AKB48の“大逆襲”は成功なるか? 『乃木坂に、越されました』総合演出に聞く、ひろゆきのMC起用理由や今後の方向性
番組タイトルが示すもの
――先ほど「もうちょっと闘争心があったら」と話していらっしゃいましたね。今のAKB48は「世代交代がうまくいっていない」などと言われていますが、その辺りについてメンバーの危機感はどんな風に受け取っていますか。
高橋:あくまで僕が感じたことなのですが、「自分たちもどうしたら良いのか分からない」という空気が漂っている気がしました。個々に緊迫感がないわけではなく、悩みも抱えている。ただし89人全体で共有する緊迫感はないのかもしれません。それは時代的なものもある。AKB48は「会いに行けるアイドル」だったけど、新型コロナの影響で今までのような活動ができなくなった。今までだったら会えたことによる印象をもとに、そこから輝きを放つメンバーを『総選挙(AKB48選抜総選挙)』で選ぶこともできた。ただ、AKB48の人気の根幹を成していた価値観が変わってしまった。これはなかなか大きな課題。
――厳しい現実を突きつけられている、ということですね。
高橋:コロナ時代に何ができるんだ、ということ。誤解を恐れず言いますが、89人のアイドルって破綻している部分が多いと思います。もちろん89人の強みもあります。ただ、5人、10人のグループに比べると相当な制約もある。誰を目立たせるかも難しいし、グループ全員で行動ができないからバランスも取りづらい。『総選挙』だとその人数の多さが生きるけど、今のこの時代を乗り越えるのはかなり大変だと感じます。一方でひとりの番組制作者の立場で見ると、その課題にどう立ち向かうのか興味があります。番組に関わる全員が「AKB48をもう一度、輝かせること」で意見は一致していますし、「テレビ東京で頑張って、そしてまた『紅白歌合戦』に出よう」が目標なんです。
――だからサブタイトルが「テレ東からの大逆襲」なんですね。ただ、サブタイトルも発表当初は「崖っぷちAKB48の大逆襲」でしたよね。なぜ変更になったのですか。
高橋:現在のサブタイトル通り「色々あって」なんです。紆余曲折と思惑がそれぞれ違う、そういうところがAKB48の現状なんだろうなって。だけど先ほど話したように目指しているところは同じ。「もう一度輝きたい」という気持ちは確かです。テレ東としても、そういうゴールが迎えられたらおもしろいなって。たどる道の方法論はみんな違います。だから「色々あって」なんです。
――当初から、自虐や毒をまじえたタイトルにしようとしていたのですか。
高橋:僕としては「このタイトルが良いな」というものがほかにもありましたが、関係者全員で「これにしよう」と。でも「大逆襲」はさすがにハードルを上げすぎかもしれません(笑)。とは言っても、最終的にはそういうテーマに向かっていくのは確かなこと。メインタイトルに『乃木坂』という記号を持ってきたのが良いのかどうかは分からない。だけど、決して間違ってはいない気がします。AKB48の公式ライバルであり、前座もやっていたけど、今は乃木坂46を含め坂道シリーズの方が世間的に支持率が高い。AKB48がそこに挑んでいくことがエンターテインメントになる。タイトルでハードルを上げると番組内容は苦しむものなんですけど、とにかく今は頑張るだけですね。
無人島企画には「迷走している」と辛辣な意見も
――番組内容について、一部ファンからは賛否両論も出ています。たとえば「無名メンバーを無人島送り」という企画では、Twitterの公式アカウントで3人のメンバーの名前を挙げて「無人島でずっと動画作りをする企画にふさわしいのは誰か」とアンケートをとっていました。視聴者からは「企画が迷走している」などの反応があり、ひろゆきさんも「行き当たりばったり」とツイートしていました。
高橋:辛辣なご意見も自分のところに届いています、このTwitter、あくまでもOAに先行して出したものですので、OAを見ていただければ、実は「無人島予選の敗者復活がTwitter」というのがわかる……はずでした。が、これもいろいろあって、予選を通過して無人島に行けるはずだったメンバーさんで、行ける人がほとんどいなくなってしまったため、無人島企画自体が中止となりました。コロナ時代に89人、そしてその中でも劇場公演などアイドル活動を 続けるアイドルグループと、番組を作るとはどういうことなのか。丁寧に先の先を見越したつもりでも、予想外のことが次々起きる。OAを維持するのが、精一杯というのもリアルなところです。 企画が変遷していくその過程はドキュメンタリーそのものだと思うし、そうした中で頑張るメンバーたちを、極力安全な企画で応援したい。無人島も本当は行ってしまえば、メンバ一たちが隔離されて思いっきり、ファンに笑顔を見せながらロケできるという狙いのものでした。この時代、89人というアイドルの困難を抱えながら、なんとか今までとは違う形で輝かせたい。AKB48のメンバーも失敗をしながらいろんなことを乗り越えていくは ず。バラエティとしてのドキュメントみたいな感覚です。難しいところはありますが、頑張っていきたいと思います。
――そんななか、高橋さんから見て「このメンバーはハネそう」と予感がするメンバーはいますか。
高橋:まずすでに人気メンバーですけど、小栗有以さんはすごいですね。センターをつとめる理由も納得できます。事細かい所作にプロ意識を感じます。あと田口愛佳さん。彼女はそれほど運動が得意そうには見えなかったけど、企画のために体をたくさん動かしてくれて、やる気や取り組み方が素晴らしかった。小林蘭さんも各企画への食いつきがとても良いです。小林さんは、番組開始前のメンバーへの面談のとき「選抜メンバーに選ばれないとき、『なんで?』という気持ちが常にある」と言って、悔し泣きしていました。そういう感情を持っている人は印象に残ります。あくまでこの番組は「自分がこの企画をやりたい」という立候補制。そのなかから、魅力を発揮する人が出てくるはずです。
――高橋さんはおもしろい番組を手がけてきましたし、そこへの信頼度は揺るがないものがあります。それでも今回は苦心しながら番組を制作しているように感じられます。
高橋:アイドル番組は初めてですし、これまでの自分のドキュメンタリー的なフィールドだけでは描けません。彼女たちが売れるために頑張ろうとするその努力には共感できるから、その部分を一生懸命、描いていってあげたい。あと、アイドル評論家・さやわかさんに「アイドル番組はアイドルがメイン、企画は添え物なんだ」と言われたことがあったんですが、確かに企画が前面に出過ぎるものは、ファンのみなさんも望んでいないのかもしれない。そのうまい塩梅を探っている状況です。コロナの時代のなか、彼女たちがアイドルとしてどのように活躍できるのか。その舞台作りをしていきたいです。
■番組情報
バラエティParavi「乃木坂に、越されました 〜AKB48,色々あってテレ東からの大逆襲!〜」
Paraviオリジナル「あなたはなぜ、アイドルになったんですか?」』
【配信】動画配信サービス「Paravi」で配信
【Paravi】https://www.paravi.jp
※Paraviでは本編の見逃し配信のほかに、Paraviオリジナルコンテンツ「あなたはなぜ、アイドルになったんですか?」を本編放送終了直後から独占配信。
【出演】AKB48メンバー
【演出】高橋弘樹
【プロデューサー】伊藤隆行 田中晋也 中村肇
【制作】テレビ東京 ビー・ブレーン
【製作著作】「乃木坂に、越されました」製作委員会
【番組公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/nogizakani/
【番組公式Twitter】https://twitter.com/akb48_tvtokyo
番組面談から生まれた 「AKB48妄想まんが部」公式Twitter:https://Mitter.com/AKB48_manga
※9月5日には配信イベント開催予定