ジェニーハイの進化が止まらない 豪華ゲストと共に繰り広げた圧巻の初アリーナ公演
最高だった。ジェニーハイというバンドのおもしろさ、かっこよさ、自由さ、さらにはその楽曲に潜むエモさや切なさまで、すべてをフルボリュームで見せつけるアリーナワンマン。ぴあアリーナMMは最初の「ジェニーハイのテーマ」が鳴り始めた瞬間から最後にメンバーがステージを去るまで、めくるめくジェニーハイワールドに包まれた。
当初は2月7日に東京・国立代々木競技場第一体育館で行われる予定だった、この『アリーナジェニー』。会場を変えてついに実現した。そのあいだにジェニーハイは2ndアルバム『ジェニースター』を作り上げ、さらに進化した姿を見せつけた。この日のライブもその『ジェニースター』の楽曲と世界観を基調にしたもの。ステージにはコンビニの店舗を模したLEDがあしらわれ、メンバーはコンビニ店員の制服をイメージしたシャツを着用して登場。客席には9月に開催されたポップアップストアで抽選販売されたそのシャツを着ているファンも見えた。
1曲目の「ジェニーハイのテーマ」で川谷絵音(Produce/Gt)、新垣隆(Key)、くっきー!(Ba/野性爆弾)、中嶋イッキュウ(Vo/tricot)、小籔千豊(Dr)とマイクをリレーすると、曲終わりでは新垣が他のメンバーの後ろに隠れながら素早くマスクを着け消毒スプレーを手にポーズを決めた。そしてそれぞれが楽器を持ってニューアルバム収録曲の「夏嵐」へ。美しいメロディとイッキュウの儚げなボーカルが瞬く間に空気を変えていく。この変わり身の早さ、あるいは笑いとガチのミルフィーユのごとき展開、早くもジェニーハイである。「ライブハウス ぴあアリーナへようこそ!」とくっきー!が挨拶をキメると、「ランデブーに逃避行」が爽やかに鳴り響く。ステージからはまっすぐ花道が伸びていて、イッキュウはそこをゆっくり歩きながら客席を見回し、笑顔を見せる。
「コクーンさん」を経て披露された「ダイエッター典子」ではカラフルなパンツを穿いたダンサーたちが登場、エアロビ風のダンスで客席を盛り上げていく。このダンサーたち、その名も「典子」というらしい。その「ダイエッター典子」に連なる典子サーガ第2章「バイトリーダー典子」でも、典子たちは大活躍だ。この曲の前にはイッキュウの「今までにいくつもバイトを経験してきました。しかしたったの一度もバイトリーダーになれませんでした……」と告白。それを受けて演奏を終えた後にはバイトリーダーの経験があるお客さんに手を挙げてもらうという流れに。少なかったな……。
ライブはここでいったんバンドパートからラップパートへ。楽器を弾いても弾かなくてもいい、踊ったり踊らなかったりしてもいい、というフリーフォームさ。言葉を変えればこのメンバーでやればなんでもOKという奔放さがジェニーハイというバンドの大きな強みであり魅力だが、5人のキャラがいちばん伸び伸びと発揮されるのがこれらのラップ曲である。「ジェニーハイラプソディー」から、花道の先のセンターステージに全員集合しての「愛しのジェニー」。川谷はこの曲について「恥ずかしいんだよな。最後まで笑わずに歌えたことがない」と言っていたが、それを完全にフリにしてしまうくっきー!の「ジーセスぴーん!」(「背筋ぴーん」の業界用語バージョン)と新垣の裏返った声は川谷じゃなくても笑ってしまう。
楽器を演奏しているときはくっきー!も小籔も真剣そのものの表情ーーときどきスクリーンにアップになる、目を瞑って一心不乱にスティックを振る小籔の表情は本当にかっこいいーーだが、ひとたびマイクのみになるとお笑い芸人の本気を出してくる感じはさすがである。さらにメインステージに戻って「ジェニーハイボックス」。この曲の〈これくらいの5人のバンドに/才能と才能をちょっと詰めて〉〈目立ーつ見た目で良い曲あって〉という「おべんとうばこのうた」をサンプリングした歌詞、まさにジェニーハイだよなあと思う。良い曲あって、というところが重要なのだ。川谷の作る楽曲に対する圧倒的な信頼感が、このバンドのやりたい放題ぶりを可能にしている。事実、ここから展開していったライブ後半戦は、まさに「良い曲」のオンパレード。ジェニーハイの音楽的豊かさを自ら証明するようなものとなっていった。
アタックの効いたアンサンブルが気持ちいい「グータラ節」から、ルービックキューブが特技の芸人・門野鉄平(パーフェクト・ダブル・シュレッダー)が登場してセンターステージで生ルービックを披露した「ルービックラブ」へ。せっかく揃えたキューブを揃えたそばからイッキュウが笑顔で手に取り崩していく。また、同じ吉本興業の芸人なのに門野のことを「聞いたことがない」と話す小籔とくっきー!、揃いも揃ってみんなドSである。ここでメンバーは着替えのためにステージを降り、幕間ではロバートの3人が登場してコントを披露。川谷がのちに語ったところによると「バックステージでもスタッフが仕事を忘れて観ていた」ほどの盛り上がりで会場をさらに温めた。