特集「演じること、歌うこと」

峯田和伸、野田洋次郎、井口理……本職ではないからこそ醸し出す味わい 映画・ドラマで活躍するミュージシャン

「『色即ぜねれいしょん』(2009年)で峯田さんが海に向かって走り出すシーンがあるんですけど、あんな走り方誰にもできないんですよ。なんか『リング』(1998年)の貞子みたいに4本足でバーっといくみたいなケモノ感。ああいうことは役者であればあるほど、難しいことだと思うんです」(書籍『ドント・トラスト 銀杏BOYZ』)

 俳優・菅田将暉は、銀杏BOYZの峯田和伸の芝居の魅力についてこのように語った。俳優は何度でも同じ演技ができる。菅田はそういった再現性について「昔に比べれば、役者はみんなうまくなっているんじゃないか」としながら、一方で「でも『リアリティを出したい』と思っている役者にしたら、こういった再現性みたいなものって実は面白くなくて。多少荒れたとしても、峯田さんのような演技のほうがリアリティがあって良いんですよね」と、ミュージシャンが俳優をつとめる際に醸し出す味わいは、本職である俳優にはないものだという。

 

 近年、注目を集めている“ミュージシャン俳優”。とりわけロックミュージシャンたちの活躍が目立つ。その良さは、台詞回しひとつをとって見ても、ただならぬ説得力が帯びる部分。俳優を本職とする表現者ほどなめらかな言い回しでないにしても、鑑賞者に「この人が言うなら、そうだよな」と納得させる重みがある。それはやはり、菅田が言う「リアリティ」に起因しているのではないか。

 彼らが普段歌っている曲には、必ずどこかに“自分”が込められている。怒り、悲しみ、たどってきた歴史など。ミュージシャンとして上がるステージ上ではそういった自分のすべてを曝け出す。筆者はかつて、映画にも多数出演している頭脳警察・PANTAにインタビューした際、演技から生々しさを感じると伝えたところ、彼は「だって嘘のつき方が分からないからさ」と答えた。その言葉は、“ミュージシャン俳優”全般に当てはまる気がした。

 映画『アイデン&ティティ』(2003年)の峯田は象徴的だった。劇中の峯田からは鬱屈としたものが漏れ出ていたが、それは撮影当時、青春パンクバンド・GOING STEADYのメンバーとして活動していた彼のキャラクター性そのものだった。以降は映画、ドラマ、舞台などで俳優としても引っ張りだこに。ミュージシャンが俳優をつとめるケースはそれまでも国内外で多々あったが、2000年代以降の日本に限れば峯田は代表的存在で、その影響力は2010年代に入ってからも絶大。近年の“ミュージシャン俳優”を語る上でも、峯田については触れておかなければならない。

 最近“ミュージシャン俳優”としての説得力をもっとも実感させられたのが、12月17日公開の映画『私はいったい、何と闘っているのか』に出演している、KEMURIの伊藤ふみおだ。公開中の作品とあって詳細は避けるが、彼が後半のある場面で登場し、鑑賞者の背中を優しく撫でるような色っぽい声を発した瞬間、安田顕演じる主人公の心のなかの引っかかりが解けていく。恋愛において「こいつが相手だったら勝てるはずがない」と全面降伏させる威力を持つ。作品的にはヒールな役回りだが、「彼には、彼なりの苦労があったんだ」と思わせる、人生の深みがあるのだ。まさに伊藤にしかできない芝居となっている。

映画『私はいったい、何と闘っているのか』予告編【2021年12月17日公開】

 2010年代の“ミュージシャン俳優”で飛躍が目覚ましいのが、RADWIMPSの野田洋次郎だ。2015年、俳優デビューとなった主演映画『トイレのピエタ』でさまざまな映画賞において新人賞を獲得。NHK連続ドラマ小説『エール』(2020年、NHK総合)では流行歌を作る作曲家・木枯正人役で、実際の彼とシンクロする部分も多かった。また、映画『泣き虫しょったんの奇跡』(2018年)での演技も実に素晴らしかった。主人公の棋士・しょったん(松田龍平)の宿敵に扮し、「しょったんの弱点は、勝つことに慣れてないこと」という台詞で、挫折を繰り返しながらプロを目指すしょったんの背中を押す。ライバルであり盟友というもっとも重要なポジションを担い、話を盛り立てた。前述した“台詞の説得力”とは、まさに同作での野田のことである。

『泣き虫しょったんの奇跡』予告編

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