羊文学、メンバー3人が向き合って鳴らしたバンドの音 『Hidden Place』ファイナル公演レポ

 『羊文学 Tour 2021 "Hidden Place"』のファイナル公演が、9月24日に東京・USEN STUDIO COASTにて開催された。本ツアーは昨年12月発売のメジャーデビューアルバム『POWERS』のリリースを記念して企画されたもの。新型コロナウイルス感染拡大の影響による公演延期を経て、満を持しての開催となった。来場と配信のダブル体制で行われた本公演。今回は配信で観た視点でレポートする。

 アジアンテイストなラグが敷かれ、植物やランプが飾られたステージに姿を現した羊文学。その少し特殊なステージセットにより、彼女らがもたらす独自の雰囲気が画面越しにもダイレクトに伝わってくる。そんなツアーファイナルはアルバム『POWERS』でもトップバッターを飾っている「mother」で幕を開けた。塩塚モエカ(Vo/Gt)が繊細ながら芯のある美しい歌声を響かせることで一瞬にして会場を羊文学の色に染めあげ、次曲の「ブレーメン」へと繋いでいく。羊文学のライブ会場では他のロックバンドと比較するとリスナーが手を挙げたりクラップをしたりする場面は多く見られないが、「声は出しちゃダメだよ、ボディで楽しんで」(塩塚)との言葉通り、フロアのリスナーたちの身体が動いている様子がたびたび画面に映し出され、目立った動きはなくともそれぞれが音に身を委ねて楽しんでいることが伺えた。

 その後も、軽快なリズムによるポップな「変身」や、曲名とは裏腹に体を揺らしたくなるナンバー「踊らない」を続けてドロップ。リズム隊を務める河西ゆりか(Ba)とフクダヒロア(Dr)は淡々とした落ち着いたプレイを見せつつも、しなやかで心地の良いビートを鳴らす。その後のMCでは本公演のライブ配信も行っていることを改めて告げ、塩塚がカメラに向かって手を振り、「配信の人はマンションの下の階の人に迷惑にならない範囲で楽しんでもらえたらと思います」と、画面の向こうのファンにもメッセージを送った。

 「『POWERS』から曲を演奏しようと思います」という言葉の後に披露されたのは、河西とフクダのコーラスを含めた3人の歌声が神秘的な「砂漠のきみへ」。歪みを効かせたギターサウンドのアウトロで曲を締めると、そのまま「おまじない」へと繋げていく。真っ直ぐに前を見つめながら〈おまじないちょうだい〉と歌う塩塚は何かを訴えているようで、どこか切なさを感じると同時に、その姿から目をそらせなくなるような求心力があった。セリフ調で語られる歌詞が力強い印象を残す「人間だった」の後に披露された「powers」では、〈両手を高く広げ〉という歌詞のところでリスナーが歌詞どおり両手を高く上げる場面も。塩塚がそんな光景を見て嬉しそうな笑顔を見せたのも心に残った。

 フクダのドラムはスネアを低くすることで前から見えないのがこだわりだという秘密がMCで明かされたあとは、子供たちのために書いた曲だという「ハロー、ムーン」をプレイ。ステージから伸びる白いライトの光も相まってか、フロアのミラーボールが月に見えた気がした。そんな幻想的なナンバーのあとは、クラッシュシンバルの連続ビートが曲全体を支える「ロックスター」、アグレッシブなギターリフが気分を高揚させる「Girls」、リスナーのクラップと共にメロディを奏でる「涙の行方」と次々と曲を畳み掛けていった。

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