yama、Adoらに続く新世代スターが誕生? 小説×音楽×イラストが連動したメディアミックスプロジェクト『FGA』の全貌

 ヨルシカやずっと真夜中でいいのに。、YOASOBI、yama、Adoなどを筆頭に、映像やイラスト、物語と密接に結びつくアーティストの活躍や、2000年代から続いているメディアミックス作品の根強い人気、そして『フォートナイト』や『マインクラフト』のようなゲーム作品からVRChatのようなバーチャル空間までを含めたプラットフォームの多様化によって、音楽エンターテインメントは大きな変化を迎えている。そうした今ならではの可能性を追求する試みのひとつとして、株式会社ハチロックスによる新時代アーティスト発掘プロジェクト『FINDING THE GREAT ARTIST PROGRAM』(以下『FGA』)が始動した。

コロナ禍、エンタメ業界に起きた価値観の変化

 このプロジェクトは、ハチロックスが今後継続的に続けていく予定のアーティスト発掘プログラム。通常のオーディションとは異なり、オーディション企画自体が小説や音楽、ビジュアル要素等と連動したメディアミックス形式の物語/エンターテインメントとなっている。ハチロックスの母体となる有限会社ワムハウスの代表で、様々な人気アーティストのライブに映像作家としてかかわる中村”なかむー”和明氏の書き下ろし小説『re-rendaring dawn(リレンダリングドーン) ~新世界より~』と、そこに登場する音楽、ビジュアル要素、そしてプロジェクトに参加するヴォーカリスト/クリエイターが、互いに影響を与えながら世界観を広げていくプロジェクトとなる。中村氏によると、このユニークな構想は、コロナ禍によって音楽業界をはじめとするクリエイターが打撃を受ける中で生まれたものだそうだ。

「ワムハウスはもう15~16年ほどコンサートやイベントなどライブエンターテインメントの分野で音楽にかかわってきましたが、コロナ禍でライブができなくなった昨年の2~3月以降、世界が一旦リセットされるような状況に直面し、エンターテインメントの形が変わっていく中で、会社としても僕自身としても、『今後何をしていこう?』と考える機会が生まれました。そこで、今自分の思う『これが面白い!』というものを形にしてみよう、と考えたのが、『FGA』立ち上げのきっかけでした。現在募集しているのは音楽のプレイヤーやクリエイターですが、プロジェクトとしては『まだ世には出ていないけれども才能を持った陶芸家が、物語からインスピレーションを受けて壺をつくってみました』ということにまで広がってくれてもいいと思うので、『FGA』自体も色んな表現者を含んでの呼称にしています。

 昨年2月以降の新型コロナウイルスの広がりや、緊急事態宣言を受けて、うちもすべての現場を一旦やめることになったんですが、僕らは当時WANIMAのライブの現場を担当していて、そこでアーティストと観客の距離感がものすごく近いライブを体験していたので、余計に『あの一体感を、もう2度と経験できなくなるかもしれない』という想いがありました。もしもワクチンが打ち勝って、コロナが普通の風邪になる未来がきたとしても、以前と変わらない形で知らない人とハグできるかというと、人によっては心理的に厳しい部分も出てくると思ったんです。ですが、そんな状況になったとしても、音楽やライブは絶対になくならないと思いますし、エンターテインメントは人が生きていくうえで必要な、人々を支えてくれるものだと思います。そこで、コロナが収まるのをただ待っているだけではダメだと感じて、音楽業界にかかわる人々=音楽業界の財産の流出を繋ぎとめたいという想いから、『僕が新しいものを立ち上げるから、それまで業界を離れないでほしい』とネットに文章を投稿することにしたんです。それをきっかけに『FGA』のプロデューサーを担当しているスタッフがうちに入ってきてくれて、徐々にメンバーが集まる中で、『これなら新しいプロジェクトを形にできる』と、悶々としていたアイデアのピースがはまっていきました」(以下、発言はすべて中村氏)

『FGA』キービジュアル(イラスト:ざしきわらし)

 これまでライブエンターテインメントの仕事を続ける中で感じてきた、「ライブの興奮/価値」を、どうコロナ禍以降のエンターテインメントに繋げるか。中村氏の挑戦がはじまった。

「ライブの一番の魅力は、『共体験/共体感』だと思うんです。ついさっきまではお互いに全然知らなかった、別の方向を向いていた人たちが、ライブの2~3時間の間だけは同じ交差点に集まって同じものを経験し、またすぐにすれ違ってそれぞれの生活に帰っていく。その一瞬だけみんなが交わるあの感じが、ライブならではの魅力なんじゃないか、と思います。コロナ禍以降、それをどうやって今の時代でも楽しめる、安全なエンターテインメントにできるかを考えているのですが、中でも大きなヒントになったのは、僕自身がかかわった昨年のEGOISTの無観客ライブ『EGOIST LIVE on www. 2020』でした。僕はもともと、EGOISTのライブには初期から脚本や演出も含めてかかわってきましたが、このライブでは「原点回帰」をテーマにライブを準備して、「楪いのり」がひとりで歌っている姿が、「ギルティクラウン」という作品の世界観とバチっとはまったことで、ファンのみなさんにも非常に喜んでもらうことができました。そしてそこで、『これは映像でしかできない表現だな』と、リアルのライブとはまた違う可能性に、改めて気づくことになりました」

 同時に、ゲームなどを舞台にしたデジタル空間でのライブエンターテインメントにまつわる動きにも刺激を受けた部分があったという。中でも大きかったのは、昨年ゲーム作品『フォートナイト』内で開催され、開催期間中のユニークユーザーが2770万人を突破したことでも話題となった『Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical』。このライブでは、3Dアバターとなったトラヴィス・スコットがゲーム内の空間でライブを繰り広げた。

「『フォートナイト』でのトラヴィス・スコットのライブには、本当に衝撃を受けました。僕らは以前からVRの仕事にもかかわっていたので、ヴァーチャル空間でのエンターテインメントについても可能性を探っていたのですが、その中で、うちの女性社員の『HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を装着すると髪がぐちゃぐちゃになってしまうからつけたくない』という率直な意見を聞いて、壁にぶち当たった経験があったんです。ですが、『フォートナイト』でのライブはハードをつける必要がないにもかかわらず、コントローラー操作だけでも圧倒的な没入感があって、たった数分の中に、夢のような世界が広がっていました。また、その日その場に集まった、さっきまでは他人だった人々が一緒にエモートで盛り上がっている様子も印象的でした。より技術が進むと、完パケした映像の中に、後から入っていく体験もできるようになるでしょうし、最近VTuber事務所・にじさんじのライブにかかわる中でも、現場でのライブの楽しさを、また別の形で表現できる可能性も感じていました。そうして新しい形を追求することで、今後より安全にリアル会場でライブができるようになった際にも、生のライブの価値が上がっていくんじゃないかと思います」

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