熱量みたいなものを切り取りたかったので、あえてスタッフも映り込むようにしました。カメラを載せるのではなくライトを載せて、ということでしたから最初はクレーンチームは「?」な感じだったんですけど(笑)、リハで何度か練習しているうちにそれぞれの楽曲にマッチしていきました。クレーンライトの動きの速さ、振り幅等でバリエーションを作っています。