森七菜が明かす、新海誠監督の“言葉”に魅了された理由 映画『天気の子』から新曲「背伸び」実現に至るまで
この夏に二十歳の誕生日を迎えた森七菜がYOASOBIのコンポーザーとしても活動するAyaseがプロデュースを手がけた「深海」からたった2カ月という短いタームで、新曲となる配信限定シングル「背伸び」をリリースした。本作の作詞を手がけたのは、彼女がヒロインの天野陽菜役を務めた映画『天気の子』の新海誠監督。森七菜の「監督の言葉を歌いたい」というラブコールを受け、新海誠監督による作詞が実現した経緯などを聞いた。(永堀アツオ)【記事最後にプレゼント情報あり】
新海誠監督にリクエストしたのは「今、私に歌わせたい曲」
——まず、8月31日に二十歳を迎えた心境から聞かせてください。
森七菜:特に実感なく過ごしてます(笑)。
——(笑)。二十歳になったなと感じるような出来事は?
森七菜:母が私の生まれ年のワインをとっておいてくれたので、それを飲んだ時くらいですかね。なんか、大人な味だなって思いました。
——九州出身の方はお酒に強いイメージがありますよね。
森七菜:どうですかね。次、どこで大人を感じようっていうところですね。
——改めてご自身の10代を振り返るとどんな日々でしたか。
森七菜:怒涛の10代でしたね。家族の都合でいろんな引っ越しがあったり、この仕事を始めて、大分と東京を行き来するようになって、高校を卒業して上京して……。いろんなことがパパッと決まって、怒涛だったなと思いますけど、とりあえず、20代はとにかく、元気で病気なくいられたらいいなっていうのが一番ですね。
——誕生日の10日前には前作「深海」がリリースされました。実際に皆さんに聴いてもらって感じたことはありましたか。
森七菜:「深海」のテーマをAyaseさんに出すときに自分の気持ちをどこまで入れていいのか迷ったんですね。これを感じているのは自分だけじゃないかって思ったこともあって。でも、やっぱり、みんなが抱えていたことだったんだって共感してくれてる人の感想を読んでわかったので、Ayaseさんとこういう曲を作れてよかったなって感じましたね。
——前回のインタビューと少し重なるかもしれないですが、その“テーマ”というか、森さんが感じていた“これ”とはどんなものですか。
森七菜:なんていうんだろう……この状況でのもどかしさとか、どこにも行き場のない寂しさをテーマにしていて。さらに、その思った相手の、その先のことまで考えた曲になってたんですね。離れているけど、「今、どうしてるかな?」とか、「変な気持ちの波に飲み込まれてないかな?」とか。ただ、私が寂しいっていうだけじゃなくて、相手がどんな気持ちでいるのかな? というところまで思ったこの曲を出した時に、みんなも同じことを考えているんだって感じることができて。
——ご自身が今、歌いたい“自分の気持ち”を込めた曲でしたが、その気持ちは“君”の方に向かってたんですよね。
森七菜:はい。なんという言葉にしたらいいかわからないんですけど、会えない“君”のことを思うことで、みんなも先のことまで考えてるんだなって感じたんです。
——その“先のこと”というのは?
森七菜:いつか会える日っていう未来のこともそうですし、その人が生きている、今。そこで何が起こってるかは計り知れないけど、自分が願うことで何かが変わったりとか……変えるような必要のない世界で生きていてほしいっていう願い、ですかね。その人を思うことに、必ず一緒についてくる気持ちの部分に共感してくれた人が多かったので、そういう要素を入れてよかったなと思いました。
——リリース後、YOASOBIさんと友達になりましたね。
森七菜:そうですね(笑)。Ayaseさんと友達になれたのかはわからないんですけど、ikuraちゃんとは連絡先を交換して。「一緒に餃子を包みましょう」っていう話をしました。
——森さんがお二人のラジオに出たり、YOASOBIが森さんのイベントに出演されたりしていました。
森七菜:YOASOBIのお二人とこんなに交流できると思っていなかったのでびっくりなんですけど、すごく心のある方達だなと思って。曲を書いてくださっただけでも、本当に嬉しくて。なのに、配信イベントでお誕生日のサプライズに来てくださって。ikuraさんなんて、「私は関係ないよ」って言ってしまえば終わることなのに(笑)、わざわざ来てくださったんです。私の「好き」っていう気持ちに応えてくださったり、いろんなところで優しさが見えて。とても嬉しかったですし、本当に感謝ですね。
——そこから2カ月で早くも新曲「背伸び」がリリースされます。このスパンはどう感じてますか。
森七菜:短いなって思います(笑)。この前、ミュージックビデオを撮ったばかりなのに、もう次のを撮るのかっていう気持ちですね。ただ、スパンは短いけど、今回の曲もちゃんと大切にしていきたいなと思ってます。「深海」は歌の練習をしたり、リハーサルをたくさんやったりしたので、そこで一時期燃え尽きを感じそうになったところはあったんです。「背伸び」も新海(誠)さんに想いを伝えて書いてもらった曲なので、燃え尽きで終わらせていい曲ではない。下手したら、時間の波に飲み込まれて、流れていきそうな気の抜け方をしまいそうなんですけど、もう1回気合いを入れて頑張らなきゃなって思ってます。
——新海さんに歌詞をお願いした経緯を教えてください。
森七菜:一昨年、お仕事の人たちの集まりではあったんですけど、そこでお会いして。みんなリラックスして話している中で、急に「歌詞を書いてほしいんですけど」って言ってお願いしました。
——一昨年というと、映画『天気の子』(2019年7月19日)が公開された後で、デビューシングル『カエルノウタ』(2020年1月15日)がリリースされる直前ですね。
森七菜:はい。新海さんの言葉や描く世界観にすごく魅了されたので。新海さんの書く歌詞を見てみたいなっていう好奇心が強く湧いたんです。あわよくば私が歌いたいと思って(笑)、ダメもとでお願いして。ちょっと困ってましたけど、その場で、「やってみる」って言ってくださって。監督もお忙しいから、少し時間を経て今回実現して、とっても驚いてます。
——森さんが魅了された新海さんの言葉や世界観というのは?
森七菜:美しいんですよね、とっても。世界が何倍も輝いて見えるんです。例えば、“雨粒”という言葉1つにしても、見え方や、輝き方が違ってくる。特別な力を持ってる方だなと思っていましたし、何より言葉が好きなんだなっていうのを感じてて。あと、次の言葉を早く聞きたくなるんですよね。脚本や小説はもちろん、お話ししていても感じていて。また、新海さんの映画はどこか影があるのも好きで。私が携わった『天気の子』も、新宿のダークでディープな街が舞台になっていたり。そういうものが混ざって初めて、私は信じられるので、そんな魅力を持った監督にどうにかお力をお借りできたらなと思ってました。
——『天気の子』の公開は3年前になりますが、ご自身にとってどんな経験になっていますか。
森七菜:すごく大事で、かけがえのない経験だったなと思います。『君の名は。』の次の作品で、私は初めて声優に挑戦するっていう、すごいプレッシャーがあって。そこの中で戦うメンタルも養われたし、新海さんにたくさん練習に付き合っていただいたことで、自分の声がもっと好きになれました。それは、歌を歌うためにも、お芝居でも、ナレーションでも、今の私に生きていることだし、その基盤を作ってくれたのは新海さんなので、とっても感謝していますね。
——「カエルノウタ」でのシンガーデビューや『朗読ジャーニー』(脚本家・坂元裕二が詠んだ言葉を満島ひかりと森七菜が読む朗読会)への参加にもつながる原点ですよね。ご自身の声に注目が集まっていくことはどう感じてましたか。
森七菜:自分の声があまり好きではなかったので、最初はびっくりしましたけど、求めてくださる人がいるたびに、もっとやりたいと思って。だんだん、前よりは好きだと思うことが増えていっていますし、機会をいただければ、もう一度声優をやってみたいなと思っています。
——声の演技も楽しかった?
森七菜:楽しかったです。実写作品と違うお芝居の仕方なので、すごく難しかったですけど、なんとも言えないスッキリ感があるんですよね。絵と声がパッとハマった時の達成感はとってもスカッとして。自分に求めるハードルも徐々に高くなっていったし、それにちょっとずつ反応する力もついた。難しさは変わらないけど、すごくいい経験だったなって思いますね。
——今回は新海さんにどんなものを求めましたか。『天気の子』の陽菜とは関係なく?
森七菜:関係なく、ですね。私からは特にこういうものを歌いたいですとは伝えてなくて。新海さんは私の声をよく聞いて、私自身のことも捉えてくれた方だったので、「今、私に歌わせたい曲を書いてほしい」ってお願いしました。
——それは、難しいテーマですよね。
森七菜:はい(笑)。自信過剰なテーマにも聞こえると思うんですけど、新海さんは私が言っていることをわかってくれると思いましたし、今まで一緒に作品を作ってきた信頼関係の上でのお願いでした。
——完成した歌詞を受け取ってどう感じましたか。
森七菜:新海さんの素敵な部分がたくさん詰まっていて嬉しかったのと、新しい役を託されたような気持ちもして。ワクワクしましたね。
——一人称が“僕”になっています。
森七菜:私も一度、“僕”からの目線で歌ってみたかったんですね。それは1つの希望として伝えました。『天気の子』は観てくれた人が憧れてくれるような……簡単な言い方で言うと、可愛いなって思うような女の子を求めていったんですけど、そことはっきりと違うものが欲しかったんですね。それに、私は声が低いので、もし“僕”で歌ったらどうなるのかっていう好奇心がある、ということは新海さんにお伝えして。だから、とてもしっくりきましたね。“僕”と言っているけど、男の子か女の子かわからない。メロディラインも含めて、曖昧で中性的な部分が面白いなと思いました。
——「深海」の主人公よりは若そうですよね。
森七菜:そうですね。男の子とか女の子っていうイメージですね。
——〈ねぇ〉や〈君〉という呼びかけには『天気の子』との共通項も感じていました。
森七菜:本当ですか? でも、全然関係はしてなくて。私の中で想像したストーリーがあるんですけど、注目したのはそこではなくて。新海さんだったら、ここにどんな絵を描くかなと思ったり、これがセリフだったら、どういう言い方が好みかな、と思ったり。新海さんの世界観に寄っていくというか、新海さんが好きなのはどんなものだろう、と思いながら歌っていますね。一節一節が持つニュアンスとか、意味を膨らませながら歌うようにしました。
——どんな絵が思い浮かんでいましたか。
森七菜:聴いてくれた方に想像して欲しいので、あまり具体的なイメージはお伝えしたくないんですけど、新海さんの絵で浮かんでますね。私は、“新海誠監督最新作!”のような歌だなと思いました。例えば〈あまやかな息〉とか、〈灰色の風〉とか、1行1行に綺麗な絵が浮かぶ。そういうところが想像力を掻き立てられるし、この“僕”が“君”をどれだけ愛おしく感じているのかがわかる歌詞だなと思ったので大事に歌ってました。